赤い風船
いつもの帰り道。
赤い何かが木の枝に引っかかっていた。
気になって近づいてみると、風船だった。
近くでこどもが泣いている。
「ちょっと、待ってて。今取ってあげるから」
木登りは久しぶりだ。
スカートだけどまぁ、いっか。
誰も見てないし。
私はカバンを横に置いて、
登り始めた。
あっという間に風船に手が届く。
まだまだ私も捨てたもんじゃないな。
降りようとしたその時、
ドシンと言う音とともに私は、足をすべらせて木から落ちてしまった。
でも風船は何とか握っていて無事だった。
そんな様子も全く気にならず子どもは、相変わらず泣いていた。
あーよかった。こんなかっこ悪いとこ見られてなくて。
私は泣いている子どもに近づいて、
「はい、風船。もう手をはなしちゃだめだよ」
「あ、ありがとう」
さっきまで泣いていた子どもは、みるみる笑顔になった。
やっぱり子どもは泣いているより笑顔がいちばんね。
あ、久しぶりにいい気分♪
木から落ちておしりが少しいたいけど、
あの子の笑顔が見れたからまぁいいか。
次の日、またあそこの木に何か引っかかっていた。
近づくと昨日と同じ赤い風船が一つ。
だけど泣いている子どもはいない。
誰かが離した物がここにひっかかったのかな。
どうしよう。このままにしておいた方がいいのかな。
ああ、でもやっぱりとってあげよう。
私は再び木に登りその風船に近づいた。
そして不思議な光景を目にした。
何とそこには昨日の風船をとってあげた子どもがいるではないか。
引っかかっていた赤い風船を握りしめている。
「こっちにおいでよ」子どもが手招きしている。
「今、行くからね」私は、何とか子どもの隣にたどり着いた。
あれ、よく見ると昨日の子どもと違う様な。
そんな事を考えていると、私の心を読んだ様に子どもが突然しゃべりだした。
「昨日は、弟の風船をとってくれてありがとう」
ああ、兄だったのかどうりで少し違うと思った。
「でも何でまたここに?」
「ここは弟が好きだった場所なんだ。赤い風船は弟が好きな物だった。でもいつもずっと持っていられなくてね。気づくと手を離してどこかにとんでいってしまうんだ。そしていつも探すのは僕の役目」
「そうだったんだ」
「じゃぁ、ぼくはそろそろ時間だから。帰らなくちゃ。最後におねえさんにお礼が言えてよかったよ」
「え、もう行っちゃうの?私はまだ聞きたい事が、、、」
残念なことにここで私はバランスを崩し、木から落ちてしまったようだ。
あいたたた、、、またもやお尻をぶつけたようだ。
手には、赤い風船が握られていた。
あれ、昨日と同じ?
やはり木から落ちたとき、頭をぶつけたのだろうか。
記憶が所々おかしい。
泣いている子ども、木に登ってお礼を言った子どもはどこへ。
謎がいっぱいで、私の頭では解決できそうにない。
でも一つだけ分かった事がある、
これは夢じゃなかったってこと。
風船の紐の先に手紙がついていた。
そこには「おねえさん、ありがとう」とおぼえたての子どもの字で書かれていた。
空を見上げると、雲の形があのなかよし兄弟に見えたのは気のせいかな。