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1話 追放された魔界の王子

 俺の名前はギレン=イシュバーグ。この魔界を支配するイシュバーグ魔王国の第一王子だ。


 今、父親であるアズラン=イシュバーグ、つまり魔王様に呼び出され、玉座の間へと向かっているところだ。


 豪華な装飾が施された長い廊下を歩いていく。


「殿下、腰に下げていらっしゃる剣をお渡しください。玉座の間では帯刀を禁じられております」


 玉座の間へとつながる大扉の前にこの城の執事、セバスが剣を受け取ろうと近づいてくる。


「俺は今から殺されるかもしれないんだ。護身用くらい持たせろ。それに王子である俺にそんな口を聞いて良いとでも?」


「規則ですので」


 俺が魔力を込めて威圧してもセバスの表情は変わらない。こいつはいつも思考が読めない。分かるのは父に忠誠を誓っていることだけ。


 俺は無造作に腰から下げている剣を引っぺがすとこの男に投げ渡す。


「これでお前とも最後になるかもな」


「そうでないことを祈っております」


「よく言うぜ」


 フンッと鼻で笑うと俺はそのまま歩き出す。そして、セバスが俺の前にまわって扉を開こうとするのを阻止する。


「俺が開ける」


 そう言うと、俺は思い切り、玉座の間への大扉を開く。


 玉座の間にはずらりと魔界の要人共が並び立っている。その視線は入ってきた俺ではなく、肩を震わせている一人の魔族に集まっている。


「来たか、ギレン」


「……」


 俺は魔王の問いかけには答えずスタスタと震える魔族の下へと歩いていく。


 その魔族は俺の姿を見るや否や涙を流したままこちらの方を向き、頭を地面に付ける。


「申し訳ありません!殿下!私の不注意で!」


「良いんだ。もとより面倒ごとをお前らに頼んだ俺が悪かったから」


 俺はその魔族の肩をポンポンと叩いて慰める。


「昨日、そこのネズミが城の中でこそこそと嗅ぎまわっておった。捕まえて問い詰めた所、貴様の名が出たという事だ。……言いたいことは分かるな?」


「全く分かりません」


「まだ(しら)を切るか。私は残念なのだよ、ギレン。次期魔王である貴様が裏で革命を企てていたことにな」


 その瞬間、魔王から激しい魔力の圧が襲い掛かってくる。しかし、俺は屈することなく魔王を見据える。


 何があったかというと、俺は領主を任される中で魔王の恐怖で支配する統治に疑問を抱き、無血で王位継承を果たそうと駆けずり回っていたところを魔王に見つかり呼び出されたということだ。


「そのネズミを拷問したらすぐに吐いたよ」


「申し訳ありませぬ!殿下!私が未熟なばかりに!」


 そう言って謝る魔族の姿を見ると所々血を流しているのが分かる。手を見ると爪が全て剥がされ、見るも無残なことになっている。


「謝らなくていい。むしろそこまでして俺のことを守ろうとしてくれたことに感謝する」


 そう言うと、俺はその名も知らぬ魔族の体を抱きかかえる。


「ギレン、お前は今、国家反逆という大罪に問われている。お前に加担した者も皆、直に裁かれるだろう」


「他の者に危害を加えることは許さない」


 俺は魔王に魔力の圧を送る。その圧は流石第一王子といったところであろうか、魔王にも引けを取らない程である。


「我にそのような態度を取れる立場でないということが分かっているのか?」


「貴様も人族との戦争の最中に俺を敵に回すということがどういうことか分かっているか?」


 幾ら魔王と言えど、俺と人族が手を組めば面倒なことになると言う事は分かっているだろう。


 魔王はしばらくの間俺の目を見つめると溜息を吐いてこう告げる。


「ギレン=イシュバーグよ。其方を国家反逆の罪により魔界からの永久追放を言い渡す。その際、身に纏う物以外で魔界から何かを持ち出すことは一切禁止する」


「ふっ、それで良いのさ。だが、もし俺のことで魔族を殺したらその時はまた戻ってくるからな?今度は無血じゃなく力でその玉座を奪い取ってやる」


 俺は言いたいことだけ言うと、来た道を引き返し、玉座の間からでていく。玉座の間では魔王に従っている上級魔族の俺の態度に対する不満の声が聞こえてくる。出て行った際にセバスがこちらに頭を下げているのが見える。相変わらずよく分らないやつだ。


「その剣は魔王に返しておいてくれ。もう不要だから」


 あの剣は領主を任された際に魔王から与えられた剣である。そのため、追放されるのなら返すのが筋ってもんだ。


 セバスは俺の言葉に反応しないまま、深々と頭を下げ続けている。


 不思議な奴だと思い、スタスタと長い廊下を歩いていくと、後ろから声がかかる。


「殿下!私も殿下にお供します!」


「聞いてたか?俺はもう殿下じゃない。それに魔界から何かを持ち出すことを禁止するって言われただろ?人材も駄目なんだ。分かったら今日はもう安静にしろ」


 俺はその魔族に回復(ヒール)の魔法をかけて癒すと、また歩き出す。


「それは餞別だ。じゃあな、名も知らぬ者よ」


 その魔族はもう付いてくることは無い。その代わりに大声で叫び始める。


「私の名はバランです!いずれこの治療の恩返しをしたいと思っております!」


 俺はその声を無視して歩いていく。ここで俺が応えてしまったらまたあの魔族、バランに迷惑をかけることになるからな。


 その日、俺、ギレン=イシュバーグは魔界から追放され、ただのギレンとなったのであった。

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