第百八十三話「躊躇う殺意」
最優先緊急任務:東京都渋谷区に起きた異常事態の調査、北条銀二の再度討伐及び『完全蘇生体』錦野智優美の討伐
遂行者:ネフティス全メンバー
犠牲者:???
東京都渋谷区 黒神大蛇サイド――
北条の右隣にいる、一人の女性だった人間。何度も言うように過去に俺を救助し、唯一俺の過ちを否定しないでいてくれた、恩人と言うべき人物だ。そんな錦野智優美は今、ただの殺人操り人形となっていた。その手に持つ剣を赤く染めた血こそ、それほど多くの人を殺した証明になる。
「さぁ始めようか……真の剣血喝祭及び、真のハロウィン戦争をっ!!」
北条が高らかに言い放ったその時、智優美さんが凄まじい勢いで地を蹴り、俺の腹目掛けて剣を水平に振り払う。
「ぐっ……!?」
咄嗟に胸からエリミネイトを引き抜き、左脇腹の前で剣を受け止める。しかしすぐに振り抜かれ、俺は倒壊したビルに背中をぶつけた。
「ちっ……!」
追撃。今度は俺の心臓目掛けて突きの構えを空中でとっていた。
(速いっ……これがかつてのネフティス総長である智優美さんの実力……! 動きが速すぎるが故に動きが読めない……!)
「させるかっ!」
智優美さんが剣を突き始めたとほぼ同時に俺は右に跳んで避ける。それは良いものの、1秒もしない内に今度は俺の倍以上のスピードで向かってきた。後ろに構えた剣が俺の首を通る軌道を描く。
「っ……ぶねぇなぁぁっ!!」
刃が俺の首を瞬時に斬り裂く前に背中を反らし、空中で宙返りするように避ける。今度はその勢いを利用して剣の腹目掛けて下から左足で蹴り上げる。
「っ……!」
(くそっ、どんだけ握力強ぇんだ! 思い切り蹴ったのにむしろこっちが弾かれそうになるっ……!)
しかし、僅かながら効果はあったらしく、智優美さんは剣を左手に持ち替え、右手をブラブラと振っている。
そして俺はその隙を逃さないように、右手の魔剣を強く掴み、落下する勢いで振り下ろす。
「うぉぉぉぉ!!!!」
智優美さんが左手の剣を右肩近くに構え、俺の攻撃を待ち受ける。
(カウンターか……良いだろう、ならやられるより速くその身体を断つまでだっ!!)
「おらぁぁっ!!!」
――ドクンッ!!
「っ――!!?」
智優美さんの身体を真っ二つに斬ろうとした刹那、耳にまで聞こえてくる程の心臓の音が鳴り響き、俺の身体は硬直された。魔力切れか、あるいはもう身体が限界を超えて動けなくなったのか。
(……いや、違う。この感じは……)
背中から一気に冷え込む。だが身体は熱い。心臓の鼓動が速くなっている。音も大きく鳴る。これは間違いない、恐怖だ。俺にはどうしてもあの殺人兵器を智優美さんにしか見えないのだ。
(たとえどんな状態であっても、智優美さんを殺せない……!)
智優美さんを殺す。それは俺にとっては過去に戻るというようなものだ。ここで殺したらきっと前と同じ結末を迎える事になる。
「っ……!!」
「ちっ!!」
(おいおい考えてる暇ねぇぞ俺! もう空いた隙が埋められちまったじゃねぇか!!)
瞬き一つする間に智優美さんの顔が俺の目の前にまで迫っていた。俺から見て左下から微かに太陽の光が刃に反射して煌めいていた。
(おいっ、殺れよ黒神大蛇……じゃねぇとこっちが殺されちまうだろっ……!!)
「唯一の恩人なんだ……俺が殺せるわけがないだろ! むしろ本来守るべき存在の一人だっ……!」
(何言ってんだ、速く剣を振れ! 躊躇うな!!)
「大蛇君っ!」
「っ――!?」
智優美さんを前に躊躇っている俺の前に凪沙さんが地上から勢い良く飛び上がって入り込み、槍で智優美さんの振り上げを防ぐ。
「大蛇君しっかりして! 相手はたかが幽霊だよっ!」
「す、すみません……って、凪沙さんっ!!」
「あっ――!?」
すっかり智優美さんに注意を引きすぎたからか、地上から北条があのかぼちゃ爆弾を無数に生成させ、投げつけてきた。
「二人まとめて葬ってやろう!」
まるで爆弾一つ一つが意思を持つかのように俺と凪沙さんに突進してくる。一斉に白く点滅し始め、俺達の死のカウントダウンをしてくる。
「っ……! させるかよっ!!」
己の身体に掛かった躊躇いの鎖を解くように右手の魔剣を振り払いながら両足で空を蹴る。
(一つの爆弾につき勝負はたった一振り。一つでも逃せば俺も凪沙さんも地獄行きだ!)
「おおおあああああッ!!!!」
稲妻が迸るかの如く、或いは竜が空を舞うかの如く……魔剣エリミネイトが黒いオーラを纏いながら軌道を描き、かぼちゃ爆弾を一網打尽にする。爆弾は白い閃光を散らしながら爆発し、俺や凪沙さんと智優美さんを巻き込んだ。そして視界を塞ぐ黒煙を抜けたその先には、鎌を持った亡霊……北条の姿がはっきりと見えた。
「見えたっ……ここがお前の墓場だ、北条ッ!!」
剣を左肩近くに構え、北条の首目掛けて左から水平に突進しながら振り払う。
「……ふっ」
俺の確信の目を見つめ、北条は何故か笑みを浮かべた……その刹那。
「っ――!!」
……確かな手応えと同時に途轍もなく嫌な予感が、俺の腹を突き刺す音と感触で覚えた。
更に、その後――
バシュッ――という音がしたと同時に俺の後頭部に何かが命中した。
「あがっ……!!」
一瞬にして後頭部から背中を蝕むように冷気が襲い掛かった。振り向いたその先には、氷銃を構える白髮の女性の姿があった。
「蒼乃……さ…………」
「受け入れなさい、大蛇さん。これは母を殺した貴方の裁きですっ……!」




