8話 ダンジョン
「……やっと魔力が少しだけ動かせるようになってきたわ。そういえばレンはどれくらいで動かせるようになったの?」
「そんなことを知ってどうする」
「基準が無いと頑張れないのよ」
基準か。俺がどれくらいで魔力を動かせるようになったかなんて聞いたら寧ろ頑張る気が失せると思うんだが。5歳から魔法を学び始めた俺が魔法を教えてくれた教師のやり方が変だと思っていたわけだ。つまり、
「俺は生まれたころから魔力を感じられるようになって3日で自在に魔力を操れるようになった」
「……聞いて損したわ」
はぁ、と溜息を吐くとリンはまた歩きながら魔力を動かす練習を始める。そもそも幼いころから魔力操作ができていた俺の場合は魔法を教わる必要などなかったのだが、親の前で魔法を見せていなかったため教師をつけられた。
まあ、魔法を勉強する中でイメージが俺の中で固まっていったから決して無駄な事では無かったのだが。魔法の勉強と剣の修練で友が居なかったとは言っているが、魔法に関しては好きだったからそこまで苦でも無かった。
次から次へと襲い掛かってくる強力な魔物達を魔法でいなしながら森の奥へと歩いていく。魔力感知と探知魔法を組み合わせた俺の探知能力は誰も真似ができないだろう。魔物どもがこちらに襲い掛かる前に魔法で攻撃しているため、リンは魔物の存在に気付かずに魔法の練習に集中できている。
「ん?なんだこれは」
「どうしたのレン。何か見つけた?」
「ああ。唯の洞窟かと思っていたがこれは」
早速気になった場所へと足を向ける。
「この洞窟の事?」
「ああ」
一見するとごく普通の洞窟。しかし、その洞窟はどこかおかしなところがあった。
「これはダンジョンだな」
「ダンジョンッ!?こんなところにダンジョンなんてあるんだ!」
ダンジョンは基本的には魔力が多く存在しているところに核が生成されることによってできる。絶界は他の地域よりも魔力濃度が高いため、あるとは思っていたがこんなに早く見つかるとは。
「ダンジョンは物資の宝庫だ。この場所はちゃんと印でもつけて覚えておこう」
そうして俺は印魔法をダンジョンにかける。この印魔法は俺が探知魔法をするだけで位置情報が分かる優れモノだ。まあ、いつでも転移で来られるんだが、地図を作る時に便利だろ。
俺は印魔法がちゃんと機能しているかを確認すると、ダンジョンとは違う方向へと歩き出す。
「あれ?ダンジョンには行かないの?」
「まだ行かない。今日は大陸の探索が目的だから」
転移で飛んで調べればいいのかもしれないが、飛んだ先が俺でも危険な場所の可能性だってあるわけだし、それならこうやって歩く方が良い。
帰りは勿論転移で帰るが。
ダンジョンから離れて暫く歩いていく。そして、家から大分離れたであろう所まで来た時、不意に前方から凄まじい程の魔力を感じた。
「……止まれ」
「ん?何かあったの?」
俺の指示に従い、歩みを止めるリン。俺の様子が少しおかしいことに気が付いたのだろう。
「ヤバい奴がいる」
「ヤバいって?」
「文字通り危険すぎる奴がいるってことだよ」
禍々しい魔力を隠すことなく辺りに発散している魔物。探知魔法で引っ掛かっただけのため、ここからはかなり離れてはいるが、それでもこれ以上近づくと、相手側も気付いて襲い掛かってくるかもしれない。
「一先ず今日は帰ろうとしよう。あいつはまだ触れちゃいけないやつだ」
俺がそこまで言うのに不安を覚えたのだろう。リンは心細そうな顔で頷く。
実際、今の俺では良くて差し違えるくらいには強いと感じた。奴は恐らくこの森の『主』だろう。
俺達は探索はそこまでにして家に帰るのであった。