原初之話「プロローグ」
――世界は、既に壊れている。
ここは現代だ。電子機器が溢れ、高層ビルが空を塞ぎ、人々が当たり前のように忙しなく朝を迎える時代。
しかし同時に。魔術が息づき、人と人ならざるものが同じ夜を歩く、『歪みきった世界』でもあった。
無論、元よりそうだったわけではない。では一体いつから世界は歪んだのか。その真相を知る者は、未だ誰もいない。
ただ一つ確かなのは――ここがもう「本来の現代」ではないという事だけだ。
その全ては、遥か昔に起きた、ある一つの厄災から始まった。
ある日。一匹の竜が、天と地を焼いた。
その炎は海を蒸発させ、山々を焦がし、神々すら灰に変えようとした。全てが火の海に変わり果て、世界の終わりを誰もが悟ったその時――スサノオノミコトが現れ、竜を討った。後に『ヤマタノオロチ伝説』として古事記に記され、未来永劫伝えられ続ける伝説である。
――――――だが。
人類は一つ、決定的な誤認をしていた。
あれは伝説ではない。過去に在った、『現実』だ。
そしてある日を境に。その『現実』が、再び世界へ滲み始めた。
ただ静かに、軋むように。世界の法則そのものを歪ませながら。
これから描かれるのは、そんな日から始まる物語。かつて世界を焼き、英雄に狩られた『厄災竜』が、今度は唯一人の人間として生きる物語。
輪廻の果てに過去を背負い、全てを失い、自らを呪いながら。
それでもなお。
一度失ったものを取り戻すために、世界の不条理に叛く。
――これは、過去を背負う竜による、覚悟と葛藤の叛逆譚。




