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触手になりたいお姫様 ~カッコイイ触手に弟子入りして超柔軟になった体で立派な姫を目指します~  作者: エタメタノール


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第10話 お忍びデート

 お忍びデートの朝、ミリアはいそいそと着替える。


 リンが声をかけてくる。長年付き合いのある彼女ですら今日のことは知らない。


「ミリア様、今日はお出かけですか?」


「ええ、ちょっとね」


「しかし……お召し物が地味なような。まるで庶民のような恰好ですよ?」


「いいのいいの! 今日は私、地味な気分だから!」


「そうですか……かしこまりました」


「じゃあ行ってくるね!」


「行ってらっしゃいませ」


 ミリアが出発する。ドジっ子だったリンもずいぶん鋭くなったわね、と感心する。




 エディとの待ち合わせ場所は城下町の噴水だった。彼も場所を知っている。

 しかし、心配になってくる。

 同盟を破綻させる企みがあったとして、もしここに来るまでに、彼が物騒な連中に襲われたら……。


 すると――


 フードを纏った男が近づいてくる。警戒するミリア。


「あ、あなたは……?」


「僕だよ」


 フードを取ると、現れたのはエディの顔だった。


「本当に来てくれたのね!」


「うん。僕もどうしても君と二人でデートしたかったから……」


 これがおそらく、二人の“初めての会話”だろう。

 一国の王子が自分のために国を抜け出してくれた。この事実が嬉しかった。


「二人とも、揃ったようだな!」


 男女の甘いムードをブチ壊す大声。庶民的服装のミルドだ。


「こんにちは、お兄さん」


「誰がお兄さんだ! ……と言いたいところだが、影武者使ってまでうちの国に来る根性だけは認めてやるよ」


「ありがとうございます!」


 この二人、一応未来のプラン国王とリナート国王なのだが、こんな仲でいいのか……と突っ込みたくなるミリア。


「今日は俺たち王子部隊がかげながらお前たちを守る。まあ、泥船に乗ったつもりでいろ!」


「大船ね」


「ミリア、デートコースは考えてあるんだろうな?」


「もっちろん! お兄様じゃないんだから」


「ぐぬぬ……」


 この兄は無計画で事を運んで失敗したことがあるらしい。


「エディ様とどうしても行きたかったところがあるの!」


「どこだ?」


「ロドスの町!」


「ロドスか……いいかもしれないな」


「でしょ? 私もほとんど行ったことはないのだけれど、ずっと憧れてたの」


 二人の地元トークに、エディは当然ついていけない。


「ロドスというのはどんな町なんだい?」


「それは行ってからのお楽しみよ、エディ様」


 ミリアがウインクする。

 女慣れしていないエディはそれだけで赤面してしまうのだった。



**********



 ロドスの町は首都からさらに西に向かったところにある町だった。


 建物や道路が整った城下町とは違い、下町情緒あふれた雑多な町である。しかし、活気に満ちている。


「へえ、出店がいっぱいあるね!」


「でしょー!」


 ミリアとエディは色んな店を回った。

 二人は16歳と17歳、まだまだ遊びたい盛りである。


 装飾品アクセサリーを売ってる出店があった。

 ミリアが普段つけてる宝石類には遠く及ばない安物ばかり。しかし、ミリアにはそれがとても新鮮に映った。子供のように目を輝かせる。


「もしよかったら……どれか買おうか?」


「え、いいの?」


「うん。お金は持ってきてあるし、こういう時ぐらい僕にも恰好つけさせてよ」


「ありがとう。じゃあ……これ!」


 青い石がついたペンダントを買う。そこらの石を青く塗っただけの代物だろう。なのにとても愛おしかった。

 さっそく首から下げてみる。


「うん、とてもよく似合ってるよ」


「ありがとう!」


 ミリアにとっては、初めてもらう恋人からのプレゼント。

 一生の宝物にしよう……と心に誓った。


 雑踏をしばらく歩くとお腹がすいてきた。


「そろそろ何か食べようか?」


「そうね、お腹すいちゃった!」


 ミリアが指さす。


「あれなんかどう?」


 エプロンをつけた店主がこれ見よがしに豪快に肉の塊を切っている。調理と宣伝を兼ねているのだろう。


「おいしそうだね」


「決まりね!」


 二人が料金を払うと、店主はざっくり切ったでかい肉を、これまたでっかいパンで挟んだ。

 なんという荒っぽさ。王族にとっては未知の料理だ。

 どうやって食べるのかと悩む二人を見かねて、店主が言う。


「これはね、一気にガブッとかぶりつくんだよ」


 ミリアとエディは頷き合う。


「いただきまーす!」


 かぶりつくミリア。


「僕もいただきます」


 上品にかぶりつくエディ。


「ん~……おいしい!」


「うん……これはおいしい。肉がジューシィで、ソースも素晴らしい味で……」


 素直に喜ぶミリアと丁寧な食レポを始めるエディ。性格がもろに出ている。


「ハハハ、褒めてくれてありがとうよ」


 ムシャムシャと食べるミリア。モクモクと食べるエディ。


「ごめんね、食べるの遅くって」


「ううん、全然! 私こそ早食いはいけないのについ……」


「あ、口元にソースついてるよ」


「やだ、いけない!」


 ハンカチで拭う。ところが逆効果。ソースはさらに顔に広まってしまった。


「ぷくく……ミリア姫、すごい顔になってるよ」


「え~!? うそぉ~!? どうしよう~!?」




 他にも町にはアトラクションが設置された一角があった。

 輪投げができるコーナーがある。小銭一枚で輪を一つ投げられ、入った場所に応じた景品をもらえる仕組みだ。


「僕、チャレンジしてみようかな」


「やってみて、エディ様!」


 エディが身を乗り出す。

 場を仕切っている親父にお金を払い、輪を受け取る。


「ファイト!」


「任せといてよ」


 真剣な眼差しで輪の狙いを定める。


「それっ!」


 張り切って投げるが、輪は大きく外れてしまった。


「ハハハ、ダメだよ。力を入れすぎ」


「ううう……」


 エディ、撃沈。人生初めての輪投げはほろ苦い結果となった。


「そっちのお嬢ちゃんもやってみるかい」


 親父に誘われ、ミリアもうなずく。


「よーし、やってみる!」


「頑張って!」


 エディの応援を受け、輪を持つ。


 棒を見つめて、ミリアは師匠の言葉を思い出す。


 ――狙った獲物は逃がすな!


「えいっ!」


 手首を持ち前の柔軟性でスナップをきかせ、投げる。

 

 ――スポッ!


「入った! すごい!」


「やったぁ!」


 両手を合わせ、喜ぶ二人。


「すげえな、お嬢ちゃん。じゃあ景品をやろう」


 なんとも珍妙な人形を手に入れた。魔除けにはなりそうな代物だ。


 ミリアもエディも沈黙してしまう。


「……えーと、ワーイ! やったーっ!」


「よ、よかったねミリア姫!」




 今度は大通りで道化師が大道芸をやっている。


「あ、見ていこうよ! 楽しそう!」


「そうだね」


 軽快な音楽と共に、道化師がジャグリング、パントマイム、玉乗りなどのパフォーマンスを披露する。


 芸が終わると、皆が一斉にチップを投げる。

 作法を知らなかった二人も慌てて投げる。


 ミリアはてっきり道化師にお金をぶつけるイベントかと思い、道化師にコインを投げつけた。スナップをきかせて。


「痛い、痛いよ! お嬢ちゃん! オイラは貯金箱じゃないよ~!」


 と言われ頬を染める。エディはそんなミリアを優しく慰めるのだった。




 ロドスの町を堪能した二人は、次の場所スポットに移ることにした。

 エディが問いかける。


「次はどこに行くんだい?」


「えっとね……国立ユークリア公園!」


「どんな公園なの?」


「綺麗な芝生があってね、緑の絨毯って感じでとっても奇麗なの。そこでなら、あなたと色んなお話できると思うから」


 こうしてミリア、エディ、そしてミルド率いる王子部隊はユークリア公園に向かうことになった。



**********



 国立ユークリア公園――

 広く綺麗な公園だが、デートスポットとしてはややマイナーな場所といったところ。

 だからこそ、ミリアもここを選んだ。

 

 ミルドが二人に言う。


「ここはロドスに比べたら、ずっと警護しやすい場所だ。あるのはちょっとした雑木林や池ぐらいで、曲者が隠れられそうなとこなんてないものな。

 出入り口は俺らがしっかり固めておくから、二人きりでデートを楽しんでこい!」


「うん!」


「ありがとうございます!」


 幸い公園にほとんど人はおらず、ミリアとエディは容易に二人きりになれた。


「エディ様……」


「なんだい?」


「せっかくだし……手、つなごっか」


「そ、そうだね」


 ギュッと手をつなぐ二人。

 お互いの体温を感じ、二人は赤くなった。身内や家臣以外の異性と殆ど触れ合ったことなどないのだから無理もない。


 広々とした公園をただ歩く。

 取り留めのない会話をしながら。

 それだけで楽しかった。

 ああ、この人となら一生やっていける……そんな気がした。


「エディ様」


「なんだい?」


「エディ様は私との結婚話が舞い込んできた時、どう思った?」


 エディは少し考えてから、


「リナートとプランの同盟は長年の悲願だった。これが達成されるのなら、僕は喜んで結婚しようと思ったよ」


「そうなんだ。不安を抱えてた私とは大違い」


「不安なのは当然だよ。僕だって不安だったんだから」


 エディがミリアを見る。


「でもね、ミリア姫」


「……?」


「君と出会った時、僕は君に一目で惚れてしまった」


「え……」


「ホントだよ。国同士がどうこうより、本気で君と一緒になりたいって思えた」


 エディのまっすぐな瞳に、赤面してしまうミリア。


「そうでなきゃ……君でなきゃ……危険を冒してまで、こうしてお忍びデートをしたりしなかったよ」


「あ、ありがとう……」


 エディも言ってから出過ぎたことを言ったと思ったのか、顔を赤くしてしまう。


「だけど……一つ気になることがあるんだ」


「なに?」


「君は……何か僕に隠してないかな?」


 ギクリとするミリア。


「これは僕の勘なんだけど、君はまだ本当の自分を見せてくれてないような気がして……」


 本当の自分――触手を目指している自分。

 まだエディには片鱗すら見せたことがなかった。


 一国の姫が、一国の王子にウネウネしていいはずがない。

 少なくとも婚礼までは我慢しなければならない。

 だが、婚礼までに見せるというのが礼儀という気もした。隠し事は一切ない状態で、婚礼を迎えたかった。


「エディ様……」


「なんだい?」


「私、私……」


 今こそ言おう。触手を目指してることを。免許皆伝さえもらったことを。

 ミリアはそう決心した。


 ――その時だった。


 ズブブブブ……。

 二人の近くにあった池から、何かが浮かび上がってきた。


「きゃっ!?」


「な、なんだ!?」


「お魚かしら……」


「いや違う……人だ!」


 池から現れたのは、黒装束を身につけた薄気味悪い男だった。両手には鉄の爪をつけている。

 ミリアもエディも男の正体が一目で分かった。


 ――暗殺者!


 プランとリナートの同盟を嫌い、二人のお忍びデートを察知した第三国が差し向けた刺客だ。

 おそらくこれまではミルドや王子部隊のせいで手を出せなかったが、この広い公園で二人きりになるのを見て、池に潜んでずっと待っていたのだろう。

 ミルドはこの公園なら警護しやすい。二人きりにしてやる――と言っていたが、かえって暗殺者にチャンスを与えてしまった。

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