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二話、はじめての訓練

 


「あんたがあの子達を守ってあげるんだよ」


 統也が何度も聞かされた母の言葉だ。母と言っても産みの親ではなく育ての親、礼子(れいこ)の言葉だ。

 統也達のいた孤児院は一軒家にしては大きく、孤児院としては小さかった。それもそのはずで孤児院は彼女が老後の暇を持て余し、親がいない子どもを見捨てられずに引き取っていただけなのだから。


 物心ついた時から統也はそこで暮らしていた。そこへ緋色が加わり、鳴が加わり、真中が加わった。統也と違い、産みの親の記憶がある三人は、それぞれ親を失った悲しみを背負っていた。

 新しく誰かが来るたびに礼子は世話を統也に任せ、統也には何度も言い聞かせるのだ「あんたがあの子達を守ってあげるんだよ」と。


 礼子の顔の皺と同じくらい鮮明にその声音まで思い出した統也が口に出すのは、他の人の前では出せない弱音。


「ババァ……あいつら簡単には守らせてくれないみたいなんだよ、魔法って難しいんだな」


 トイレの個室の中、誰にも届かないその弱音は、それでも完全な諦めの言葉ではなかった。


 訓練で緋色が魔力を凝縮して武具を作ることに

 鳴が魔力の放出による超加速を行うことに

 真中が精密な操作を行う事に


 それぞれが大きな才能を見せた中、何も突出したものがなく、魔力も劣る統也が彼女たちを守る。その困難さは周りから見れば悲しいほど絶望的だった。


 まだ訓練は始まったばかり、やれる事は魔法だけじゃない。

 そんな言葉にすがりながら統也は立ち上がる。誰にも見せられない涙を拭い、訓練室へ戻る。


「おー、男の割にはトイレ長かったな、大の方か?」


 答えづらい質問を真っ直ぐにぶつけてくるのは先輩のミルン・マーチェス、五十代の女性で子育ての経験もあり、前線に出る回数も減らしていたため四人の教育係を任された。


「ノーコメントで、それよりみんなが戻ってくるまでの間、少しでも何か教えてくれませんか?」


「んぁー、時間も中途半端だしダメだな。焦るな少年、魔法の基本は正しい基礎からだ、基礎が上手くできないと発展なんて実践レベルにもってけやしないからね!」


「でも--「でももだっても無いよ、基礎はしっかり作る、わかったね?」


「はい……」


 ーーーーー


 訓練が終わって四人を帰した後、事務室でミルンは日陰へと話を振る。


「本当にあの子たちを戦わせないといけないのかい?」


「上が決めたのならそうとしか言えませんよ〜、ただ上に掛け合ったのは孤児院の方らしいですよ〜」


「礼子先輩がねぇ、わざわざ子どもを戦わせるような事はしない人だったはずなんだがなぁ」


「それに関しては三人の魔力の強さを活かさないのはもったいないと感じたとかじゃないですか〜?」


 日陰の言葉にミルンは少し考えてから首を振る。


「それでもだ、実際に一緒に働いてた者として言わせてもらう、あの人はそんな事で子どもを戦わせたりしない。魔力の強さが直接の強さじゃないって私に教えてくれたのはあの人だよ」


 ミルンの言葉に日陰は少し驚いた表情を浮かべる。


「完全にではなくとも魔力の強さと魔法使いの強さはイコールなのが通説ですからね〜。ミルンさんがそれを否定してくれた時も驚きましたけどその礼子さんのおかげなんですね〜……じゃあ案外四人が一緒に入れるように、とかだったりじゃないですかね〜」


 子ども達の仲の良さを思い出してなんとはなしに日陰の口から出た言葉はミルンの心に上手くハマった。


「ああ……それはいかにも、あの人らしいねぇ。にしても私にはなんか教えてくれても良かったのにまったくあの人は……」


「ミルンさんは……仲が良かったんですか、その……礼子さんと〜」


 聞いた方が良いのか聞かない方がいいのか分からず悩みながらも日陰は少し気になるので質問をする、この仕事をしているとこういう事は多いが未だに故人(・・)について聞くというのは慣れない。


「ああ、私が入りたての小娘の時にはあの人には本当に良くしてもらったものさ。あの子たちを送り出した時には既に死んでいて魔法による現実改変でギリギリまで生きてるフリをしてた、なんて話を聞いても全く驚かないくらい破天荒な人だったよ」


 カラカラと笑いながら語られるその話は明らかに異常なのだが魔法については今は触れないでおく。


「それはまたとんでもない人ですね〜」


「あの人に憧れて私は喋り方まで変えたもんさ………………ああ……あの人は逆立ちしたって死なないと思ってたんだけどねぇ……」


 ミルンの目には徐々に涙が溢れてくる、日陰が認識する限りでは涙を流すところなど想像もできないような人物が、少女のように涙を止める事もできず、嗚咽で話す事もできずにただひたすらに涙を流すのだ。


 一般人と比べると比較的死に近くとも、身近な人の死というのはどこまでも重くのしかかる。

 思い出が、愛が、大きければ大きいほど悲しみに変わる、身近な人の死はどこまでも重くのしかかる。

 だから大人たちはただただ願うのだ。

 いつかこの真実を知った時、あの子たちの心が耐えられる事を、たくさんの幸せな記憶が、礼子への愛を上回ることを。


 残酷と知りながら尚、彼らの未来が幸せに溢れ……礼子の記憶が薄れる事をただただ願う。

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