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責任感


 別に空気が読めないわけじゃない。

 空気を読むのが嫌いなだけであった。

 子供の頃言われただろ? いじめなんてかっこ悪い、身体的な特徴をからかうな、――

 でもな、子供は子供だけの世界がある。

 従わないと異端者として攻撃される。不思議な世界だ……。良いことも悪いことも集団の雰囲気に流される。


 良い人そうに見えた男子生徒は影でいじめをしていた。

 良い人そうに見えた女子生徒は影で女子グループを操っていた。



 なんてことは無い。俺は理央のために全部ぶっ壊しただけだ。




「ん? どったの、ゆーさく? 珍しく真面目な顔してるね?」


「んあ? ガキの頃の事を思い出しただけだ。なんでもねーよ」


 俺は理央の頭をポンポンと叩く。相変わらず小さい。

 朝の登校は俺達の日課だ。

 登校している生徒たちは沢山いるが、理央と俺だけの世界が日常であり、全てであった。


 理央は背伸びして俺の頭をパツンッと叩いた。


「痛えよ!? 何すんだ!」


「にしし、元気付けただけだよ? ねえねえ、ゆーさくはこれからどうして行きたいの?」


 渚と伊集院の事だ。

 まあ、友達になったから――

 あれ? 友達って何すればいいんだ? 俺にとって友達なんて理央しかいなかった……。


「……みんなでゲームでもするか」


「にしし、それもいいけど、せっかくだから色々しようよ! 例えば海に行ったり――」


「海は身体が汚れるから嫌いだ」


「むう、それじゃあ山にキャンプ行ったり」


「虫がきらいだ」


「むむむ……、ゆーさく、わがままだよ! ――あんまり考えすぎない方がいいよ? 普通に接してればいいんだよ? 渚ちゃんの事好きなんでしょ? 一緒に楽しんでまた恋すればいいでしょ!」


 ……渚と恋をする。そうだ、確かに俺は渚の事が大好きだった。

 理央を見ると、笑顔を俺に向けていた。それが俺にとって何度救われたか……。


 思わず顔を触りたくなる――

 俺は無意識に理央の顔を触ろうと――




「羽柴ゆーさくっ! あんた達また問題起こしたの!! 今日という今日は許しませんことよ!!」


 伸ばした手を引っ込めてしまった。

 俺達の前に現れたのは、この学校の風紀委員である篠原智子しのはらともこであった。


 理央の表情が無くなる、冷たい視線であった。

 俺との時間を邪魔されてひどく不機嫌になった証拠である。


「理央、大丈夫だ」

「……うん」


 俺たちは篠原を無視して、通り過ぎようとした。


「ちょっとまちなさいよ! また苦情が出てるのよ! 羽柴から暴力を受けた、羽柴が伊集院君をいじめてた、葵が片桐さんに嫌がらせをしているって!! 何か申し開きはありませんの!!」


 俺はため息を吐いた。

 この子は頭が固い。適当な情報を自分の頭で変換して都合の良い事実として確定してしまう。




 例えば俺と篠原が初めて会ったときもそうだった。


 あれはまだ一年の頃であった。

 その日は理央が学校を休んで俺は一人で登校をしていた。


 ふと駅前を通ったとき、変な空気を感じ取った。

 俺の嫌いな空気だ。


 駅の裏道を行くと、数人の生徒が女子生徒を囲っていた。

 女子生徒は同じクラスの時任さんであった。時任さんの顔は恐怖と羞恥心でぐちゃぐちゃであった。


『あんたがその胸で私の彼をたぶらかしたんでしょ!』

『ていうか、豚のくせに言葉しゃべるんじゃないわよ!』

『花子〜、そろそろ学校行こうぜ? こんなブスに関わりたくねーよ。あとで俺の先輩に言っとくからさ〜』


 正直言って、俺には関係ない話であった。

 こんな出来事はどこにでも転がっている。だから、俺は教室へ行こう、そう思った。


 だけど、足が勝手に動いていた。


『なんだてめえ?』

『ちょ、マジ? あんた関係ないっしょ?』

『お前、一年の――』


 朝から気分が悪くなった。理央もいないし、嫌な空気を見る羽目になったし。

 だから、俺は喧嘩を売った――





『羽柴ゆーさく! 暴力はやめなさい!!! あなた大丈夫? もう安心してね! 私が守ってあげるわよ……』


 女子生徒を囲んでいた奴らはもういない、不良の男子をのしたら一目散に逃げていった。

 この場には俺と時任さんとおせっかいな女子生徒しかいない。

 ……なんで俺の名前知っているんだ? 


『あなたはうちの学校のブラックリストよ! ……こんなに震えて……可哀想……。羽柴ゆーさく、あなたは人として間違ってるわ。許さない』


 時任さんは暴力の恐怖を目の当たりにして、身体が震えて声が出せないでいた。

 仕方ない、理央がいなかったから自分を制御できなかった。


 勘違いされてもどうでもいい、俺には理央がいる。俺は時任さんの件に関わってしまった。

 なら、俺が最後まで責任を取ればいい。


 俺は女子生徒を無視して、教室へと向かった。嫌な空気は根本からなくさなければならない。

 あとになってこのおせっかいな女性生徒が篠原という名前だと知った。


 そして、俺は時任さんのいじめを無くすために、すぐさま行動をした。

 全部俺に矛先が行くようにしただけだ。






「なんとか言ったらどうなの? 時任さんの件だってあなたはやりすぎなのよ!! なんであなたは自分を犠牲にするの? 今回の件だって理由があるのよね? 素直に話して下さいませ!」


 人は成長するものだな。真っ先に俺を否定して、疑っていたあのときとは違うみたいだ。

 だが、申し開きも何もない。

 俺は友達以外と関わりたくもない。


「いや、篠原には関係ねーだろ? ったく、何でも首突っ込むんじゃねーよ。ほら、何も問題ねーよ」


 俺は遠くから見えた伊集院と渚に手を振った。

 伊集院は顔を赤らめて嬉しそうな顔していた。渚はぎこちない、はにかんだ笑顔をくれた。


 理央は二人に向かって大きく手を振っている。


 篠原はそれを見て、なんとも言えない顔をしていた。


「……でも、私は、あなたの暴力は許さない。……なんで素直に言ってくれないの。わたしだって心配……」


 あまり弱々しい言葉を聞きたくない。

 だから俺は前みたいに――


 篠原を無視して先に進んだ。


「あっ」


 小さな声が聞こえた、俺はそれを聞いてないふりをしようとしたがーー

 通りすがりざま、篠原の頭をぽんっと叩いた。


「お前の行き過ぎた正義感はこえーから、あんまり敵作るなよ? ははっ、なんかあったらボランティア部に言えや」


 篠原は顔を真っ赤にさせて叫ぶように俺に言った。


「あ、羽柴ゆーさく!! わ、私を馬鹿にするな!!」


 よくわからないけど、元気が出て良かった。

 地団駄を踏んでいる篠原を置いて、俺たちは教室へと向かった。







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