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黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》  作者: Siranui
第七章 千夜聖戦・斬曲編
229/313

第二百十六話「誘拐の動機」

 秘匿任務:行方不明者の捜索及び奪還、誘拐犯の討伐、謎の刺客黒神元利の討伐

 遂行者:黒神大蛇、丸山雛乃、マヤネーン・シューベル

 犠牲者:0名



「――さて、もう終わりかい?」


 マヤネーンが網野に余裕を見せつつ左手で崩れ落ちた札幌駅の一部を魔力で修復させる。見る内に建物は元通りとなり、一体何があったのかと少しざわめく姿もあった。 


 その一人である網野はぶら下がった両手に力を入れ、空気を握りしめる事しか出来なかった。


「マヤネーン、お前……昔はこんなの持ってなかっただろ」

「持っていなかった? 違うね、()()()()()()()()()()()()さ」

「……っ!」


 悔しさか、それ故の嫉妬か、網野は無意識に重い両足で地面を蹴って走り、マヤネーンの胸ぐらを掴んだ。


「お前……何で隠していたんだ。何であの時()()()()()()()()()()()! 何故俺にも言わないでひっそり黙っていた!! これほど強い魔法を持っているなら……やっぱりあの時()()()()()()()()()! お前がその力を隠さずに前線で戦っていたらな!!」

「……」


 今度はマヤネーンが黙り込む。彼にはもう返す言葉も無い。全て事実……そして彼に秘めた深く、暗い後悔なのだから。


「お前があの子を殺したようなものだ! 力があるくせに自分の都合の良い時にしか使わないもんな!」

「……」

「どうでも良かったのか! お前にとって他の惑星の皇女は! いずれ共存するための未来の希望なんか!!」


 網野は左手で胸ぐらを掴んだまま、空いた右手でマヤネーンの頬を殴る。更にもう一撃、二撃と怒りに任せてひたすら殴り続ける。


「あの子に誓ったんだっ……『君が大人になって立派な皇女となった時は、共に結ばれ合いながら廃れた世界を俺達で変えよう』って! その小さくて膨大な誓いを、俺達が紡いできた愛も、全部お前が踏みにじったようなものだ!!

 当然この罪は命だけでは足りない……いや、何を以てしても償われる事は無い!!!」


 両方の瞳からボロボロと涙を流しながら、網野はひたすらマヤネーンの頬を殴る。途中で最愛の存在との別れを思い出し、怒りより悲しみの方が徐々に大きくなっていき、殴る手に力が入らなくなる。


「あれからずっと考えたさ、この悲しみを埋める術をな……。そして思いついたのが『あの子の復活』。だがあの子を復活させるには女神(ヴィーナス)一族の莫大な生命力が必要だ。……後はお前でも分かるだろマヤネーン」

「……エレイナちゃんを誘拐したのはそのためって事ね」


 この時、これまで一つも繋がらなかったピースがようやく繋がり始めた気がした。

 ……と言っても、繋がったのはこの誘拐事件を起こした目的と攫った人物が関与しているであろう組織のみ。未だ何処に誘拐されているのか、そして大蛇と雛乃が秘匿任務で探している『もう一人の誘拐犯』についても全く分からない。だがこれはかなり大きな収穫と言えよう。


 ようやく得られた手がかりに喜ぶのを我慢し、マヤネーンはただ一言を網野に吐き出す。


「……ごめん」


 ――今更謝っても意味を成さない事は百も承知だ。無論、あの子が帰って来る事もない。僕が犯した過ちも拭えるわけではない。


 でも、だからって今の僕の仲間を死人の蘇生の生贄にするわけにはいかない!


「過去の非道は謝るし、ちゃんと受け入れるよ。でもあれから僕は変わったんだ。もう誰も手放さないって。誰も辛い終焉を送らない世界にするって。だから僕は罪から逃げない。君からの憎悪も全部受け止める。だから好きなだけ殴るといい。今の僕は死ぬ覚悟を決めているよ」

「……!!」


 網野はぴたりとマヤネーンを殴る手を止めた。強く拳を握った手に力を入れ、殴ろうとしても脳がそれを拒絶する。更にそれを網野の意思と身体が拒絶する。拒絶同士が身体を巡り、おかしくなりそうになる。


「うっ……マヤネーン……! お前だけは、ここでっ!!」

「好きにしていいよ、網野君。唯一の相棒である君に殺されるなら本望だ」

「うああああああああ!!!!!!」


 鼻や口から血を流すマヤネーンに、網野は叫びながら右手の拳で顔面目掛けて殴りかかる。マヤネーンは目を瞑り、網野の嘆きを受け入れる。



 ――しかしその時、事態は一変した。


「うぐぁっ……!!?」

「――!?」


 突如、背後から人影が現れ、網野の喉元を漆黒の刃が穿つ。


「何してんだ馬鹿。早く帰るぞ。頼んでおいたピザが冷めちまうだろうが」

「ぐっ……元利、てめぇ……!」

「網野君っ……!?」

「マヤネーン、逃げろっ……こいつは、只者じゃなっ……!?」


 再度、肉体を抉る鈍い音が鳴り響く。喉元と口から鮮血を吹き出しながら、網野は白目を剥いていた。

 そんな網野を背後から嗤うような笑みを浮かべ、元利は左手で網野の右腕を掴んですぐに駅の屋上まで飛び、夜空の中へと消えていった。


「……」


 マヤネーンはこの瞬間に何が起きたか理解ができず、一時的に呼吸すら出来なかった。あの魔術を直撃してなお無傷で戻ってきては味方であるはずの網野君を突き刺して……もうわけが分からない。


 でも、今はそんな事どうでもいい。過去を思い出している場合でもない。何よりも新手が来る前に大蛇君を連れ戻さなければ。


「……いててっ」


 網野に何度も殴られた両頬を抑え、流れた血を拭いながらその場から立ち上がる。回復魔法を左手で無詠唱で放って傷を癒やしながら大蛇に肩を貸す。


「……お疲れ様。今日はもう帰ろう。しばらく休んでから任務再開といこうか」


 たった一人であの怪物と戦った大蛇に聞こえてる筈もない言葉をかけながら、ネフティス本部へと帰還するのであった――

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