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洞窟探索2

 そんなやり取りをしながらも、二人は足を止めることなく奥へ奥へと進んでいく。涼しい暗闇の中は酷く静かで、男と少女の小さな足音と、時折囁かれる密やかな会話くらいしか聞こえるものはなかった。

 先に何が待っているのか判らないが故の僅かな不安と、小さな期待。それらが綯い交ぜに少女の胸を浸し、彼女は色んな意味で、一人でここを進んでいくことは到底できないだろうな、と思った。

 これが前を歩く男だったら、きっとそのようなことを感じたりはしないのだろう。そんなことを考えながら、男の足元辺りに落としていた視線を少女が持ち上げたところで、単調だった洞窟内の光景に変化があった。


「分かれ道、ですね」


 少女の小さな呟きを背後に、男は顎に右手を添えて目の前の分岐をじっと見つめた。

 オレンジの光に照らされているのは、二手に分かれた道だ。より詳しく言うと、右手側の壁に、横道へと行けそうな穴が開いているのである。

 ここに来るまでは一本道だったため迷う必要もなかったが、さて、これはどちらを選ぶべきなのだろうか。少女がそう思って男を窺うと、彼は横道の方を軽く覗き込んだあとで、今度はこれまで通ってきた道と地続きになっている本道の方へ視線を向けたかと思えば、突然その場にしゃがみ込んだ。

 何をしているのか疑問に思った少女がそれを口にしようとする前に、男はぐるりと周囲を眺め回してからさっさと立ち上がると、そのまま特に躊躇う様子もなく、本道の方へと足を踏み出した。

 驚く少女を尻目に数歩進んだ男は、後ろから足音がついてこないことに気がつき、少女の方を振り返った。


「どうした?」

「え、あの、ハンターさんはどうして迷わずこっちの方を選んだんですか?」


 戸惑いも露わに見上げてくる幼い顔を見つめ返した男は、ああそれは、と答えるべく口を開きかけて、思い直したように一度閉じてから、答えではない言葉を差し出した。


「どうしてだと思う?」

「はい?」


 唐突な問いに少女が思わずそう返すと、男はなんだか楽しそうな顔で言葉を続けた。


「あんたはなんで俺がこっちを選んだんだと思う?」

「……それが判らなかったから訊いたんですけど」

「そうだろうな。でも、深く考えたってわけじゃあないんだろ? だったら、少し自分で考えてみねぇか? あんただって、ただ俺の後をついてくるだけじゃあ退屈だろ」


 男の提案に、少女がぱちぱちと瞬きをする。その顔に浮かぶのは戸惑いで、次に少女が発した声も、同じ色に染まったものだった。


「私、ハンターさんよりずっとこういうことについての経験が不足していると思うんですけど、私が考えて判ることなんでしょうか?」

「俺が判断した理由の全てに思い至るかは判らんが、あんただったら、少しくらいは見当つけられるんじゃねぇか?」


 それは別に、世辞から出てきた言葉ではなかった。男は正当な評価として、少女なら考えれば判るものは判るだろうと思っている。当人の言う通り、彼女に不足しているのは経験であって、彼女が持つ観察眼自体は悪くないのだ。

 そう思いつつも、男はひらりと手を振って、まあ無理にとは言わんと言葉を続けた。


「別に強制するつもりはねぇからな。今すぐ答えが知りたいって言うなら教えるぞ」

「いえ、自分で考えます」


 間髪入れずきっぱりと少女が言い切り、強い眼差しで男を見上げた。受けて立ちます、とでも言うようなそれに、男は愉快気にそうかと返した。

 正直、少女であればそうするのではないかと思っていたのだ。何故なら、彼女の経験不足について、一番気にしているのは彼女自身だからである。男からすれば、狩りに携わるようになってまだ日も浅いのだから、そこまで気にすることもないだろうと思うのだが、行動を共にする男がハンターとして優れているためか、どうにもその経験不足が浮き彫りになっているように感じられてしまうらしかった。それこそ比較対象が悪すぎるという話なのだが、一番身近にいる相手が基準になるのは仕方がないのかもしれない。

 経験不足を埋めるには結局経験を重ねる以外に道はなく、そして実践に勝る経験はない。となれば、男が提示した話に少女が乗っからない理由はないのだ。


「そうか。んじゃ、頑張れ」

「任せてください」


 気合十分な少女に、期待してるわともう一度笑ってから、男は再び歩き始めた。だがその速度は、これまでの道中よりも少しばかり遅くて、その理由を悟った少女は、大きな背中を見上げて嬉しそうに破顔した。


(私が周囲を観察しやすいように、ちょっと速度を落としてくれるんだから、ハンターさんはやっぱり優しいというか、甘いんだよなぁ)


 だが、そういう気遣いをして貰えるのは素直に嬉しい。これは彼の期待に応えねばならないと、少女は改めて気合を入れ直して、周囲に視線を巡らせた。

 壁や天井、地面が横道のものとは違う感じであることや、この辺りには先ほどまでは見られなかったセンコウゴケが生えていることなど、そんないくつかの気づきは得た少女であったが、しかしそれらがこの道を選択した理由に繋がるのかどうかまでは判らない。

 難しい顔で辺りを見ている少女をちらりと窺った男は、ふむ、と口の中で呟く。


(難航してるみてぇだなぁ。点くらいは見つけてるだろうが、それを線にするのは流石に厳しいか?)


 そんなことを思いつつも、男は何も言おうとはしない。乞われてもいない助言など、成長の妨げにしかならないものだ。それに、男は男で探索をしなければならないのだから、不必要な気を回しているような場合ではなかった。

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