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第八話「暖かい声、狂う心」

 あらすじ


「お前も()()()()()()()()()()()

「どういう、意味だっ……」


 偶然かつ奇跡的な再会を果たした俺――八岐大蛇(やまたのおろち)とアレス。しかし、突如アレスの口から放たれた言葉に俺は疑問を抱くばかりであった。




 アレスと再会してから約一ヶ月。過去の身体の影響があってか、全身の痛みが完全に消え失せた。


 アレス曰く、『その身体でよくあれほど高いビルから落ちたな』と。この身体ではあれだけで普通は死に至るらしい。


 しかし、俺は身体の骨を数本折っただけで済んだだけでなく、この一ヶ月で完治させた。昨日までリハビリという訓練のようなものすら出来ない状態だった。だが日をまたぐ間にまともに戦えるくらいまで回復していた。



 ――看護師に驚かれたものの、俺は退院する事になった。病院の入口の自動ドアを抜けると、目の前に白いセダンタイプの車が止まっていた。


「おーい! こっちこっち!!」


 後部座席の窓から身を乗り出して手を振る青年。アレスだ。よく分からないが呼ばれてるようなので、ひとまず後部座席に乗った。直後すぐに車が発進した。


「――おい」


 誰か呼んでいるのか? それとも幻聴なのか……?


「――おい、着いたぞ!」

「はっ……」


 寝ていたのか、起きてすぐ頭がもやもやする。視界がぼやけてよく見えない。しばらくして少しずついつもの状態に戻る。


「随分と眠っていたな、オロチ」


 運転席にいる中年の男性から俺の名を呼ぶ声が聞こえた。当然俺はその男のことは知らない。


「あ……えっと、どちら様ですか……?」


 突然名前呼びされたのもあるが、かなり緊張気味に話しかける。


「ははっ、そんな緊張するなよ! この人はアズレーン博士。ネフティスってとこで魔術の研究を行っている人だ」

「ネフティスっ……!?」


 刹那、全身が驚くほど震えた。あの人の優しい声が脳内再生される。『おっ君』と俺を呼ぶ声が。もう二度と聞けない声が脳に響き渡る。


「あっ……ああっ!!」



 もうその単語を聞きたくない。その単語が俺を(むしば)む。俺を破滅へと導く――


「オロチ! 何があった!? とりあえず落ち着け!!」

「ああああああっ!!!!」


 車内にも関わらずアレスが俺の全身を身体を使って拘束する。これで車が破壊されたらたまったものではないと思っているのだろう。


「アレス。これで確証がついたね」

「くっ……どういう事ですか、博士!」


 必死に俺を拘束しながらアレスは博士に問う。実際言葉を発する余裕も無く、少しでも俺を縛る両手両足の力を緩めればこの車は破壊される。


 更にここは高速道路だ。尚更そんな事を親友(オロチ)にさせるわけにはいかない。


 そんな状態のアレスに、アズレーン博士は淡々と言葉を口にした。


「ネフティス本部長錦野智優美(にしきのちゆみ)殺人事件の犯人は彼だ」

「――!!」

「正確には()()()()()()()()()()()だ」

「身体を……乗っ取る……!?」



 アレスは思わず息を詰まらせる。直後俺が暴れたので、はっとなってすぐに力を両手両足に入れて縛る。


「あぁ。一時的ではあるが彼は一度何者かに身体を乗っ取られたと見ていいだろう。身体の支配権を強制的に奪われ、されるがままに身体を使わされ、大切な人を己の手で殺めた。

 その魂が誰のものかは分からないが、彼はその魂と己の無力さに対する怒りに加え、大切な人を助けられなかった侮しさ、悲しさが混ざり合って暴走に至った。」


「自分がしたわけじゃ無いのに身体はしてしまったって事か……?」


(どういう事だ。言っている事のほとんどが理解不能だ。オロチがネフティス本部長を何者かに乗っ取られた状態で殺した……? 冗談にも程がある。逆に博士がその考えにまで至っている事自体が理解不能だ。)


「とりあえず、彼はそっとしておいてやれ」

「とは言ってもまだ、暴れてる……んだぞ!」

「降ろしてからでいい。状態を見るに、彼は既に精神的にかなりのダメージを負っている。ネフティスというワードだけでもこの有様だからな」

「あああ!! ……がっ、ぁぁああああ!!!」


 暴走しているとはいえ、魔力を解放していないのが幸いだ。もしかしたら今も解放したいのかもしれない。


「オロチ、今はとにかく耐えろっ……!」

「ああああああああ!!!」


 車が今、高速道路を降りた。ようやく兵庫県か。(アジト)に着くまでここからではあと二十分くらいといったところだ。


「あともう少しだからっ……気持ちに負けるんじゃねぇぞ!!」


 アレスは俺の身を拘束しながら心の中にいる、()()()()()()()()に声をかけた。


 ……大丈夫だ。敵族で唯一俺やエレイナが認めた友なんだ。自分の気持ちなんかに負けるはずが無い。


「オロチ、お前はそれを望んでいるのか! 妹が……エレイナがお前にそんな事を望むと思うか!」

「がああああああああ!!!!」


 何度声をかけても、暴走が収まる気配がない。


「……くそっ、エレイナがここに来ていればこんな暴走しなくても良かったってのに!」

(……おい、博士! いつになったら着くんだ! 一刻も早く着いてくれ! 頼むから!!)


 アレスは必死に俺を抑えながら思った。一分一秒がとても長く感じる。こんな状況にも関わらず、アズレーン博士は冷静を維持したまま通常通りの速度で車を動かしている。


(遅い、遅すぎる。それでは俺が力尽きる。オロチの暴走を許してしまう――)


 長く感じた道のりの中、アレスは徐々に意識を失いそうになった。


「くそっ……こんな時に車酔いかよっ、うぅっ……!!」


 だが今はそんな事で休んでいる訳にはいかない。家に着くまでに、何とか俺の暴走を止めなくては……


「あっ……やべぇ……」


 次第に俺を抑える力も弱まっていき、アレスは後部座席に横たわった。



 その時、後部座席のドアが開く音がした――

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