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黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》  作者: Siranui
第一章 海の惑星編
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第十五話「風と時、そして禁忌(下)」



 緊急任務:攫われたマリエルの捜索及び救出、『海の魔女』アースラの討伐


 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、カルマ、エイジ、トリトン、人魚4姉妹、武刀正義


 犠牲者:0名



 螺旋状(らせんじょう)に回る嵐。いや、竜巻と嵐を掛け合わせたようなものだろうか。


 亜玲澄は今、絶対に抗えない嵐という名の(おり)の中にいる。ここにいるだけでも風が肌を裂き、鮮血が嵐と共に回る。


「ちっ……! こんなんじゃマジで何も出来ねぇな!!」

『もう終わりです、戦神アレス。このまま微塵切(みじんぎ)りにされて死になさい……!!』


 風が更に強くなる。回る速度も速くなる。体制が更に取りづらくなる。


『おい、この状況でどうする気だ』

「まさかあの女が禁忌使えるとは思わねぇだろっ! 文句言うなら禁忌魔法を隠してたあいつに言えっ!!」


 ったく、今なんか人間の俺様に怒ってる場合じゃねぇんだよ。(こいつ)を何とかしないとマジで死んじまうからな。


 どうしたものか……。


 風の刃による切り傷を肌に直接負いながらこの状況を打破する方法を考える。水星(リヴァイス)に来る前に、勝手に着た博士の古着と思われる白いローブもベージュのズボンもボロボロになる。


 時変剣(スクルド)を持つ右手の力も徐々に弱まる。本当にこのままでは殺られる一方だ。


 この頭で考えろ、白神亜玲澄。この嵐を斬り払う方法をっ……!!!


『無駄です。今のお前ではこの嵐から出る事は出来ない。いい加減諦めなさいっ!!』


 風を(まつ)る女神の悪い声が聞こえる。生憎(あいにく)、少しずつその通りになりつつあるのが事実だ。全身と感覚を繋ぐ糸がもう切れそうだ。


『さあ、この運命を受け入れなさい! 貴方の道はここで閉ざされるっ!!』

「……。」


 体と心が無理矢理引き離されたような感じがする。この身は嵐に呑まれるまま上へと上っていく。さっきまで感じてた痛覚も何もかもが無い。


 即ち、これが『死』。悟った途端、運命は嘲笑(あざわら)う。英雄の紛い物が運命に抗うなど烏滸(おこ)がましいと――


『やっと諦めましたか。全く罰当たりな事です。あいつなんかに私のカルマは渡しません! たとえ男だろうとも!!』

「おいおい、重すぎる愛は逆に引き離されるぜ?」

『なっ……!? お前、死んでなかったのですか!?』


 先程まで嵐に身を任せていたはずの亜玲澄が、嵐の中心にバランスを取って浮いている。これはどういう事か。あれほど体制を崩していたのに、何故……



「悪いな。俺も一つ、お前に隠してた事があってなぁ。今から種明かししてやるよ!『時夢天変(パラダイムレイズ)』」


 瞬間、嵐が急に止み、女性は嵐から元の姿に戻った。視界が先程までいた森になる。一方で亜玲澄はボロボロながらも、痛がっている様子は無い。


「あ、嵐がっ……」

「残念だったなあ! お前の嵐は夢となって、元の姿に戻ってすぐ消えちまったぜ! 禁忌魔法が押し負けちまうなら、無かった事にしてリセットするまでってな!! どうだぁ! これが俺様の能力、『夢無(ゆめむ)』だああ!!」


夢無(ゆめむ)』。言葉通り、魔法や技を夢と化して、強制的に夢から覚ます事で無効化する。分かりやすく言うと『能力除去(デスペル)』と同じようなものだ。


 女性が夢無(ゆめむ)によって元の姿に戻った隙を逃さず、亜玲澄は右手に時変剣(スクルド)を持ちながら襲いかかる。


「こっからは俺様特製の極上料理のフルコースだぜええ!!!」

「なっ……!?」


 ふと振り返って攻撃を避けようとするが、いつの間にか『倍速遅延(ハイブレーキ)』をかけられ、動きが鈍くなる。


「おらああ!!」

「うっ……!」


 知らぬ間に背中が斬られる。その直後に左腕を斬られる。その後も一秒経たずに右腕、両足も斬られる。


「おら、遅ぇぜ風神さんよおお! 早く抵抗しねぇと料理が完成しちまうぜええ!?」

「は、速すぎて追いつけない……!」


 とっさに風を生成するも、腕が斬られたお陰で生成出来ない。それどころか身動きすら取れない。

 首だけを残した女性に対し、亜玲澄は地面を強く蹴って空中に飛ぶ。快晴の中、時変剣(スクルド)を大きく振りかぶる。刀身が太陽のお陰で(まばゆ)きだす。


「いっちょ上がりいいい!!」


 亜玲澄は渾身の一撃で振り下ろし、時変剣(スクルド)は女性の身体を真っ二つに断ち斬った。血飛沫(ちしぶき)(ほとばし)り、返り血を浴びる。


 血の雨はしばらく続いた。カルマに対する愛と同じくらい重い血の雨だ。


「はっ、まるで死んだ魚みてぇだな!」

『おい、(いく)ら何でもやりすぎだ。回復しろ』


 人間の方の亜玲澄が回復しろと命じても、戦神の方のアレスはそれを無視する。回復させるほどの身では無いと言う事か。もしそうなら許さないが。


 その時、ドクンッと心臓が大きく鳴った。


「っ……!?」


 魔力をもう消耗しきったのか。やはり人間(こいつ)(もろ)い。本来ならこれくらい大したものじゃねぇんだけどな……。


「ま、人間にしては耐えた方か……」


 直後、亜玲澄は仰向けに倒れた。時変剣(スクルド)が手元から消えるが、意識はしばらく戻らなかった。


 戦神と女神の勝負は実質相討ちで幕を下ろした――





 同時刻 海底――

 

 一匹の人魚……マリエルが『海の魔女』に連れ去られ、奪還するべく何とか仲介を果たした大蛇達と二手に分かれてから約3時間が経った。


 今現在、ここ水星(リヴァイス)の海底にはトリトン王と長女のラミエル、次女のサリエル、三女のメディエル、四女のウリエルの人魚4姉妹に、マリエルの友であるセンリとルイスの計7匹で周囲の警備を行っている。


 彼らもまた『海の魔女』を倒すべく大蛇達と協力している。


「王様〜っ、少し焦りすぎだよ〜。リラックスリラックス〜っ」

「……やはりサリエルには読まれていたか」

「私に隠し事なんて100万年早いよ、王様っ」


 トリトン王は平常でいたつもりだったが、呆気なくサリエルにそれを読まれた。余計に身体が震えてくる。


 サリエルの能力『思考読解(テレパシー)』。その名の通り、相手の心や考えてる事を文章のように読むことが出来る能力だ。


 仮にアースラが襲って来た際に誰が狙われるのか、攻撃してくるタイミング等も読み取る事が出来る優れた娘だ。


 だが、それ故に隠し事や嘘等はサリエルに一切通じないのがネックと言ったところか。


「ですけど、怖いのは私達も同じですわ。何だって相手はあの『海の魔女』アースラですからね」

「というか、大蛇さん、でしたっけ…? その方の他に地球から来てらっしゃる方はいないのですか?」

「「……」」


 四女のウリエルがふとそう言うと、全員が黙り込む。それもそのはず。

 あの『海の魔女』を大蛇と亜玲澄だけで倒すなんて事は無理な話だ。それは地球(あっち)側も予測しているはず。


「流石にあれだけでアースラを倒すのは無理だよね〜っ」

「いや、分からない」


 ゆったりとしたサリエルの言葉にトリトン王がストレートに返す。


「お前らも見ただろう。大蛇君の本気を。この私が手も足も出ない程にあの青年は強い。

 それにもう一人の方も同じようなものを持っているとすれば……我々に勝ち目はある」

「「……!!」」


 そうだ。あの2人は持っている。『禁忌魔法』を。あの時トリトン王を苦しめたあれを使えば、アースラに勝てるかもしれない。


「だ、だけどもう一回同じ事やったら……あの人の身体、今度こそ本当に壊れちゃうよ?」


 出来れば使ってほしく無いというのがメディエルの本音だ。確かに禁忌魔法は絶対的な力があるが、それ故に危険な魔法だ。

 一般的な魔法とは違い、禁忌魔法は時に使用者を(むしば)む事がある。最悪の場合、禁忌魔法自体が使用者の身体に憑依(ひょうい)して誰にも止められなくなる。


 ――つまりは『禁忌による世界の破滅』だ。


「確かに……彼の身の保証は出来ないわ」

「なら一体どうすれば……」


 わざわざ地球から来てくれたのに、故郷に帰れずにここで死なせる事だけはしたくない。それはここにいる全員がそう思っている。

 彼らをなるべく危険な目に遭う事無くかつ『海の魔女』を倒す方法を考えなければ――



「それなら俺が協力してやる」

「「……!!」」

「貴方は……!」


 突然の登場にラミエル以外全員が驚く。

 彼らの前に現れたのは、大蛇達と同じく人間だ。白い騎士服を身に(まと)い、背中に一本の長剣を差している黒髪の青年が続けてトリトン王達に提案する。


「俺もあの者とまではいかないが、人員は少しでも多い方が良いだろう? トリトン王」

「それはそうだが……。お主、大蛇君と同じく地球から来た者か?」


 大蛇達とは異なる(よそお)いに、トリトン王は顔を(しか)めながら青年の顔を見つめる。

 再び怒りそうになっているトリトン王をラミエルが何とか説得する。


「王様、この方……優羽汰さんも大蛇さん達と同じく地球から来た人間ですっ!それを確認した上で、私が彼に(まじな)いをかけたのです!」

「ふむ……そうか、それなら良いのだが。

 それで、お主の名を聞いておこうか」



 意外とあっさり説得出来たようでラミエルは安堵する。その周りには姉妹達とセンリとルイスが寄り添う。その一方で青年は姉妹達の前まで歩き、トリトン王の顔をじっと見ながら自分の名を名乗る。


「……俺は桐谷優羽汰(きりたにゆうた)。黒神大蛇らと同じく『海の魔女』の討伐任務としてここに来た者だ」

「桐谷……!?」

「ど、どうかされたのですか王様!」


 トリトン王が『桐谷』と聞いた途端に驚き、ルイスがすぐに駆けつける。


「……今から約60年前、お主と同じく『桐谷』と名乗った男が一度この水星に来訪し、当時のレイブン国王の反乱を止めたのだ。

 その者は一人で、たった二振りの剣だけでレイブンの軍隊を蹴散らした事でこの水星でも有名だ。まさか、その子孫がここに来たとは……!!」


 そう、これは奇跡としか言いようが無い。子孫という形で水星(リヴァイス)の英雄が帰ってきたのだ。

 この青年に大蛇君達を味方に出来れば、『海の魔女』など余裕で倒せる。今のトリトン王にはその確信しか無かった。


「お主、優羽汰と言ったな! 桐谷の血筋を引き継ぐ者よ! 是非、私達と協力して『海の魔女』を倒してくれっ……!!」


 トリトン王は、思わず大きな手で優羽汰の手を握手するかのように優しく握る。先程の反応とは全く違うトリトン王を見て、優羽汰は少し困った顔をしていた。


「優羽汰さん、王様はこういうキャラですのでどうかお気になさらずに……」

「ラミエル、それには限界があると思う……」


 気にするなと言われても、あれを気にしない方が難しい。正直に言って情緒不安定を疑ってしまうレベルだ。


 これでも王様の身分なのが凄い。よくこんな王様でこの(せかい)が成り立っているな。


「とりあえず、俺は任務完了まで王様達と協力するって事だな」

「そうだ。もちろん報酬も大蛇君達と一緒に考えさせてもらう」

「契約成立だな……」


 こうして、桐谷優羽汰が一時的ではあるが仲間に加わり、戦力がまた大幅に上がった。


「ゆ、優羽汰さん……こ、これからよろしくお願いしますっ……!」

「ゆうた〜、これからよろしくね〜っ」

「お、おう……」

「あの、優羽汰さんとても困ってますのでやめておいた方が良いですよっ!」


 サリエルとメディエルにいきなりグイグイと迫られ、優羽汰は再び困惑した。そこにウリエルが止めに行くも、時すでに遅しだった。


 そんな時間がしばらく続き、優羽汰は困りながらも何とか一日を乗り越えた。


 その日に海底内に『海の魔女』が現れる事は無かった。



(黒神大蛇。『海の魔女』なんかに殺されてくれるなよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――あいつは俺の(かたき)だ。俺以外の奴に殺させるわけにはいかない」



 その日の夜、優羽汰はただその事だけを思いながら眠りについた。


 そしてまた陽は昇り、暗い海底を照らし、一日が始まる――

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