雨
10メートルくらい前を、タケシが歩いている。
今、絶賛片思い中。
いっしょに帰りたいのに、そうは言えない。
高校に入って同じクラスになって一目ぼれしてから、もう二年くらい経つ。
たぶんこの恋は実らないだろう、そんな気がする。
ポツンと頭の上に来た。
雨だ。
傘を持ってない。
なんだか踏んだり蹴ったりだ。
このまま、一生何もいいことがないような気がする。
そのまま下を向いて歩き続けた。
ふと、頭が濡れないのに気がついた。
目を上げると、タケシが目の前に立っていた。
わたしの頭の上に傘をさしかけている。
ドキドキしてきた。
まさか…、相合傘?
するとタケシは、わたしの右手を取った。
ドキドキがとまらない!
するとタケシは…、わたしの右手を上げて、傘の柄を握らせた。
?
わたしに持てってこと?
だけど背の高さ的に、タケシが持った方がバランスがいいのでは?
タケシはわたしに傘を持たせると、
「傘は明日返してくれればいいから。雨に濡れると風邪をひくから、気をつけて帰れよ」
そう言って、5メートルくらい前を歩いているユウキの傘の中に飛び込んだ。
「なんだ、驚くじゃないか」とか、ユウキが言っている。
………。
ふっふっふ。
そうか。
そこまで女の子の気持ちを踏みにじるか。
タケシの傘をたたんだ。
冷たい水がほてった額に降り注ぐ。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
前方に突進した。
タケシの傘を使って、タケシと、ついでにユウキを、ボコボコにしばいてやった。
家に帰って五時間落ち込んだ。
おしまい。