5話 追放された者
「それでリンはどうしてこんなところに居るんだ?」
「国を追い出されたから」
どうやら俺と同じ境遇らしい。お前が言うなと言われそうだが、結構苦労したんだな。
「だが、追い出されただけじゃ普通こんなところには来ないだろ。絶界だぞ、ここ」
「絶界ッ!?」
「何だ知らなかったのか」
「うん。決まったところに流刑のはずなのに私の時だけ適当に海に流されたから」
思ったよりひどかった。というかそれでこの絶界大陸にたどり着いたのか。この島に漂着したおかげで命は助かったが、着いた島が入ったら二度と帰れないと言われる絶体絶命の辺境だ。運が良いのか悪いのか分らんな。
「もしかして元々は偉かったりするか?服が庶民の服じゃない」
「よくわかったわね。そうよ、一応元公女よ。魔族に騙されて落ちぶれたけれど」
「それは悪いな」
「あなたは関係無いわよ。だって優しいもの」
さっきは魔族なんかって身構えていたくせに。変わり身が早いというか都合が良いと言うか。これを言うとまた怒りそうなので言わないが。
「あなたは?白髪の魔族は上位の魔族だって父上が言っていたけど」
「まあ、上位だろうな。魔王の息子だし」
「魔王の息子ッ!そんな人がどうして追放されてるのよ!」
「裏切ったら追い出された」
リンはポカーンと口を開けてこちらを見る。
「どうして裏切ったの?魔王の息子なら何でもできるでしょう?」
不思議そうにリンが問いかけてくる。今更だが、リンという名前も俺と同じく偽名なんだろうな。貴族ってやたら名前長いし。
「父親のやり方に納得がいかなかったからだよ。唯の思春期さ」
「思春期ってそんな年でもないでしょうに」
「いや、俺はまだ16歳だぞ?思春期真っ盛りじゃないか?」
「16歳なのっ!?」
驚くところじゃないと思うんだが。そんなに俺、老けて見えるか?確か人間は年を取れば髪が白くなると聞いたことがあるしそのせいかもしれない。
「私と同い年なのにこの状況でどうしてそんなに落ち着けるのよッ!おかしいわ」
「何だそういうことか。それに関しては俺は幼少のころから普通とは違う生活をしてたからな。そこら辺の16歳とは少し違うかもしれない」
3歳の頃は常に剣の修練をさせられ、5歳からはそれに合わせて魔法の勉強が始まった。剣でも魔法でも才能を発揮した俺は更に厳しい指導を受ける様になり、お陰様で歴代最強の王子とまで言われるほどになった。
しかし、時間を剣や魔法に時間を費やしたせいで俺には心を許せる友という存在が居なかった。何でもできるとはいえ、自分には何も無いのだ。
やっと役割を見出した領地経営では、前領主の恐怖支配を目の当たりにして、父親にその魔族を糾弾したが逆に俺がしかりつけられた。
『実力が全ての魔界でそのような軟弱な考えは何だ!己が身を省みよ!』
そう言われて一週間ほど独房に閉じ込められたのだ。
そして独房から領地に帰ってきた時、前のように民衆を押さえつける政策が執り行われていた。
あの時の、民が俺を見る目は忘れられない。
裏切り者、嘘つき、偽善者……
俺の高すぎる魔力感知はそのすべてを拾っていた。
そんな中で俺の考えに賛同してくれる者もいた。結局、父に見つかり全て水の泡となったが。
「なに遠い目をして黙ってるのよ。ちゃんと聞いてるの?」
「すまない。少し昔のことを思い出していた」
皆は無事だろうか。もし彼らに危害が加えられた時には我を失って国諸共ひねりつぶしてしまうかもしれない。……危ない、また思い出に浸りそうになった。
「今日はもう遅い。寝るぞ」
「寝るってこのベッドで?一緒に?」
リンがもじもじしながら変なことを言ってくる。
「何を言っている。そんなわけが無いだろう?」
「でも、ベッドなんて一つしか見当たらないし……」
「無ければ作ればいい」
パチンッと指を打ち鳴らすとベッドが組みあがっていく。
「さあ、寝るぞ。明日はお前にも働いてもらうからな」
「えっ、今どうやって」
リンが何かを言ったようだが俺の耳には届かない。俺はベッドに入ると、目を瞑る。
「……何をしている?」
いつの間にかリンが俺の布団に潜り込んできている。
「別に良いでしょ。独りぼっちで寂しかったんだから」
顔を赤くしながらリンが言う。そんなに恥ずかしいならしなければいいのに。
「別に良いが明日からは自分のベッドで寝ろよ」
「……けち」
「ん?」
「何でもない!」
何か怒らせたのだろうか。俺は魔界でも女性との接点があまりなかったから接し方がよく分らない。
あっ、別に女性とだけじゃないか。
……言ってて空しくなってきた。