第百四十六話「奇跡か、運命か」
緊急任務:ネフティスNo.6北条銀二の討伐、地球防衛組織ネフティスを北条の支配から奪還する
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ・ヴィーナス、涼宮凪沙、サーシェス、アルスタリア高等学院全生徒
犠牲者:???
二つの斬撃の軌跡が迸り、二人共に一時停止したかのようにピタッと動きを止める。
斬った後は何も感じない。二重の金属音があらゆる感覚をも斬り裂いたのだ。ただ一つ、痛みを除いて――
「ふぐっ……」
「っ……!」
結果は相討ち。双方共に渾身の一撃が命中し、致命傷を負ったと言っていいだろう。周囲の地面が二人の血で赤く塗りつぶされる。
「ふっ……大した男だよ、大蛇君」
「……総長こそ、これまで任務で戦ってきた敵なんかでは比較にならないですよ」
互いにその場で立ち上がった瞬間、身体がふらつく。もう限界を超えて強制的に機能を停止させたのだろう。だがそんな状態にも関わらず、正嗣総長は右手の刀を肩に担ぐように構え、全速力でこちらに迫ってくる。
「……だが、先に限界で尽きたのは……君の方だっ!」
ネフティスNo.1の名にかけて、そして死器を世から消し去るために……全ては人類を守るために、俺を殺す。今はただその一心で正嗣総長は無理矢理身体を動かしている。
刀身がふらつきながらも俺の左肩から滑るように斬っていく――
パァンッ――!!!
「――!!?」
刹那、一発の銃声で戦況を一転させた。背中を撃たれた正嗣総長はその場に血を流しながらバタリと倒れた。その後ろを見ると、正面で銃を構える見覚えのある少女の姿が目に焼き付いた。
「お……まえはっ……!?」
何で今ここに彼女がいるのかは分からない。だが満身創痍の俺を助けたのは確かだ。
「久しぶり……だね、おっ君」
「芽依……」
黒と裏地の赤いマントにピンクのタキシードとスカートを身に着けた長い金髪の少女。それは間違いなくあの桐雨芽依だった。だが何故ここにいるのか。今は刑務所にいると聞いたが……
いや、それよりも今は――
「ぁ…………」
「おっ君……? ねぇおっ君!?」
やっぱり、限界で身体が尽きたか。芽依の助けが無かったら間違いなく俺は正嗣総長に殺されていた。後で、礼でもしないとか……
やがて少女の声が聞こえなくなっていく。モスキート音さえも視界に映る闇が広がると共に消えていく。あらゆる意識がブレーカーが落ちたかのように途切れていく――
「……全く、君って男は無茶するんだから」
「えっ……貴方は!?」
大蛇が突然倒れてあたふたしている中、背後から別の声が聞こえた。身長が高い所以外は全く芽依と同じ姿の女性だ。
「本物のパンサーだよ、芽依ちゃん」
「――!!」
嘘だと思った。お互い日本の刑務所にいたとはいえ、まさか彼女も臨時釈放されるとは。
「貴方も、もしかして……」
その事を言おうとしたのが分かったのか、パンサーはふふっと微笑みながら答えた。
「マヤネーンというネフティスの人から頼まれたんだよ。臨時釈放という条件で、黒神大蛇君を助けてくれってね。君もそうでしょ、芽依ちゃん。多分恐らくはあの番長さんも、そのような経緯で皆日本に来てるよ」
「えっ……」
「少しずつ察しているとは思うけど、私達はこれからネフティスと戦う。この青年と一緒に……ね」
「そんな……」
芽依は思わずショックを受ける。今この日本……おっ君達の故郷で今大規模な内乱がハロウィンという行事に合わせて行われているのだ。それも私達を巻き込んで。でもこれは日本だけでなく世界的に影響を及ぼすと思われる。
「じゃあ、これから私達は凪沙ちゃんとも殺し合いをするってこと?」
「いや、その人は青年の味方についている。でもその人の相棒はネフティス側だよ。そこでマヤネーンって人から頼まれたのは、北条銀二という人を殺すだけでいい。それでネフティスを元通りに出来ればハッピーエンドさ」
その話を聞いて芽依はほっと一息をつく。まだとても完全には安心出来る状況ではないが、凪沙ちゃんが味方なら心強い。それに倒すべき敵は一人だけ。それさえ倒せばこの戦いも終わる。更に上手く行けばこれをもって釈放されることもあり得なくない。ネフティスはいわば警察の上に属する部隊なのだから。
「……そうだね」
芽依は自然に笑みを浮かべ、笑顔を取り戻した。そして両手を大蛇に向けて翳し、回復魔法を唱える。
「……まずはそっちが優先、だね」
パンサーも納得したかのように頷き、同じように唱える。直後、大蛇を中心に巨大な魔法陣が展開され、優しい緑の風が大蛇の傷だらけの身体を優しく撫でる。
「まさか、こんな所でこれが役に立つとはね……」
パンサーはとっさにポケットから雫のような形をした結晶を取り出し、大蛇の右手に握らせる。あらゆる幸福をもたらすとされている、『魔女之結晶』を。
「君に、幸福が訪れますように――」
パンサーはただそれだけを呟き、目を閉じた――




