鉄仮面と幼馴染と×××
感情を一切表に出さない僕は、皆から疎まれていた。
「何考えてるか分からない」「怖い」「親が死んでも何も思わなそう」
最後のやつ以外は客観的事実なので否定はしない。
仲良くしてくれる人もおらず、生まれてから15年間、親や先生、幼馴染くらいしか話す人はいなかった。
幼馴染は、自分が損をしようとも僕のそばにいてくれた。
だからこそ、僕も話していて楽しかった。
楽しくて、気付かなかった。
影で彼女がされていた事に。
明日は高校の入学式だ。
特にこれといった期待もなく、支度を終えて、こうして自室でゆっくりしている。
「叶はさ、高校ではどうするの?その仏頂面。」
...1人で。とは言ってない。
「...別に。変えようとして変わるものでもないし。そういう深雪はどうすんの。僕と一緒じゃ、中学の二の舞だよ。」
「叶の事分かってない人と馴れ合うつもりは無いよ。私の幼馴染への愛を舐めてもらっちゃ困るよ!」
「はいはい。冗談でもありがとね。あ、喉乾いたからお茶取ってくるよ。」
「冗談じゃないんだけどなぁ...」
部屋を出た後に何か聞こえた気がするが、気の所為だろう。そのままリビングに行き、お茶を汲んでいたら...
「叶、深雪ちゃん今日泊まってくの?」
という母さんの声が聞こえた。
「多分そうだと思うけど、それがどうかしたの?」
「気になっただけよ。しかしまあ、深雪ちゃんもすっかりウチに馴染んだわねぇ...いつか本当の家族になったりして!」
「母さん...」
深雪とは保育園からの仲で、かれこれ10年近くの付き合いになる。
深雪の両親は共働きで、深雪は自宅より我が家にいる方が多かった。
泊まることも珍しくなく、深雪の両親からは
「叶君が一緒なら安心して任せられるよ。娘を頼みます。」
などと信頼してもらっている。
「ここは男として1発決めてきなさい!...なんて言ってもどうせ貴方はヘタレなんでしょ?」
「...ヘタレって言わないでくれる?勇気が出ないだけだよ。」
「まったく...絶対アタックすれば成功するでしょうに...」
「確証のないこと言わないでくれる?」
僕は深雪が好きで...母さんもそれを知っている。
むしろ、好きになるなという方があれな話だ。
僕が言うのもあれだが、深雪は異性から見たらかなりの優良物件だ。
顔良し、スタイルも出るところは出て引くところは引く理想のモデル体型。
家事もできて気遣いもできる。
でも...その優良物件を潰しているのは僕だ。
「深雪もなんで僕みたいなのといるんだろう...」
疎まれていた僕から、彼女は離れなかった。
「叶の良さを分かってくれる人は絶対にいる!」
それが深雪の口癖だった。
深雪曰く、
「もし誰かと付き合ったり結婚したりするなら、叶との交流も疎かにしたくないんだ。だから、叶とも仲良くしてくれる人が良い!」
なんて、僕の事を最優先してる口振りだ。
申し訳ない反面、独占できるという優越感もある。
僕を不安にさせるのは、深雪の言う誰かになれるのか分からなかったからだ。
母さんと話していたからか、戻るのがすっかり遅くなってしまった。
部屋からなんの音も聞こえないので、何をしているか分からない。
そっと部屋のドアを開けると、深雪がベットに横になって寝ていた。
「寝たのか...まあ、1人で暇してただろうしなぁ。」
この寝顔を拝見できるのも僕だけなのかと思うと、独占欲がどんどんと湧いてきた。
(...今、母さんは遠いリビング。深雪以外に部屋には僕しかいない。)
ここで既成事実を作ってしまえば。そんな考えが頭をよぎった。
既成事実と言っても口と口を付けるあれなのだが、よく夜の恋人はそんなことができるな。と、感心する。
それでも、少しくらい寝顔を拝見しようと顔を近付けた時に、事件は起きたのだ。
顔があとちょっとでくっつくってところで、自分の頭が何かに押された。
深雪の顔にぶつかる!と、目を瞑ると、痛みはなく、唇に優しい感触があるだけだった。
恐る恐る目を開けてみれば、目の前には深雪の顔があり、目を開けていた深雪の顔は、してやったり。と言いたげな顔をしていた。
僕は何をしているかをすぐに理解し、すぐに深雪から離れた。
「み、深雪...な、何を。」
「ふふふ...叶のファーストキスもーらい。」
「いや、もーらいじゃないよ!だ、だって深雪...今の...」
「そう、私と叶のファーストキス。だからさ、
責任取ってくれるんだよね?王子様。」
この日を境に、僕は深雪の前でだけ、感情が豊かになった。
その後の僕らがどうなったかなんて、言うまでもないだろう。
ご閲覧ありがとうございました。
近々連載小説を出そうと思いまして、それの下準備ということで短編小説を出させていただきました。
個人的にこんな感じの恋愛が大好きなので、読者の皆様に伝わってくれたらいいな〜なんて思って書きました。