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第2話

 夕飯を食べながら、先ほどのゲームの評判をネットで検索してみる。

 日本人テスターは殆どいないのか、検索をかけてみてもヒットするのは英語やドイツ語といった外国語の掲示板ばかりがヒットし、自動翻訳をかけつつ流し見していく。


 すると、やはり皆ケタ外れのグラフィックやサウンドに驚いているといったレビューが多く、まるでその世界にいるようだという感想が多くを占めていた。

 しかし、中には疑問に思うレビューも多く、スティックタイプのコントローラーを使っているのに、その操作感覚はVRゲームをしている時とは違う。といったものや、スティックを倒していないはずなのに歩こうと思ったら歩けたといった奇妙なものもチラホラと見受けられた。


「そういや……」


 そして何より、配信プレイをしている実況者がいない。


 普通、マーケティングという意味でも有名な実況者に配信を依頼してテスターをしてもらう。というケースはそう珍しくもないはずだ。

 それなのに、あのゲームをプレイしている配信者は有名無名を問わず一人もいないのだ。


「運営は……何もなしか」


 どこかオカルトじみた不安が首をもたげるが、調べてもデータハックだとかクラッシュしてパソコンが使い物にならなくなったというような悪評は書かれていないようだ。


「とりあえず、遊べるうちに遊んどくか……」


 俺は再びVR機器を身に着け、ゲームの世界へと入り込む。


「おかえり!」

「おう、待たせたな」

「出来ればチュートリアルで門番の人と……って言いたいんだけど、言葉が通じないからなあ」


 アテナはログインすると同時に「待ってました!」と言わんばかりに話しかけてきた。


「まあ、ぶっつけ本番でもいいんじゃないか?」

「まあいいんだけど……やられちゃうかも」

「そん時はそん時さ、またリスポンしてやり直しさ」

「ん、そうだね。ちょっと待ってね、口頭で説明できる部分はしておくからさ」


 アテナの説明だが、予想に反して思ったよりも世界観に没頭できるようなものではなかった。端的にまとめると次の通りだ。


 剣を振る時は周りの物に当たらないように注意する事。

 転がって回避するといった動きをしようとすると、非常に危険なので絶対にしてはいけない事。

 魔法を使う際は詠唱をする必要はない為、あまりにのめり込んでご近所の迷惑にならないようご注意ください。


 他にも様々な注意を受けたが、主に戦闘における操作というよりもその際にのめり込みすぎないように、といったものが主であった。


「剣を振ったりした事は無いんだけど……」

「そこは大丈夫! 色んなゲームで何となく動きのイメージは出来るでしょ?」

「イメージだけなら……な」

「それなら問題ナシ! その知識が君の力になるからね! まあハイになりすぎないようにだけ気を付けてね!」


 チュートリアルらしい説明は何もなしだ。

 若干呆れながら村の外へと向かい、アテナの指示で街道に沿って歩き続ける。

 本来であれば鬱陶しく感じる移動の時間だが、やはりNPCのAIはかなりレベルが高いのか、他愛ない会話をして時間を潰す事ができ、それはそれでまた一つの面白みだと思えるものだった。


 街道を歩き続けて10分ほど経った頃だ、二足歩行する犬のような姿が街道から外れた平原に見ることが出来た。

 その姿は非常に目立っており、その理由は彼の毛色にある。

 赤毛なのだが一般的に想像する赤毛とは違い、その色はえんじ色が一番しっくりくるような色で、周囲の風景に馴染む気が全くない毛色なのだ。


「あれがコボルト、知ってるかな?」

「比較的メジャーな雑魚敵のアレか?」

「そうそう、アイツははぐれコボルトみたいだし、試しに戦ってみるのがいいかも!」


 アテナのその言葉につられるようにして剣を抜く。

 太陽の光を受けて銀色に輝く刀身は、どこか惚れ惚れとするほどに美しく、これがゲームであるというのを忘れさせるような出来栄えのテクスチャだ。


「ええと、剣は普通に振ればいいのか?」

「そうそう、ブンブンって振ってれば大丈夫!」


 コボルトの方へと近付くと、向こうもこちらに気付いたようで吠え声をあげながら棍棒を手に駆け寄ってきた。


「っ――!」


 たかがゲーム。そうとは思えないほどの殺気を感じ、思わず腰を抜かす。

 逃がしまいと再び振るわれる棍棒を転がって避け、どうにか体勢を立て直す。


「ほら、起き上がって攻撃して!」

「わ、分かってる!」


 体全体を使って剣を思い切り振り回す。

 コボルトの体へと刃が当たった瞬間、手ごたえを感じながら剣を思い切り振りぬく。そのまま返す勢いで再び斬撃をコボルトへと叩きつけた。


 コボルトは短い悲鳴を上げ、斬られた箇所からは血は流れてはいなかったが、斬ったところが赤く光っており、明らかにダメージを受けたといった見た目になっている。

 コボルトはまだ戦う気力が残っていたのか棍棒を振り上げたが、反射的に突き出した俺の剣はそれが振り下ろされるよりも早く、彼の喉元を貫いていた。


「はぁ……はぁ……」

「思ったより苦戦したねえ」


 コボルトのHPが0になったのか、地面へと倒れるとコボルトはいくつもの光の玉となって消えて行った。


「ったり前だろ……マジな殺し合いみたいだったぞこれ……」

「まあ、ね?」

「慎重にプレイした方が色んな意味で良さそうだな……」


 肩で息をしており、心臓が早鐘のように打っているのがよく分かる。


 このゲームは目を見張るものがあるが、リアリティが高すぎる。

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