第百三十九話「全面戦争前夜(アルスタリア高等学院ルート)」
――太陽を直視しているように眩しい。そして温かい。
それだけ結界の中は……俺の未来は闇に塗れていたのだろうか。寒かったのだろうか。
あの時返り血を浴びながら魔物をただ斬り殺していたある冬の日のように――
◇
西暦2005年 10月20日 アルスタリア高等学院――
第五次剣血喝祭が予想だにしなかった結末を迎えて終えてから約3ヶ月が経った。予想だにしなかった結末……それは、史上初『常夏の血祭り』での犠牲者が誰一人もいなかった事だ。それによりロスト・ゼロ作戦は無事成功した。
そして今、新しく作られた教会にある青年を除く全生徒が集った。教壇に立つベディヴィエル・レントはその身を包帯でグルグルに巻いた状態で腹から声を出す。
「――我々アルスタリア高等学院は、今回の第五次剣血喝祭で誰一人帰らぬ人とならずにこの地に帰ってきた! これは今までに無い快挙と言っても過言では無いっ!!」
すぐに教会から大歓声が湧き、ある者は友達と泣きながら抱きしめたり、ある者は喜びを叫ぶ姿もあった。
そんな中ベディヴィエルはすぐに表情を引き締め、続きを話した。
「しかし、同時に祭典の裏に隠れた闇も明かされつつある。それも、これから我々が入隊するネフティスが大きく絡んでいる!」
その言葉が教会に響いた時、一斉に歓声が静まり、ざわつき始めた。
「現ネフティスNo.6であり、私をここまで導いてくださった恩師……北条銀二がこの学園内に『死器』と呼ばれる危険極まりない武具を置き、それを弊校生徒の一人が取り込んだ! 我々が懸命に血と剣を以て競った祭典の裏でこのような事例が起きているのだ! 当然、我々はそれを許すわけにはいかないっ!!」
心の奥底から吐き出したベディヴィエルの怒りにほとんどの生徒が雄叫びをあげる。だが一部の生徒達は突然の出来事に恐怖を覚えていた。
「更に今回の剣血喝祭も、全てその生徒を殺すためだけに突如開催したものであり、怒りを覚えている! だが、我々生徒会一同はその簡単な罠にはまってはそれに加担していた。この場を持って生徒会代表として深くお詫び申し上げる!!」
深々と頭を下げたベディヴィエルに、多くの生徒が怒声ではなく拍手を教会内に鳴り響かせた。その光景にベディヴィエルは軽く頭を下げて礼をする。
「しかし、そんな我々に絶好の機会がやってきた! 地球暦2005年10月末、北条銀二が再び死器を取り込んだ生徒を殺害するという情報が入ってきた! そこで急遽我々はその生徒……特別区分一年黒神大蛇に加勢し、北条銀二討伐をここに宣言する!!!」
刹那、機会が一斉に歓喜と雄叫びで満ち溢れた。それを教壇の上で浴びながら、ベディヴィエルはただじっと上を見上げていた。
(北条さん……我が恩師といえど、人々を助けるネフティスからかけ離れたその行動は決して許されない。10月末、必ずや貴方に裁きの鉄槌を下す!!)
歓声が響く中、ベディヴィエルはただずっと覚悟を固めるべく深呼吸を繰り返していた。
剣血喝祭の悲劇から生徒達を救った英雄を守るために、己の恩師を殺す覚悟を――
そして日々の授業と共に時は流れ、子供達が仮装をしながらお菓子を持ち歩くようになった――




