第百四十一話「全面戦争前夜(北条ルート)」
時計の長針が動く度にその時が迫ってくる。心臓が段々と脈を打つ。想像の中で俺の運命にまとわりつく悪魔が嗤う。まるで俺の死を予知するかのように。俺の命日を悟るかのように――
◇
西暦2005年 10月30日 東京都渋谷区 とあるマンションの一室――
この時期の東京……いや、日本はオレンジの光に包まれた。ありとあらゆる建物に装飾がなされ、仮装をした者達で街が満たされた。
そんな街中を黒いコートを羽織った根暗な男は通り抜け、街灯しか照らさない暗い道路を歩く。その途中、右ポケットの携帯が震える。
「……計画は順調か」
『うん、今のところはね〜。このまま明日には間に合いそうだよ〜』
『うんうん、マコの言う通りだね〜。しかもネフティスっていうでっかい組織が仲間なんでしょ〜? 一人の化け物だってへんてこないでしょ〜!』
『ピコっ! たとえそうでも気を抜いたらダメって魔法使いさんに言われたでしょ〜!』
『ごめんって〜。……じゃ、また後でね〜』
ブチッという音と共に画面が真っ暗になる。それを確認して携帯を閉じ、ポケットに入れる。
「……魔法使いさん、か」
突如聞こえてきたこの言葉に思わず笑みが溢れてしまう。
「……昔はそんな真似事もやっていた記憶があったな。あの薬を作ったとして組織に身柄を特定されないための目隠しに過ぎなかったがな」
誰もいない、しんみりとした道の真ん中で雲がかった夜空を眺めながら呟く。ふと左ポケットから煙草の箱とライターを取り出す。そして煙草を口に加えて火をつけ、ふぅ……と口から二酸化炭素と共に煙草の煙をゆっくりと吐く。
「まぁいい。あれも全てこの時のためにやってきたからな。ついにこの時が来る……さぁ、ハッピーハロウィンだ」
その言葉はハロウィンを迎える人類への祝福か。それとも地獄を待ち受ける者達への鎮魂曲か。
その未来は、運命だけが知っている――
……さぁ、全面戦争の始まりだ。




