七話、選ばれたのは火力でした
魔法使いが使う魔法は現実を改変する力、生み出すものが世界に存在するために「身分証明書」とでも言うべきものを与えてやるほど確かな存在になる。
それはどういう過程を経て生まれたものか、どのような時代のどの場所で誰に作られたものか、世界を騙すための嘘の情報があればあるほど、確かな存在になれる。
それを無理矢理行うには世界を強く改変するため、魔力が多く必要となる。
なら落ち着いた環境で使う魔法よりも、焦った時に使う魔法を補助できた方が効率が良い。という基本を話し合った上で四人はそれぞれ考えて一斉に発表することにした。
「というわけで私はこうする!」
緋色が選んだのは魔法水晶を四つ嵌め込めるタイプの小さめな盾だ。
軽いタイプの素材を使っているため、一つは硬度を得るために『固定』が決められている。残り三つの自由枠に選ばれたのは『収束』『形状補正:槍』『射出』の三つだ。
真っ赤な髪と目によく似合って、緋色が得意な魔法は炎だ。それを収束させ、槍の形に変えて、固定し、射出する。
盾を使って安全性に配慮もしていて遠距離から高威力を叩き出せ、槍の扱いを学べば近距離も戦える。いい構成だ。
「おおー!武人だ!武人!カッコいい!」
「緋色らしい……真っ直ぐで強そう……」
「想像しただけでも恐いなそれ」
「いいでしょ!ちゃんと考えたから自信ありだよ!近づかれても槍と盾で戦えるしね!」
「めっちゃいい!次ボクの見て!」
鳴に同意して統也と真中も頷いて、鳴は我先にと手を動かす。
「ボクはこのベルトにした!動きやすそうだから!」
鳴の長い紫の髪は大きく揺らし、青い瞳を爛々と輝かせながら出した資料は、ポーチやホルスターのようにベルトに膨らんだ部分があり、邪魔にならないように魔法水晶がつけれるタイプのものだ。これは魔法水晶の大きさや形で数が多少変わるが二つか三つというところだ。
『磁力』『収束』
速さに拘る鳴が重い装備を選ぶはずもなく、かと言って物理的な防御手段を魔力の壁にしてしまえば消費が大きい、よって考えたのは当たらない事、そのために使う上でもっとも適していたのが磁力だった。
相手と自分を同じ極にすれば離れ、逆に違う極にすれば近づくこともできる。そしてもう一つは緋色の炎と同じく拡散してしまう鳴の雷に指向性を与えるための収束を選んだ。
「磁力ってなに?」
「磁石の力だって!離れたり近づいたりできるやつ!電気系と相性のいいやつ探してたらあった!これで統也をもう逃さないぞ!」
「速い上に回避させない……鬼?」
「鬼ごっこでは最強だろうな、でも近づくと危険は増えるんだから防御とかもあった方が良くないか?」
「当たらなければ問題ない!というかどっちにしろ電気当てればいいからそんなに近づかないし、もし近づいても電磁石を離れる方に使えば大丈夫!」
ここまで聞いて統也は初めて気付く、模擬戦の時もそうだったが接近戦を基本に考えるのは自分だけなのだ。
真中はまだ聞いていないが性格的に接近戦などするはずがない、緋色は接近されてもいいように考えてはいるが自分から近づく気はない。もっと言えば彼女たちには必要ないのだ。
どんな敵にも近づかず、気づかれずに倒せる方がいい、わざわざ自分達よりも肉体的に優れている魔物に近づく必要もない、当たり前の事だ。
さらに言えば近づいたところで彼女達は集中せずとも使える得意な魔法を撒き散らせる。
そしてそれを可能にするだけの魔力の量を彼女達は持っている、統也と違って……
当たり前のように考えの前提が違うのだ、絶望的なほどに才能が違うのだ、だからこそ、それをより一層理解したからこそ統也は自分の選択を正しいと思える。
「そうだな、鳴に合ってていいと思う」
「でっしょー!なんたって最速で資料全部に目を通したのが僕だからね!考える時間もたっぷりあったよ!」
「たしかに……気にいる、気に入らないの判断が凄く早かった……」
「欲しかったのが逃がさない魔法と雷をもっと強く当てるって決めてたからね!統也は時間かけてたからお楽しみに取っておいて、真中の見せて!」
魔力が弱い事など元から関係ない、鳴にとって、他の二人にとっても統也は凄いという認識がある。それは模擬戦で少ない魔力を考えて肉体や器用に魔法を使いこなした戦い方でも身に染みている、ゆえに楽しみにととっておく。
「私も……なんの変哲もなくて……」
普段からその茶髪で目を隠している真中が、より伏し目がちで資料をだす。
選んだのは魔法使いに相応しい杖の形をしたものだ。ワンドなどと呼ばれる短い杖で両端の膨らんだ部分にそれぞれ二つの計四つ魔法水晶をつけれるタイプ。
『振動』『固定』『加重』『視点追加』
水中では空中よりも速く振動が伝わる、衝撃波として使うにも水と相性がいい。固定も加重も水という体によく付着するものと合わせるにはちょうどいい。
そして何より現時点で見える範囲ならどこからでも魔法を使える真中が自由に出現させられる視点を持つのはとてつもないアドバンテージになる。
「ボクさっき見たよ!水が得意な魔法の人が基本的に採用してるのが前三つだった!」
「基本が……一番……教えてもらえる事も増えるし」
「うんうん、私と鳴も自分の得意な魔法と相性のいいところから選んだしね!」
「確かに、先人が積み上げたデータがあるから学びやすいもんな」
基本、というのは積み上げられた果てにあるものでそれを学ぶのは非常に効率的に強くなれるという事だ。
得意な変換があれば、守りたいと願う相手が自分より格上でなければ、統也もまた中、遠距離の攻撃を選んだだろう。
だが得意な変換もなく、守りたい相手が格上なのだから統也は無茶をする。
例え思考してしか魔法を使えない自分に近接戦は向いていなくても、彼女達が、魔法使いが想定していない接近戦に特化する事でしか守ることなどできないと考えた……故に
「じゃ、最後は統也だよ!見せて見せて!」
「ああ、俺は……こうする」
鳴の言葉に促され、統也は自分の選んだ資料を出す。
「う……使いにくい」
「というか効果範囲!危ないよこんなの!」
「でもでも!統也は模擬戦でも近づいてたし!大丈夫だと思う!ボクは信じる!」
真中、緋色、鳴がそれぞれの感想を言うが統也が考えた中ではこれが一番安全に戦えると思ったのだ。
「まあ、結果は模擬戦で確かめようぜ、今度はもう少し勝ち残るからさ」
それを実戦で証明してみせる、そして勝って、彼女達を守る男になるんだと、静かな覚悟を統也は胸に秘めた。