第百五十九話「呪いの根源」
緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、アルスタリア高等学院全生徒
犠牲者:???
――紫電一閃。この勝負はこの一撃で決まる……そう思っていた。俺――黒神大蛇と星野羽衣音の運命が決まる一撃に何者かが割り込んでくるまでは。
「「っ……!?」」
刹那、二人の衝突は突如間に入り込んだ障壁によって防がれた。
「あれはっ……!」
俺の背後を突いて刀を上段に構える姫原紗切が突如ピタリと動きを止めると、俺の脳天に当たるギリギリの所で刃が止まる。そして俺と羽衣音の剣も障壁から離れ、後方に吹き飛ぶ。
「やぁ……まだ生きていたなんて思わなかったよ〜」
「そうそう、流石の私達もびっくりだよね〜」
刹那、背中が一気に凍りつくような悪寒が俺を襲った。これまで生きてきた中で一番とも言える恐怖が俺の全身を震わせた。
「嘘だろ……何でこんな時に……」
ピコ、マコ。俺の全てが狂いだした元凶。もはやこれまでの運命は奴らと出会ってから呪いと化したと言っても良い。それ程俺を陥れては弄び、血塗られた運命の中で踊らせている。
今の俺にとっては誰より復讐すべき敵であり、謎に包まれた暗黒神に等しく恐るべき存在だ。
「やっぱり私達は運命の糸で結ばれているんだね〜」
「うんうん、きっとそれに違いないよ。そしてまた君はあの時と同じように殺され、生き返る。君の呪いはその繰り返しで出来てるんだよ」
「何を……言ってっ……!?」
ダメだ、足が動かない。いや、動けない。一歩でも動くと奴らにすぐ殺される予感しかしない。これに関しては俺の直感だけでなく全細胞がそう予言している。『今動いたら死ぬぞ』と。
「君達……誰?」
羽衣音が目の前の水色のスカートを履いた少女に尋ねる。少女……マコは少女らしい明るい笑みを浮かべながら答える。
「そういえば君達に自己紹介がまだだったね……私はマコ。君達を『本来の運命へと導く存在』かな」
「運命を……導く……!?」
その言葉を、羽衣音は理解できるはずもない。それもそうだ。これは暗黒神だけが知る『歴史通りかつかけ離れた、絶望に満ちた宿命の線路』なのだから。即ち、それが黒神大蛇改め八岐大蛇の生涯。
「まぁすぐに分かるよ。ほらっ!」
「うわっ――!!?」
障壁を展開する手で空気を掴んだ途端、硝子が割れるような音と同時に八方に砕け散る。その凄まじい衝撃波で羽衣音は大きく吹き飛ばされる。それに加えて俺と紗切も後方に吹き飛び、派手に地面を転がっていく。
「ってて……皆、大丈夫?」
「私は大丈夫。彼が下敷きになってくれたから」
彼女の言う通り、俺は今紗切に腹にのしかかられている状態だ。おかげで背中や後頭部が響くように痛いが、そこは回復魔法で何とかなる。
「君、大丈夫? 紗切ちゃんを守るためとは言っても今は敵同士なんだよ?」
「んな事言ってる場合か……あいつらは俺を、俺達を皆殺しにするつもりだぞっ……!」
腹に座られた状態で何とか頑張って反論する。はっきり言って今こんな所で争っていたら第三者のピコとマコがまとめて殺しにかかる。つまりは漁夫の利だ。
「……そうだね、彼の言う通りだよ」
「紗切ちゃんっ……?」
ようやく俺の腹から立ち上がり、紗切はピコとマコに刀を向ける。
「あの二人の子を見ててすぐ分かったの。私達をここで殺すんだなって。おまけに死器わ持つ彼も殺して回収出来たら一石二鳥。つまり私達は北条さんに捨て駒にされてるのよ!」
「うそ……でしょ?」
「じゃないと急に私達との戦いの邪魔なんてするはず無い。ネフティスははめられていたんだよ。まんまと北条さんに騙されてたんだよ! 私達はっ!!」
もう今更に過ぎない真実を叫び捨てながら紗切は小さく見えるほど遠いピコとマコに向かって強く地を蹴って突進する。しかし、身体がマコが再度生成した障壁によって動かなくなる。そして再び破壊され、吹き飛ばされる。
「くぅっ……!!」
「あの馬鹿野郎……っ!」
思わず本音が口から溢れてしまったが、ほぼ無意識で俺も立ち上がっては右手の剣の柄を強く握り、一瞬にも迫るスピードで突進した。俺はマコ目掛けて後ろに剣を構え、勢いよく振り回す。それもまた障壁によって防がれてしまう。
「……待ちくたびれたよ〜、『黒き英雄』さん」
「……俺も待ちくたびれたぞ、俺の運命を弄ぶ外道さんよぉ!!」
「君も、あの人達も、また同じ目に遭わせてあげるねぇ〜っ!!」
「やれるものなら……やってみろっ!!」
言い終わりと同時に剣を振り抜こうとした刹那、背後に巨大な魔法陣を展開するピコの姿があった。
「そっちこそぉ〜、頑張って私達に負けないでねぇぇっ!!!」
「は……?」
ピコは無詠唱で2秒も経たずに亜玲澄の太陽を超えるほどの巨大エネルギー弾を生成し、俺に向かって放った。今まで見た事の無い、絶望を具現化したかのようなエネルギー弾だ。
俺は振り抜いた勢いのまま、反命剣を巨大なエネルギー弾に刃を通す。
「っ――!!」
今こそ奴らを倒し、この宿命に終止符を打つ。その一心が、奴らに剣を向ける力をくれた気がした――




