第百六十一話「復讐の時」
緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する、謎の少女ピコとマコの討伐
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、ミスリア、アルスタリア高等学院全生徒
犠牲者:???
「隠月刀……『風無之朧』」
白く、目の前ですら何も見えないほど濃い霞の中に一つの星が輝いた。否、それは刃の光。宿命という呪いの権化を断ち斬る、宗近の煌めきだ。
「えっ――」
「ピコッ――――!」
マコが叫んだその時、霞が斬撃の軌道に合わせて一気に流れていく。まるで切り傷を深く抉るように撫でるかのように。
そしてふと俺の全体重が左に傾く。紗切が俺の喉を貫く髪の槍を斬ったのだ。拘束されて力んだ全身から力が抜け、左に横たわって倒れる。
ポタポタと何かが滴る音が白い霧の中で聞こえる。それが血だと分かったのは、右頬に飛んできた返り血を親指で取って見てからだ。
――マジか。あのピコを一撃で斬ったのか。
しかし、その期待は突如響いた不気味な声によって掻き消された。
「%≡≫∑<%·」︹8《↑❳№§℃!!!!」
「っ――!?」
金属音と害虫の声が混ざったかのような奇声が濃い霧を払い、鼓膜を打ち破ろうとしてくる。あまりの気持ち悪さに俺は両耳を塞いだ。紗切も羽衣音も懸命に両耳を塞ぐ。
払われた霧の先には、ピコの項から大量の寄生虫が出現し、ピコの代わりに紗切の斬撃を喰らっていた。足元の血の池はその寄生虫から噴き出したものだ。
「危なかった〜、危機一髪ってとこかな」
「でも、私達の正体バレちゃったねぇ〜」
「まぁいいんじゃな〜い? どっちみち後で見せる予定なんだし?」
「じゃあいっか〜」
今度はマコが剣状に変えた爪で左腕を深く切り、そこから鮮血と共に寄生虫がうじゃうじゃと湧き出てきた。
「︼《⊇〙−≡$(/&%⁉÷§!!!!」
……これまで生きてきた中で一番気持ち悪い光景だ。ましてや一度俺が殺された因縁の敵だからこそ余計だ。身体の至る所から血まみれのミミズみたいな虫が出てくるなんてこれまで見たことが無い。アースラの足なんて比べ物にならないくらいだ。
「うっ……何あれ気持ち悪いんだけどっ……!」
「羽衣音ちゃん、吐き気を催してる時間は無いよ」
「分かってるけど女の子の腕から虫みたいなの出てくるとかやばいでしょ普通にっ!!」
これに関しては羽衣音に同情する。しかし、紗切の言う通り気持ち悪がっている時間もない。本来あの二人は敵だが、それよりどこの奴より優先して殺すべき敵が目の前にいる。たとえ今のネフティスが完全に分裂したとしても、この機会を逃すわけにはいかない。
真のハロウィン戦争が始まる前に、ピコとマコの息の根を止めるっ……!!
「行くぞっ……『歪殺剣』」
俺の胸部からブラックホールのような穴が出現し、そこに痛みに震えながらも右手を穴に通す。奥に眠る魔剣の柄を握り、ゆっくりと抜いていく。
「あれが……死器……」
「北条さんが……ネフティスが恐れた、命を枯らす神器……」
もう死器の事であだこだ言われても構わない。それより今はこの命を賭けて殺すべき敵に全て集中させる。最初から、殺す気でかかるまでだ。
「殺すっ……お前らだけは……この手でっ!!!」
「おぉ〜、なんだか懐かしいなぁ……あの時を思い出しちゃうな〜」
「うんうん、一生懸命遊園地作ったよね〜」
……あぁ、俺も思い出してきた。あの時のトラウマを。自身の無力さ故に相棒を救えなかった絶望を。アカネに復讐を誓い、ここに輪廻転生を遂げた今も。
あらゆる思いを全てこの魔剣に籠めて……何もかもを狂わせた元凶に復讐する時だ。
「おおおおああああああああ!!!!」
喉を破裂させるかのような奇声を上げながら、俺は両足を地面につけ、すぐに地を蹴った。
右目から流れる血が、黒い魔力と共に混ざりながら宙に舞った。




