7話 大陸散策
「じゃあ、まずはこの大陸を散策して使えるものを探したい。リンはどうする?付いてくるか?」
「当たり前でしょ。ここで一人なんて嫌よ」
だろうな。俺も不安だ。
「まだ見ていないところを探索する。出来る限り魔物が居ないところを進むつもりだが、十分気を付けてくれよ」
そう言って俺が家の扉を開く。
「……やっぱ魔物を避けるのは無理かもな」
「きゃあ!」
いつの間にか家の周りを魔物の群れに囲まれていたようだ。猿型の魔物どもがこちらが結界の外に出るのを今か今かと待ち構えている。
「待って!この魔物知ってるわ!Cランクのレッドモンキーよ!」
「Cランクだと?」
そんな奴等がこの島で生きていけるとは思えない。確かに鑑定魔法ではレッドモンキーと書かれているが、普通のレッドモンキーとは少し違う。
レッドモンキーはもっと明るい赤の色だがこの猿共の体色は暗い赤だ。
そして何よりも違うのが、このレッドモンキーたちは通常では持っていないはずの魔力を持っている。
どうやらこの過酷な生態系で生き残るために独自の進化を遂げたようだ。
「地槍」
俺がそう唱えると、全方位に向けてすさまじい勢いで地面から硬質な地属性の刃が繰り出され、レッドモンキーの体を貫いていく。
「さぁ、行くぞ」
「……威力どうなってんのよ。一応それ、初級魔法の筈なんだけど」
別にこれが全力という訳ではないが。
「恐らく肉を焼いた臭いでこちらに寄ってきていたのだろう。朝だというのに忙しない奴等だ」
気を取り直して森の中を歩いていく。今回は物資があるかどうかの確認だ。足りないものは人界で買い揃えれば良いのだが、こちらでとれるのにわざわざ向こうで買うのは勿体ない。ただでさえ、1ルークたりとも金が無いため、できるだけ節約がしたい。
「そういえば疑問に思っていたのだがリンは魔法を使わないのか?」
「使わないというか使えないという方が正しいわね。魔法を教えてもらったことが無いもの」
16歳でまだ魔法を習わないのか。やはり人界と魔界では勝手が違うんだな。
「この大陸で生きていくには魔法は必要だし、帰ったら俺が教えてやろうか?」
「いいの!?うん、教えて!」
リンは目を輝かせて教えてやろうかという俺の言葉に食いついてくる。
「そんなに魔法に興味があったのか。ならどうして人界で習わなかったんだ?」
「私の親が過保護でね。魔法なんて危険な物を娘に教えられるかって言って魔導書にすら触れさせてもらえなかったの」
魔界では魔法がないと自分の身を守れないため、覚えるのは必須だったんだがな。人界では逆の考え方なのか。
「じゃあ、まあ歩きながらできる練習でもしておくか。まず魔力を一点に集中させる練習をするんだ」
「魔力を一点に?そんなこと出来ないわよ?」
「出来ないからするんだよ。まずは魔力操作を完璧にしないと」
「魔力操作?魔法って魔法の名前を唱えるだけで良いんじゃないの?その言葉自体に力があるって兄から聞いてたけど」
首を傾げながらそう聞いてくるリン。
「言葉自体に力がある?もしそうだとしたら日常会話中にふいに魔法が発動されるだろ。魔法は魔力を操作してイメージを発現させることだ。文字なんかに意味は無い」
「そうなの?」
「そうだ。例えば、地弾」
そうして俺の目の前に現れたのは口で唱えた地弾ではなく、無数の火弾であった。
「どうして火弾が?」
「なんなら無言でもできるぞ。名前を言ってるのはイメージしやすくするためだけだし」
俺が今度は何も唱えずに手を前にかざすと、そこには地属性の弾が生成されて放たれる。
「すごい!そんなこと魔法学園首席の兄ですらできなかったわよ」
「別にそこまで凄いことをやっているわけではないんだがな」
だが、確かに俺の魔法の教師も何故か文字に力があるから魔力さえあれば呪文を唱えるだけで魔法が発動するとか言ってたな。
当時は何故そんな変な教え方をするのだろうかと不思議に思っていたが、もしかしたらそっちの方が一般的で俺の考えが普通ではないのかもしれない。
「ならまずは自分の魔力を感じ取るところからだな」
こうして歩きながらの魔法講座が始まるのであった。