第百八十八話「熾烈な時間稼ぎ(下)」
最優先緊急任務:ネフティスNo.2錦野蒼乃と北条銀二の討伐及び『完全蘇生体』錦野智優美の討伐、死器『葬無冥殺之機神鈴白』の討伐
遂行者:錦野蒼乃、北条銀二を除くネフティス全メンバー
犠牲者:???
時刻、午前9時45分。大蛇と凪沙さんを遠くに逃がすための時間稼ぎ目的での北条達との戦いが本格的に始まった。正義は北条と、雛乃さんは蒼乃さんと、そして俺は『葬無冥殺之機神鈴白』と対峙することとなった。
「待たせたなぁ……てめぇの暇つぶし相手になってやるぜ。この戦神アレスがよぉぉ!!!」
始祖の加護を得た指輪の力を使い、過去の力を目覚めさせる。これが出来るのも今の魔力量的にも二度が限界だろう。その一回分であの兵器を完全に破壊する。
「――――!!」
そんな兵器……鈴白は右手を伸ばし、手のひらから巨大なレーザーを発射する。瞬く間に道路が破壊される中、俺は右手の剣を地面に突き刺して『倍速遅延』を発動させる。レーザーの動きがぐんと遅くなり、その隙に左手で生成した太陽を顔面に投げつける。
「喰らいやがれっ!」
砲丸の如く凄まじい速さで飛んでいく太陽が来ると察知したのか、鈴白は遅延をかけられてるのにも関わらず、レーザーを出す手を素早く天高く上げた。レーザーも追いかけるように上に登っていき、太陽を打ち消す。
「遅延喰らってるくせに随分速ぇな!」
やはり最古の神器と呼ぶだけあって、魔力量で他の魔法を無理矢理押し通して無効化するのは容易いか。
「―――!!」
発狂のような激しい汽笛が渋谷中に響き渡らせ、鈴白は両腕からトンファーのように大剣を抜き出した。
「ま、流石にレーザーだけってわけにはいかねぇわな」
手首から伸びるように装着された大剣で、鈴白は俺に突進する。
「くそっ、遅延がまるで効いてねぇ!」
すぐさま時変剣を地面から抜き、術式を解除する。そのまま迫りくる大剣を受け止めるべく、両足で一気に跳んだ。
「術式効かねぇなら無理矢理ゴリ押してやるよ!!」
両手で剣を持ち、全身の力を全て刀身に乗せて鈴白の大剣にぶつける。が、その圧倒的威力の余りに俺の身体はいとも簡単に吹き飛ばされる。
「はっ――!?」
咄嗟に自分に倍速遅延をかけ、遅くなりながらも障害物を剣で斬り、体制を変えて何とか地面に着地した瞬間に術式を解除する。途端、足が擦れて無くなりそうな程まで後ずさる。
「っぶねぇなぁ……この俺をここまでぶっ飛ばすとは大したもんだなこりゃっ……!?」
「プシュゥゥゥッ!!!!」
後頭部の穴から蒸気を噴きながら頭上まで飛び、再度大剣を振り下ろす。あれ以上鈴白の大剣を受け止めきれないと身体が叫んだ気がして、瞬時に左に移動して避ける。大剣が地面を叩いた直後、地面が一直線に割れ、衝撃で周囲の建物が更に崩れ落ちる。
「ちっ、侍達の妨害を兼ねての攻撃かっ……!」
建物が崩れてしまえば、当然足場が狭くなる。またガラスの破片が地面に散らばるのでより着地しづらくさせる。俺達の行動範囲を縮め、一つに固まった所をレーザーで一網打尽にする……鈴白の戦略はそんなところだろう。
「ジリ貧だけは勘弁だなこりゃ……!」
奴は俺と交戦しつつも、その裏で様々な所に意識を置いている。北条に苦戦している正義、蒼乃さんとの遠距離戦闘に汗を流す雛乃さん、更には戦線離脱している大蛇や凪沙さんにさえも、きっと。脳裏に浮かんできた最悪な展開に現実が追い付いてしまう前に、どうにかして片を付けるしかない。
「しょうがねぇなぁ……あれを使うか」
左手を天高く上げる。指先まで伸ばした左手が太陽に照らされ、手のひらから光の粒子が流れ込む。次第に粒子が剣の形を構成し、実体化したと同時に赤く燃え上がる。炎は左腕にまで伝わってきたが、自然と熱さは感じない。
「黄泉之剣『伊邪那岐』」
これを握るのもいつぶりだろうか。天界を焼かれてから一度もないような気がするが、今はどうでもいい。
「喜べよ、この身体でこいつを出したのはてめぇが初めてだ」
「――!!」
再び気笛を発しながら左腕の大剣を一直線に突く。脳天を貫かれる寸前に左手の剣を右肩から斜めに振り下ろす。激しい音と同時に大剣の剣先が地面に沈む。
「あくまで時間稼ぎって提だったが、こいつを出したからにはじっくり堪能してくんねぇとな……」
再度左手を頭上に振りかぶる。そして鈴白の身体を一直線に斬るように振り下ろす。
「『罪開』」
――機神諸共、振り下ろした先に在った全てが断ち切られては太陽の獄炎に焼かれた。その後視界に見えたのは白く焼け果てた街と、二つに断ち切られた鈴白の残骸だけだった。




