第二百四十五話「争奏・第四番Ⅰ〜決戦 其の壱 閃光と創核〜」
任務:千夜聖戦の勝利、エレイナ・ヴィーナスの奪還
遂行者:新生ネフティスメンバー総員、またそれに加担する者
犠牲者:0名
『廃無の惑星』テューレル アレクレッド城――
多少雲がかった夜空から無数の結晶がゆっくりと地面に落ちていく中、テューレルでは既に聖夜前日の時を迎えていた。
「――クリスマスイブ、だね」
『英姫』フィーナ・リル・テューレル皇女を蘇らせ、再び廃れたこの星を取り戻すために戦う『火星再革組織ヴァーチェ』の総長白神亜瑠栖は城のベランダの柵に左手を置き、降っていく雪達をじっと見つめていた。
「そろそろかな……」
そう言いながら右手から禍々しいオーラを纏う剣を召喚し、正面に切っ先を向ける。
「この剣の元飼い主さん――」
「――っ!!」
刹那、上空から一等星の如く光が輝き出した。そこから流星の如く黒髪の青年が亜瑠栖のいる場所へと滑空しながら刀を振り下ろした。
――凄まじい衝撃と音がアレクレッド城周辺に地響きをもたらす。
「やるねぇ、まさか上空から僕を瞬時に見つけるとは。流石は『黒き英雄』と言うべきかな」
「……余裕かましてるのも今のうちだぞ、アルスラーン・リル・テューレル」
俺がその名を白神亜瑠栖だと気付いたのは、約一週間半前の事――
◇
西暦2005年 12月17日 東京都足立区 地球防衛組織ネフティス本部
「『英姫』フィーナ・リル・テューレルか……」
「うん、そのフィーナって人が遥か昔の火星の帝国を立て直して統治させたすごい人らしいんだよねぇ……皇女になった頃は結構悪役令嬢って感じらしかったけど」
この日、俺は偶然ひなのんこと丸山雛乃に遭遇した。何やら分厚い書類を持っていたので代わりに運ぶと同時にその書類が何なのかを見せてもらった。その中で特に気になっていたのが『フィーナ・リル・テューレル叙事詩』というタイトルの下に『日本語訳版』と黒ペンで書かれたものだった。
「フィーナ皇女が亡くなって以降、テューレルは昔と同じようにスラムと化してしまっているらしいね……おかげでテューレル内でほぼ毎日紛争があったり作物の奪い合いが起きたり、とにかく治安が酷く悪いってここにも書いてる」
「それを止めるために帝国側は最後の手段に出たというわけか」
帝国側も平和の再来のために必死なんだなと僅かに同情しつつ、俺はじっと書類を睨む。そこには『フィーナの次なる帝王は、【閃光の行使者】アルスラーン・リル・テューレル』と記されていた。
(そしてこの英姫復活計画の立役者兼実行者と思われる人物。もしそうだとしたらほぼ確実に元利と同じ『転生者』だろうな。それに『閃光』の使い手と来た。となれば、間違いなくそいつは……)
「――雛乃」
「……ん?」
ふと名を呼ばれ、きょとんとしながら雛乃は俺の方を向く。その後俺は確信した推測を呟いた。
それも、恐怖で身体を震わせながら。
「……頼みがある」
――万が一、最悪の事態が起きたなら。そう思って俺は深呼吸を一つ置き、身体の震えを抑えてから雛乃に伝えた。
だが、その万が一を実現することなど『歪みきった世界』にとっては容易に過ぎなかった――
◇
「『星斬之閃剣』」
「ちっ……!」
突如刀を持つ手から痺れるような痛さが全身を駆け巡り、亜瑠栖が描く軌道通りに右腕が頭上高く弾かれる。
「『天照繁吹雨』!」
間髪入れずに亜瑠栖が空いた左手を正面に翳し、閃光の雨が降り注ぐ。
「避けられるかな? 元利と同じ力を持っている君に」
無論避ける猶予など、この閃光の雨は与えてくれない。それが分かりきっていたからか、俺は既に避けるという選択を捨てていた。
「……避ける? んな事しねぇよ」
俺は咄嗟に刀の鞘代わりの細長い布を腰に巻き付ける。その後すぐに左手を正面に向ける。刹那、俺に降り注いだ閃光の雨が魚の群れの如く俺の左手に向かって流れ行く。
「避けられねぇなら操ればいいだけの話だからな」
「お前……まさかっ!?」
左手で閃光の雨を引き付けては収束させつつ、右手でその対となる負の力を魔力に変換させる。閃光魔術による正の力と俺の身体に秘める負の力を一つにする。つまりは合体させる。
両手から生まれた魔力の球体から無数の光芒が迸る。故に、それは正と負の力の融合による『引き離し』の予兆となる。
「あぁ、そのまさかさ……」
これぞ、創核魔術の原理にして終極――
「『核晄裂破』」




