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幼い頃に大切な約束をした幼馴染に振られた俺は、思い出を忘れて友達と仲良くしたい。女友達を絶対応援したくなるラブコメ  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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15/18

 昼食の時間は部室で食べる。それが俺と理央の習慣であった。

 ボランティア部が活発に行われるようになって、ボランティア部のメンバー四人で昼食を食べることが多くなった。

 様々なボランティアを一緒にやっていくうちに、段々と一緒にいることが慣れてきた。


 今朝と違って、理央に壁は感じなかった。教室でも俺に「一緒に部室行こ!」と言ってきた。……そう言われただけで嬉しく感じてしまうのに戸惑った。

 ……普通の事だったはずなのに。


「おーい、ゆーさく〜、何か元気無いけど大丈夫〜?」

「あん? 今朝はちょっと寝不足なだけだ。大丈夫に決まってんだろ!」

「そっか、良かった! 私はぐっすりだったから早く起きちゃったよ」

「そうか……、それにしてもなんでまた時任さんと――」

「あっ、それはね、色々相談されて、そのまま教室で話し込んでたんだよ」


 ごく普通の会話がこんなに嬉しいとは思わなかった。今、この瞬間は理央と俺はいつも通りであった。

 伊集院と渚を交えつつも、普通に会話をしている。

 疎外感もない、妙な壁もない。昔通りの距離感であった。


「あら、私も理央ちゃんに相談しようかしら? 理央ちゃんって頼りになるものね」

「ええー、渚ちゃんにそう言われると恥ずかしいよ……」

「むむ、僕も相談したいな……、結局男装のままだけどどうしよう……」

「もうそのままでいいんじゃない? カッコいいし」

「そうか……、ゆーさくはどう思う?」


 三人が話している姿も違和感が無くなってきた。思えば理央が始まりであった。

 渚と友達になる――、そんな提案をしたのは理央であった。


 伊集院は俺の返答を待ち構えている。まるでわんこみたいだ。

 俺は感情が正直に表にでる伊集院が好きだ。本当の同性の友達のように思えてくる。


「ああ……、俺も伊集院が嫌じゃなければそのままでもいいと思う。話しやすいし。女性の格好をしてると、正直可愛すぎるから話しづらい」


「そ、そ、そ、そ、そ、そうか!! ……ふ、ふふ、ふふふ、なら、当分は男装でいいかな……、た、たまに女装もするよ」


「女装……? いや、だから、男装でいいって」


「うるさい! 今度の祭りは絶対に女装で行くんだ! 羽柴優作見てろよ、私の可憐な姿を!!」


 たわいもない日常。殻にこもっていた俺たち。

 だけど、些細な事で殻が壊れる。それが渚と伊集院との出会い。

 渚の髪を弄りながら俺たちの話を聞いている理央。


 俺が顔を向けると、いつも通りの笑顔を見せてくれる。

 俺は思わず理央に近づいて手を繋ぎたくなった。


 俺が手を伸ばすと、理央は手を引っ込めた。


「ゆーさく少尉! みだらに女性の手を握ってはいけないであります!」


 笑いながら俺にそう言った理央。

 言葉が刃のように俺の胸に突き刺さる。

 見えない壁が乗り越えられない。今までの距離感とは違う。

 明らかに理央が意識した距離感だ。


 理央は一度引っ込めた手を伸ばして、俺の腕を掴む。

 そして、俺の手を渚の頭に置いた。


「ゆーさくは渚ちゃんをナデナデするであります! にしし――」


「お、お前、ちょ、な、渚が嫌がってるだろ?」


 手を頭から離そうとしたら、渚がそれを止めた。


「ゆーさく、そのままナデナデしなさい。これは……幼い頃の約束よ」


「ふぁ? そ、そんな約束してねーよ!? 俺はお前のとの事は全部覚えてるっての!」


「あら、嬉しいわね。ご褒美で撫でなさい」


 渚は自然な笑顔で俺を見つめる。あの時と同じ目だ。

 意志の強さを感じられる。人形じゃない、感情がこもった目であった。



 俺の胸がドクンと高鳴った。子供の頃の感情を思い出す。ずっと胸に秘めていた恋心。

 俺は照れくさくなって顔をそむけた。あの時の言葉を思い出す。『今でも好きなの?』



「あー、ゆーさくが照れてる〜! もう二人は仲良しなんだから〜!」


 本当に自然な笑顔であった。

 一寸の隙のない完璧な笑顔。見るものを安心させる笑顔。

 だけどな……、理央、俺は何年お前と付き合ってるんだよ。

 ほんの少しだ。

 きっと誰にもわからない。

 俺しか知らない理央の癖。


 理央が嘘付いている時の仕草。

 右手の親指の人差し指に食い込ませる。理央自身も気がついてない癖だ。


「あっ、そうだ、私ちょっと時任さんと話したい事があるから、先に教室行くね! じゃあね!」


 理央は俺たちに背中を向けて部室を出ようとした。

 後ろを向いているから表情は見えないけど、背中から悲しみが感じられた。

 気のせいなんかじゃない。だって、俺は理央の友達なんだから――


 俺は理央に理由を聞くことを決意した。


 

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