第百九十五話「復讐 其の弐~英雄の切り札~」
最優先緊急任務:ネフティスNo.2錦野蒼乃と北条銀二の討伐及び『完全蘇生体』錦野智優美の討伐、死器『葬無冥殺之機神鈴白』の討伐
遂行者:錦野蒼乃、北条銀二を除くネフティス全メンバー
犠牲者:???
午後12時40分 東京都渋谷区――
「おああああああああ!!!!!」
怒り、憎悪、復讐……あらゆる『負』の感情が反命の刃を黒く染め、轟いた。今目の前にいる亡霊となった白衣の男……北条銀二を殺す。その大きな意思の表れと言っても過言ではない。
「感情的に剣を振っては何にも当たらない。私に殺せと言っているようなものだ」
「黙れっ! 俺の未来を……仲間達の明日をお前なんかに閉ざされてたまるか!!」
剣を振るう度、北条は後ろに避け続ける。何度か左手を右肩まで振りかざす動作が見えたが、きっとどこかで反撃を入れてくるだろう。
「『空操魔術』――」
この言葉が聞こえた途端、俺は完全に北条の動きを読み間違えた事を悟った。今最も警戒すべきは左手に持つ神器ではなく、『空いた右手』だった。
「『破音壊波』」
「ぁっ――!!?」
北条の右手から超音波のようなものが俺の正面を通り抜ける。刹那、凄まじい耳鳴りのような衝撃が俺を襲った。
「がっ……ぁぁぁあああ!!!」
衝撃と耳の奥から生まれる痛みに思わず膝が落ちる。自分が震えているのか、あるいは地震が起きているのか分からないが、視界が左右に大きく揺れる。
「殺す事だけに集中しては、変わりゆく戦況に柔軟に対応出来る理性を失う。返り討ちという言葉の大方の原因はこれだ。怒り、憎悪、そして復讐……先に負の感情を表に出した奴が最終的に敗北するのだよ」
「……随分とっ……余裕、かまして来るじゃねぇか……」
しばらくして耳鳴りが収まり、強張った身体を何とか立ち上がらせる。今は無事だったものの、次同じように喰らえば間違いなく両耳の鼓膜が破ける。そうなればかなり不利になってしまう。
明確な打開策は無論無い。強いて言うなら、いち早く奴を殺す。それが出来なければ俺の復讐は終わり、アカネとの約束を破ることになる。ただそれだけのことで俺はこの命を賭けている。今に過ぎた事では無いが馬鹿馬鹿しく思える。
「その余裕に満ちた口……二度と開かせねぇようにしてやるよ」
杖代わりに突き立てていた反命剣を頭上に振りかざす。徐々に周囲から青白い光が刀身に集まっていく。
「……!!」
「そういえばよくもこの反命剣を一度折ってくれたな……やはりお前は、命を以てその罪を償え」
無数の光が刀身を一層輝かせ、その周囲を螺旋状に回りだす。
「レイアめ……余計な真似をしたものだ。ならばこちらも全力で君の『裁き』に抗うまで!!」
北条は右手の鎌を投げ捨て、白衣のポケットから黒いキューブ型の結界を取り出した。そしてそれを天高く投げる。すると、結界が硝子のような音を立てながら四散し、北条の頭上に巨大なブラックホールが出現した。
「これぞ私の全て、理をも蝕む闇……『空操魔術 終極「全蝕全呑全染闇」』!!」
頭上に翳した右手を正面に振り下ろした刹那、巨大なブラックホールから漆黒の波動が凄まじい勢いで俺に迫ってきた。
そして俺も、今出せる技の極致を発揮する。レイアから受け継いだ禁忌魔法『裁き』と、一度北条を殺し損ねた禁断奥義『黒死之光鏡』を混合させ、刀身に籠める。
「反命の裁きを以て滅べ――『光獄滅廻之神裁』」
螺旋状に舞い上がった光で竜巻と化した反命剣を地面を叩くように振り下ろす。前にアースラがシンデレラ宮殿を破壊した『神怒之流星』に似た突風が北条の闇を斬り裂く。同時に空操魔術の闇も『裁き』の光を掻き消すように蝕んでいく。
――対極に等しい二つの魔力は一つになり、そして巨大な爆発を起こし、無となった。




