第百七十二話「渋谷の悪夢」
緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐(遂行済)、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、ミスリア、桐雨芽依、アルスタリア高等学院全生徒
犠牲者:涼宮凪沙
東京都足立区 ネフティス本部前――
「……何でだ、何で皆正気に戻らないんだ!」
まだ深夜の寒さが襲い掛かる本部の入口の支柱にもたれかかり、電話越しの男に叫ぶ白衣の男……マヤネーン・シューベルは焦りを顔に滲ませていた。
『分かりませんよ。ですが北条銀二の気配が渋谷から消えたのは確かな事。なのに他のメンバー及び関係者は洗脳されたまま……もしかしたら原因は北条だけでは無いのかもしれません』
つい先程、大蛇君があのハロウィン戦争の立役者北条銀二の討伐に成功した事は電話越しにいる男……桐谷優羽汰が報告してくれた。だが彼曰く、討伐したのにも関わらず北条側のメンバーの洗脳が解けていないという。
「そんな事があるか! 何せこのハロウィン戦争を企てたのは北条だろ!」
「北条はあくまで実行しただけですよ博士。メンバーを洗脳させたのも、黒神を法的に処罰しようとしたのも……」
「……実行、ねぇ」
つまり彼は北条とは別に黒幕がいるとでも言うのか。そんなのあるはずが無い……と、言いたいところだが、そうとも言い切れないのが現状だ。まだハロウィンは始まったばかりなのだから。
「……とにかく君も気をつけてくれ。それと、今は洗脳されたメンバーを救出することを最優先にね」
『分かりました……博士こそ気をつけてくださいね』
ブチッ――
耳元で通話が切れる音が聞こえた。携帯を耳から離し、左ポケットに突っ込む。
「気をつけて……か。やれやれ……僕だって常に気を抜いているわけでは無いんだけどなぁ」
……まぁ、普段の僕を見てたらこんな深夜に一人でネフティス本部の目の前にいたら危ないって思うよね。
「――でも、僕だってただずっとこの場にいるわけじゃないんだよ」
ずっと肌見離さずつけていた白い手袋を外し、右手の小指にはめられた指輪が月夜の光に反射して煌めいた。
「……いずれ君達には伝えるよ。僕の全てを」
◇
「……若者の力は、凄まじいな…………」
死神の禁忌が、北条の全てを消し去っていく。視界は白い。だが自然と風景が流れていくかのように身体が……いや、魂が先の見えない向こう側に引っ張られていく。
「……その先にあるのは、恐らくそうだろうな」
その先……そう、死。そこに辿り着いてしまえばもう何もかもが消えて無くなる。全て終わる。これまでやってきた事が今の己のように消えていく。
だが、まだ魂は生力を残している。そして万一のための切り札も用意してある。あとはそれに託すしか、無い……!
「――数多の亡霊よ、我の意志に応えろ……『霊変地異』」
……唱えても、自分では発動されているか分からない。だがこれに全てを賭けるしか今の道はない。たとえ渋谷の地に悪夢を呼び起こしてでも、あの復讐者は葬らないといけない。
「刮目せよ……これが私の、最後の復讐だっ!!」
その直後、レクイエムを唱えるかの如く高らかに笑いながら消えていく。何もない、純白の風景から一つの魂が記憶と共に塵となる。
だだ残した復讐だけが世に残り、英雄を悲劇へと陥れる――
ネフティスNo.6北条銀二 死亡
――異常事態発生 異常事態発生
『最優先緊急任務』
東京都渋谷区に異常事態発生。被害拡大の恐れあり。ネフティスメンバーは直ちに直行せよ。繰り返す――――




