第百五十八話「今亡き未来の底力」
緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、ミスリア、アルスタリア高等学院全生徒
犠牲者:???
今から約30分前――
『……先生、ファウストを頼みます。蒼乃ちゃんは私に任せてください』
『……大丈夫ですよ、私達ならやれます』
「……ふふっ」
あの可愛い凪沙ちゃんが、そんなたくましい事を言うなんて……驚いたなぁ。前なんて子供みたいに甘えてきて、戦闘訓練もいやいや言ってたのに……
「これは私も人肌脱がないとね!」
隣で強く地面を蹴った凪沙を見送った後、私――ミスリア・セリウスは正面に立つ神の超越者……ファウストに目を向ける。
「まだ生きていたとは貴様も大した人魚だな。ラミエル」
ファウストの口から告げられた人魚五姉妹の長女の名を聞いた途端、ミスリアは息を呑む事もなく、平常心を保っていた。
「へぇ……つまり君は最初から知ってたわけだ。未来の私を。まぁそれもそうかもね。だってそもそも地球以外に生物が同じように住んでるなんておかしな話だもんね」
よく考えたらそうだ。星を……生命を創った神からしたら、到底生物が生きるはずのない惑星に人間が地球と同じように住んでるなど夢物語でもあまり聞かない。つまり、とっくにこの世界は狂ってるのだ。
分かりやすく言えば、『現実と異世界の平行線』にいるようなものだ。
「そのおかしな世界だからこそ、死器という名の悪魔の武器が現代に生まれる。我はそれを撲滅する義務がある」
ファウストはゆっくりと右手を私に翳してきた。手のひらから徐々に魔力のエネルギー弾が膨らんでいくのが見える。
「そのために、まずは邪魔な貴様を塵も残さず消し去らしてやろう」
そして、ファウストの手のひらから魔力弾が放たれ、一瞬にして私の目の前で爆発した。
視界が真っ白に染められ、その後白い霧のようなものが消え、ファウストの姿を捉えた。
「……どういう事だ」
「今の私の魂はラミエルのものだからね。『星の魔女』の血を引いている以上、私に魔法攻撃は効かないよ」
「……輪廻転生か。あの男と同じように……」
翳したままの右手から無数の粒子が集まり、一本の剣を作り出した。しかもそれは、前に何度か見た事のある透き通った水晶の剣だった。
「神器『反命剣』」
「っ……!? その剣はっ!」
「そうだ。あの男が愛用するのと同じものだ。だが決定的に違う所が一つ――」
それは、真と偽の圧倒的な魔力値の差だ――!
衝撃の事実を告げられ、それと同時にファウストが迫ってきた。身体を左に捻り、右手の剣が右から異常な速さで斬り掛かってくる。
「くっ……!」
あれが……大蛇君の使ってた同じあの剣は偽物だって言うのっ!? でも悔しいけど、その疑問はすぐに晴れてしまった。今の一振りを魔剣キリシュタリアで受け止めた時にすぐ分かってしまった。
魔力値以前に神器本来の力が段違いだ。むしろ今の大蛇君が使ってる魔剣ちゃん……エリミネイトよりも一つや二つ上手と見ていい。
「これは……流石に手加減通用しない感じかな」
先程まで顔中に広がりきっていた余裕の笑みが、今の一撃で完全に脳から吹き飛ばされた。
「どうした、余裕はもう呆気なく消えたか。一度この我を死に陥れようとした貴様がもう限界か」
「へぇ……君はやっぱ何も知らないんだね。人間の……女の子の底力ってのをねっ!!」
言い終わりの叫びと同時に一気に剣を持つ両手に力を入れ、反命剣の刃を打ち砕く勢いで大きく弾き飛ばす。思わず目を強く瞑ってしまう程の金属音に似た甲高い音が両者の鼓膜を刺激する。それに耐えながら、私は更に一歩前に左足を踏み込んでもう一撃を加える。
「はああぁぁぁ!!!」
今度は見事にファウストの右肩を捉え、傷は浅くも左脇腹まで一直線に斬る。しかしその後、すぐにファウストの剣が私の首元目掛けて落ちていく。
「くはははっ! 流石はあの海王トリトンの娘! どこまでも我の想像を超えてくる!! さぁもっとだ……前よりももっと我を楽しませろ、あの男のようにっ!!!」
「……言われなくても楽しませてあげるよ! 『踊姫之斬歌』!!」
ほんの一瞬だが、ラミエルの声が私の声と重なり、それに気づいたファウストは息を呑む。ほんの僅かに遅れた反命剣の斬撃を右に避け、建物の壁を蹴る。金色に輝く魔剣キリシュタリアを頭上に構えながらファウストの頭上を捉える。
「やはりまだ隠してあったか……『創始壊終』!」
左手から白黒の稲妻が私を終焉へと誘う。ファウストの悪たらしい笑みと絶望の稲妻を前に、私は決死の一撃を叩きこむ。
「見せてみろ、貴様の底力とやらをっ!!!」
「はああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
――全てを賭けた一撃を放ったその刹那、雷鳴と共に響いた斬撃音と同時に視界が白紙に染まった。




