第百九十三話「最終局面」
最優先緊急任務:ネフティスNo.2錦野蒼乃と北条銀二の討伐及び『完全蘇生体』錦野智優美の討伐、死器『葬無冥殺之機神鈴白』の討伐
遂行者:錦野蒼乃、北条銀二を除くネフティス全メンバー
犠牲者:???
東京都渋谷区 黒神大蛇サイド――
◇
「さぁ、『裁き』の時間だ……北条銀二。お前の時代は終わりだ」
北条に向けられた反命剣の切断面から数本の青白い蔓のようなものが生え、元の刀身の形に変化する。完全に昇りきった太陽で切っ先が反射して煌めく。
「ふっ、まさか『黒花』と大蛇君に敵として挟まれるとはね……だが自惚れるなよ。まだ私の敗北は決まっていないっ!」
その刹那、一瞬吹いた強い風が北条の背中を穿つ蔓の槍を斬った。風の正体はいつの間にか右手が元に戻っている智優美さんの剣だった。
更に、背後にとてつもなく強大な気配を覚えた。間違いなく鈴白だ。
「……」
俺はただじっと、北条の視線に剣先を向ける。鈴白が時々放つ蒸気の風圧で黒い髪と衣服が揺れる。それを気にすることもない。
「安心しろ、まだ勝負は序章に過ぎねぇよ」
途端、背後で何かが崩れる音がした。
「なっ……鈴白が、体制をっ……!」
鈴白の左足が地面の中に埋まる。正確には、地面に仕掛けてあった落とし穴に嵌った。
「――!!」
気笛と黒煙を上げながら何とか足を抜こうとするも、中々抜けない。そんな鈴白の前に、二人の生徒が姿を現す。
「全く俺というやつは最高に運がいいぜ。こんな化け物に効果抜群な魔術を使えるんだからな! そうすりゃネフティス推薦に一歩近づくぜ!!」
「ギールさん、それはこいつを倒してからです。今は目の前の事に集中しましょう」
「わーってるよクロム! こいつ殺せりゃ問題ねぇだろ!」
鈴白の動きを封じた生徒――俺が剣血喝祭の始めに対峙した変形魔法の使い手であるギール・クレイグは、同じく剣血喝祭でロスト・ゼロ作戦のメンバーでもあるクロムと共に地を蹴り、右足も穴に嵌めるべく呪文を唱える。
「あっははは!! 『凶星之獣』を超える化け物がいるんだね!!」
「君達は……」
「アルスタリア学院全生徒……そして、剣血喝祭を経験した全ての戦士だ」
「数の暴力で機神に勝てるとでも?」
「究極の一に勝るは無限だけだ」
「なら殺してみろっ! 一網打尽にして見せる!」
「その前にお前をここで殺す……『無獄』」
反命剣の切っ先から徐々に火球が大きくなり、途中で発射する。北条は避ける間もなくそのまま焼き尽くされる。
――硝子が割れるような音が聞こえた。その刹那、北条が左手に天羽々斬を構えながら爆風に抗って突っ込んできた。
「死ね……!!」
「俺としたことがうっかり忘れてたぜ。お前、もう亡霊だから痛覚も感じねぇんだったな!」
北条が左から短剣を振り下ろしたのが見え、咄嗟に反命剣を右腕の振りだけで衝突させる。激しい轟音に耳が痛くなる。
「――よそ見は禁物だぞ、大蛇君」
「――!!」
再び鋭い風が一瞬だけ背後に吹いた。智優美さんは体制を低く取り、左下から回転して勢いをつけながら右上に斬り上げた。しかし、その攻撃は俺とは別の何かに衝突した。
「……あら、油断こそ禁物よ、北条さん」
「ちっ、邪魔が多いな……!」
さっきまで北条の背後にいたはずのレイアが、今度は俺の背後についた。そして智優美さんの斬り上げを難なくエリミネイトで受け止めていた。
「彼女は私に任せて。北条さんは君に任せたわよ」
「……助かる」
ぼそっと『黒花』に礼を言い、北条を倒すことだけを考える。
「『闇糸剣』」
空いた左手で指先からアメジスト色の糸を生成し、引っ掻くように北条に向かって振り上げた。
「っ――!!」
右手の鎌で俺の攻撃が防がれた。しかし、五本の糸はしっかりと巨大な鎌の刃を掴むかのように絡まった。
「ふっ……!」
「なっ――!?」
左腕を大きく振り上げた後、出来るだけ遠くに投げ飛ばした。北条は体勢を崩し、道路に倒れこむ。少しでも隙を与えないためか、すぐに立ち上がっては地を蹴る。
「はぁぁぁっ!!!」
「来るかっ……!!」
左手の糸を切り捨て、右手を引いて突きの構えをとる。青白い刀身から黒いオーラが放たれる。
「『影之閃』」
「『神呪刃』!!」
互いの剣が黒く染まる。まるでそれぞれの復讐に応えるかのように、目の前にいる『己の運命を歪ませた宿敵』を容赦なく斬る。それも、たった五秒も経つことも無く――




