3話 快適な離島暮らし
「モグモグモグモグッ……ドラゴンの肉ってこんなにジューシーで美味しいんだな」
初めて食べたドラゴンの肉は溺れるような肉汁にガツンと来る旨味がある。魔界で出されたどんな高級料理をも凌駕するほどの絶品であった。
ジリジリと焚火が煙を上げる。そこで俺は切り分けたドラゴンの肉を焼いていた。
「島が広すぎてまだ全部は見きれていないがそれでも食べ物になりそうな果物とかはあった。これなら暫くはやっていけそうだな」
どのみち人界に行くことにはなるが、行くまでの間はここで暮らすことになる。ある程度の食べられる植物などを把握しておくのは大事だ。
そもそもあの霧を超えて転移できるかどうかも分からないし。
今は砂浜から離れ、森の中で肉を焼いている。先程から肉を狙った魔物どもが煩わしい。
さっさと家を作った方が良さそうだ。
俺は食事を終えると立ち上がり、焚火の火を消す。残った肉は保管魔法にいれて保管する。
そして、パチンッと指を打ち鳴らすと地面から木が生えてきてあっという間に木造の家が出来上がる。
「今日からここが我が家だ」
ここなら海からもそこまで遠くないし、果物が豊富だ。その分、危険な魔物も多いが。
ガチャリとドアを開けて中に入る。そして懐に忍ばせて持ってきていた黒い石を核として魔物が入ってこれないように結界魔法を家の周りに張る。
この結界魔法はよっぽどじゃないと破られない。それこそ、魔王ですら破れないだろう。
「さてと、それでいつ人界へと行こうか」
魔界の服や目立つ白髪は変装魔法で何とかなる。行こうと思えば転移さえ使えればいつでも行ける。
一回だけ人界視察に行ったことがあるため人界の座標を覚えているからだ。
「よいしょっと」
生成魔法で椅子を作り出すとそこに腰掛ける。
これで後は嗜好の飲み物さえあれば完璧なのだが残念ながら今は蒸留水しかない。
「しかし、俺の探知魔法が行き渡らない程大きいとは。最早大陸と言っても過言では無いな……『絶界大陸』というのはどうだろう。そのまますぎるだろうか」
背もたれに身を預けて目を閉じる。
魔界に居た時は静寂なんて無かった。目を閉じれば勝手に魔力を感じ取ってしまう、それも悪意に満ちた魔力を。
今はどうだろう。確かに辺りには魔力が充満している。魔界の時よりも強い魔力だ。しかし、それは魔界の時とは違った悪意のない魔力だ。むしろ心地よいとすら感じる。
余りの心地よさにウトウトとしてきた。このまま寝てしまうかもしれない。そんなとき、この大陸にしては有り得ないほどの小さな、それでいて深い魔力を海の方から感じた。
なんだ、あれは?
その魔力はそこから動くことはなく、すぐに周りの魔力の奔流に飲み込まれてしまう。
小動物か何かだろう。そう思ってはいても気になってしまう。
そうしてその小さな魔力の前に巨大な魔力がじりじりと迫っているのが分かる。これは多分、さっき俺が倒したのと同じドラゴンだな。この辺は魔界でいう蝙蝠の魔物くらいドラゴンが飛んでいる。
そして、このドラゴンは今まさにこの小さな魔力を喰らわんとして近づいているのだ。
「あっ、動いた」
どうやらその小さき者はドラゴンが近づいてきたことで動き出したのだろう。
一度気になってしまったら不思議なもので、居てもたってもいられず俺はその場に転移してしまう。
「こんなに肉は要らないんだがな」
バシュッ!
またもやドラゴンの背後に転移した俺はいとも簡単にドラゴンの首を切り落とすと、その小さき者の方を見る。
「ん?人か?」
そこには腰を抜かして震えている人族の女性の姿があった。
「大丈夫か?手を貸すぞ?」
俺が手を伸ばすとその人族は声も出せない程怯えており、俺の手を掴もうとしない。それどころか泡を吹いて倒れてしまう。
「あっ、しまった。俺、魔族のままだった」