第二百五十五話「運命の正体」
プツンッ――と、ピンと張った糸が切れるように意識が途切れた。この世界で何度も味わった、喪失感に包まれる感覚。唯一残るは脳内に刻まれた記憶のみ。無防備なこの身に容赦なくその情報が流れていく。良い思い出も、決して見たくない悪夢も、これまで吐き気がするくらい見てきた。
そして行き着く先には、必ず視界に冬の遊園地が映っていて――――
(あぁ……芽依の奴、無事に逃げ切れただろうか。皆、雛乃さんの禁忌魔法による酔いから覚めただろうか。亜瑠栖も恐らく今頃俺や皆を探しているだろう。……早く目覚めろ黒神大蛇。あいつが暴走する前にけりをつけなければっ……!)
【慌てるな、白神亜瑠栖は当分目覚めん】
「……!」
突如何者かが俺の心の声に返答してきた。それに驚いてふと身体を起こす。目を覚ませば白い霧で染まりきった森林が広がっており、目の前には黒のローブを纏ったもう一人の俺の姿があった。
【俺の力を一時的に手に入れたお前の本気の一撃を左胸に直撃させたのだ。簡単に目覚めてもらっては困る】
「……お前だったのか。あの刀に宿っていた声は」
【左様だ。お前が今の俺の依り代である以上、このように一つの夢を作らなければ、俺はお前の身から引き剥がされてしまうからな。本来人間は二つ以上の魂を持つことが出来ない。たとえそれが前世の存在だとしてもな。
だから『天鎖裂滅之八握刀』としてこの身を魂とは別の形で自ら封印した】
「……」
【そしてお前が『天鎖裂滅之八握刀』の力を解放させた事により、一時的に俺とお前の魂は一つとなった。意識を失う前までお前は今の俺と同じ格好を纏っていた。そして動きや技の威力から何もかも全て俺の情報に上書きされていた。……これが何を意味しているか分かるか? 黒神大蛇】
「さっぱり分からん。ただでさえ今そのものが非現実的すぎるというのに、魂が一つになったとか情報が上書きされたとか、脳が話に追いつかねぇよ……」
はっきり分からないと言われ、過去の俺は少し不機嫌そうな表情を浮かべながら両腕を組んで考える。
【ならば一言に纏めよう。要するに『運命はお前を暗黒神に戻そうとしている』という事だ】
「は……?」
【更に簡単に言うなら、過去と同化させようとしていると言ったところか。こうしている今も、お前が生きている世界の時が進むのと同時にお前は俺の力を取り戻している。だがそれはかつて俺が歩んだ『死の宿命』へと近づいているに等しい。そして今となってはもう雪が降り積もる季節――】
「おい、それって……」
この時、俺は奴の言っている事を完全に理解した。意識を失う直前に聞こえたあの言葉を主旨を理解した。そして次の瞬間、二人が見据えた未来が一致する――
「また遊園地事件が来るというのか……」
【再び遊園地事件が訪れる――】




