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黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》  作者: Siranui
第六章 ハロウィン戦争編
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第百七十六話「償い」

 最優先緊急任務:東京都渋谷区に起きた異常事態の調査


 遂行者:ネフティス全メンバー

 犠牲者:???



 少しずつ朝焼けが戦場と化した渋谷の街を包み込んでいく。日の出がやってきたのだ。しかし、ハロウィンはまだ始まったに等しい。この戦争の立役者及び実行者の北条銀二を倒したというのに、終わりの兆しすら感じさせない。むしろここからが本当の戦いになると言わんばかりに無数の仮装亡霊が一斉に襲い掛かってくる。それに対抗するようにベディヴィエル率いるアルスタリア高等学院の軍隊が亡霊軍団に向かって突撃する。


「怯えるな! 敵は人間及び魂を持たない存在だ! 今はただ前進し、剣を振れ!!」

「うおおおおおおおお!!!!!!」


 生徒や教師といった身分はもはやここにはない。一人一人が戦士であり、ハロウィンという名の死の宣告に抗う反逆者なのだ。


「オカシ、ヨコセ……ヨコサナイト、イタズラ……スルゥゥゥゥゥアアアアア!!!!!」

悪戯(いたずら)される前にぶっ倒すぞ!!」

「「おおおおおおおお!!!!!」」



 しかし、その反逆は秒針が一周する前に亡霊軍団の猛攻によって打ち砕かれる結果となるばかりだ。


「がぁぁぁぁぁっ!!」

「くそっ、これじゃ時間稼ぎにすらならねぇぞ!」

「生徒会メンバーがいてもこの実力差か……」


 アルスタリア学院の制服を着た生徒達が次々と亡霊達の鎌やかぼちゃ型の爆弾でやられていく中、生徒会一同は戸惑いを隠せずにいた。

 その中でベディヴィエルは先陣で亡霊達を聖剣で斬りながら亡き副会長の名を心の中で呼んだ。


(カペラ……私達はどうしたらこの戦いを無事に終わらせられるだろうか。いや、剣血喝祭が開かれたあの時から既に無事に終えられることなんて無かったな。君を失った挙句、あの学園祭が……北条さんが死器を蘇らせ、今ではほとんど取り返しがつかないところまで来ている。これ以上我々には何ができるんだ……)


「――会長、危ないっ!!」

「銀河っ――!?」


 知らぬ間に目の前に一匹の亡霊が巨大な鎌を大きく振りかぶっていた。ベディヴィエルの死を悟ったのか、同じ生徒会の銀河がベディヴィエルの左肩を強く後ろに押し出し、庇うように前に出る。そして今度は自分自身の死を悟ったのか、振り向いてベディヴィエルに微笑んだ。


「――皆のこと、頼みましたよ……会長」

「やめろっ――!!」


 亡霊の鎌が銀河の胸を切り裂いて――








「――失せろ」


 ベディヴィエルの背後から一つの影が地を蹴る音が聞こえ、一瞬にして銀河の前で背中の刀を抜く。陽炎(かげろう)の如く燃える紫の刀身が見えた瞬間、目の前にいた無数の亡霊が真っ二つに断ち斬られた。


「……我々を騙した罪は重いぞ、北条君」

「あれは……!?」

「正嗣、さん……!?」


 黒い外套(がいとう)に身を包み、右手に刀を持つ一人の男。その背中は正に数多の戦いを勝ち抜け、生き残ってきた強さを直に感じさせる程頼もしいものだった。


「……危なかったな。あと少し遅かったら取り返しのつかなくなっていただろう」

「正嗣総長が、何で僕なんかを庇って……!」

「若き未来の種を命がけで守る。それが我々ネフティスの使命だからだ」


 そう銀河に呟き、そのまま正嗣総長は一歩ずつ炎の海と化した渋谷の街を進んでいく。あのかぼちゃ爆弾のせいか、あらゆる建物は崩れ落ち、硝子の破片や倒れる人々、車から燃え広がる炎で満ちていた。その向こうで、更に亡霊達が出現する。


「北条君。君の残した怨念は全て私が斬る……!」


 電光石火という二つ名に相応(ふさわ)しい程の尋常な速さで地を蹴り、奥の亡霊軍団に迫る。


「それでしか、ネフティス総長としての償いは果たせない!!」


 叫びと同時に勢いよく亡霊達の頭上に飛び、刀を大きく左肩に振りかぶる。


無葬之刃雨(レックレス・レイン)


 紫の炎を(まと)った刀身を目の前に見えた亡霊の身体を真っ二つに斬り裂く。刹那、他の亡霊達も同じように真っ二つに斬られては倒れていく。それが永遠に続く。根絶するまで、一匹残さず斬撃の雨が一つずつ確実に斬っていく。


「すごい……」

「これがネフティス総長の実力か……!」


 圧倒的な強さで生徒達は希望を持ち始めた。これなら勝てるかもしれない……生き残れるかもしれないと。


「……ベディヴィエル君、だったかね」

「は、はい……」


 突然正嗣総長に名を呼ばれ、ベディヴィエルは少し驚きながら頷く。


「あの亡霊軍団には大物がいる。それを倒せば恐らくこの街から仮装の亡霊はいなくなる。我々と協力し、徹底的に探してほしい」

「大物……」


 大物、それはきっと今戦ってきた亡霊の中でも一番強い化け物。数多の亡霊を指揮する女王蜂みたいなものだ。きっと今の正嗣総長の攻撃を喰らってなお、倒されなかったのだろう。


「分かりました、全生徒に指示しておきます」

「礼を言う」


 正嗣総長がベディヴィエルに向かって軽く頭を下げた後、すぐにベディヴィエルの両肩を優しく掴んだ。

 

「……それと、北条君の事はすまなかった。裏でこんな計画を企てていたとは私も思わなかった。もっと速く気づけていれば、君達をこんな戦いに巻き込む事も無かっただろうに……」

「いえ、気にしないでください。それに私達も気付けなかったですし、北条さんが推薦してくださったおかげで今の私がいます。なので謝らないでください、正嗣さん。これは騙された私達に降り掛かった宿命なのですから。今はその償いをしましょう……これ以上誰も死なせないという、消えない過ちへの償いを」


 段々と全身が熱く、同時に冷たくなっていく。悪事が人にばれてしまった時と似たような感覚に襲われる。今となってはもう遅いのだから、これからどう丸く事を収めるかを共に考え、実行する必要がある。


 大変だったよね、と仲間と笑い合える話の内容になるように。

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