1992年11月28日
トランクト盆地に到着した俺達は、さっそく国をつくる準備を始めた。いまここにいるのは、俺、フェーリア、カインの三人だ。その他のメンバーは、全員がフェーリアの村に戻っている。
そして俺達は、トランクト盆地の北にある聖域の端にある、寺院に泊めて貰っていた。
「この寺院は聖域を護る為に建てられていてな。もう何千年も前からあるのじゃ。」
その寺院の中で俺とフェーリアは、テーブルを囲んで向かい合っていた。寺院は、どういう訳か日本の寺にすごく似ていて、畳は無いものの、いま俺達の前にあるテーブルも、まるでちゃぶ台だ。ちなみに、カインは寺院の人に話をつけに行ってくれている。
「聖域かぁ。でも、そこに手をつけなければ大丈夫なんだよな?」
「ああ、問題ないはずじゃ。お主が何を考えているかは分からんが、念の為すこし離して開発はしたほうがいいかもな。ここに城をつくるというなら、当然街もつくるのじゃろ?」
「たしかに、街はつくるよ。だけど、その前にこの盆地がどんな形をしているのかを正確に知っておかないと。と言っても、この雪が溶けるまでは無理かなぁ。」
外を見ると、雪がどっさりと積もっている。寺院の周りは雪掻きがされているが、その外側は、おそらく5メートルほど積っているだろう。
「だから、フェーリアの村にあった地図を持って来て貰ったんだけど、これじゃ大雑把な計画しか出来ないなぁ……。」
テーブルの上に置かれた地図に書かれているのは、聖域や街道を大雑把に書いただけの地図だった。ここに来る時に教えて貰ったのだが、聖域は真北ではなくやや北東によっているし、街道もかなり曲がりくねっている。しかし、地図には聖域が北に書かれているし、街道も真っ直ぐだ。なんでも、フェーリア達にとって地図はあまり重要ではないらしく、この地図も巡礼なんかのガイドブック的なものらしい。
「じゃあ、まずは城の場所だけど、このあたりに建てようと思う。」
俺が指さした場所は、この聖域からちょうど南にある場所だ。近くには川も流れている。
「それで、城の南に街をつくる。東西方向と南北方向から真っ直ぐ道を引くんだ。」
俺が考えているのは、京都みたいな碁盤の目のような都市だ。
「良いのではないか?それで、盆地の中は良いとして、その外はどうなっているんじゃ?魔族領は広いぞ?」
「とりあえず、街道を整備しようかと思っているけど、それ以上はぜんぜん決まってない……。なにかいい案があると良いんだけどな。」
そう、全くと言っていいほどアイデアが浮かばないのだ。建設の方はなんとかなるとフェーリアが言っていたが、それもどこまでか分からない。
「やはりそうか。異世界人といっても、すぐに案が出る訳ではないな。」
フェーリアのもっともな意見に、俺はすこし項垂れる。
「安心せい。そうなると思って、役に立ちそうな者を呼んでおる。北の方に住んでいる者は遅くなるだろうが、半月あれば全員揃うはずじゃ。」
流石はフェーリア。俺なんかよりもずっと先を読んでいる。とにかく、それまでは待たないといけないのか。なんか俺、この世界に来てから移動と待ちばっかりだな……。
「まあ、それまでに考えておくこともいろいろあるじゃろ?そうじゃな……。まず大事なのは、やはり軍事力とかかの?」
フェーリアと俺は、再び議論を交わす。そして、半月後、フェーリアが呼んだ人達が、俺達の元に到着した。