魔族の国
トハ峠での戦いから3日、俺達はフェーリア達がトトリと呼んでいた村に到着していた。距離にして100キロ程だろうか。俺達が越えてきたトハ峠がよく見える。この辺りは針葉樹林の森が開けていて、どっさりと雪が積もっており、一面の銀世界になっている。その中心に、トトリの村があった。
「お待ちしておりました、フェーリア様。それと、オウカ様ですね。」
そう言って、村の前に立っていた男が頭を下げる。男の格好は、毛皮のような物で出来た服を着ていて、頭以外は全て覆われている。かなり分厚いらしく、やや動きにくそうに見えた。だが、その男の頭には見慣れない物がついていた。そう、耳だ。ケモミミである。
「け、ケモミミだ……。」
人生初のケモミミが男とは……。まぁ、女の子がいるなら男もいる訳で……。とにかく、ヨボヨボのおじいさんとかだったら、俺のケモミミ感が崩れ去っていただろうな。
「トトリ族は銀狼族の中でも特別でな。他の銀狼族はもっと北に住んでいるのじゃが、トトリ族はこんな南の方で生活しているんじゃ。」
俺が失礼な事を考えていると、フェーリアが軽く説明してくれた。銀狼族か。なら、この人達の耳は狼の耳なのか。というか、こんなに雪が積ってるのに南って、魔族領かなり北にあるのか?でも、アルタラン王国の方は雪は降ってなかったな。峠を越えると気候も変わるのかもしれないな。
「では、私の家にご案内しますので、私に着いてきて下さい。」
男にそう言われ、俺とフェーリアは村の中に入る。着いてきたのはカインだけで、他の人達は外で待っていると言っていた。村の家は日本の茅葺き屋根の家に近い形をしていて、その上にはどっさりと雪が積もっている。何人もの村人が屋根に登って雪を落としているので、昼のうちに全て落としてしまうのだろう。
白く輝く雪を掻き分け、俺達は村の中でもとりわけ立派な家についた。中に入ると、以外にもかなり温かかった。入って直ぐの部屋の中央には囲炉裏があり、火が焚かれている。部屋はいくつかあるようだが、玄関には竈もあるし、鎌や斧といった物も置いてある。この部屋だけで生活している様にも思えた。
俺達は囲炉裏を囲むように座る。先程着ていた服を壁にかけ、男が座る。全員が座った所で、男が話始めた。
「フェーリア様。この度はこの村に来ていただき、ありがとうございます。私は村長のトランと言う者です。」
村長の男はトランと言う名前らしい。トランは軽く頭を下げる。
「うむ、前の村長の息子かの?ではトランよ。馬の用意は出来ているかの?それと、このオウカがこの地に国を作るそうじゃ。なにかいい考えがあったら教えてくれるかの?」
フェーリアは俺の背中を軽く叩きながら、砕けた口調で話す。
「前の村長の息子?」
俺はフェーリアに質問する。
「ああ、私は前の村長と知り合いでな。この村に、来たのもその縁じゃ。何年か前に魔物に殺されたと聞いたがの……。」
フェーリアが悲しそうな表情で話す。
「さて、トランよ。そちらはどうじゃ?」
フェーリアは村長の方を向くと、先程と変わらない表情になった。
「はい、雪馬の用意は出来ています。それと国、ですか?それは人間達と同じような国と捉えても良いのですか?それに、そのオウカいうのはフェーリア様が召喚した者ですよね。神々を倒す為に召喚したのではないのですか?」
村長が聞き返す。
「まぁ、そうだな。詳しい話はオウカにしてもらおう。オウカ、話してくれ。」
いきなりそんな事を言われても困るんだが……。まぁ、仕方ないか。村長が納得するかは分からないけど、協力してくれる人は多い方がいい。
「国をつくる一番の理由は、人間に対抗するためです。今、魔族は人間に土地を奪われていると聞いています。人間からみればここは未開の地。いくら踏み込んでも問題にはなりません。でも、この魔族領に国が出来れば、ある程度の抑止力になるでしょうし、人間側に正式な国と認めさせれば、すぐに攻めてくる事もなくなるでしょう。」
俺は村長をまっすぐ見て話す。
「なるほど。だが、国を作ったところで、実力では差は埋まらないぞ。向こうにはスキルなんて理不尽な力を使う人間が沢山いるんだ。一斉に責められたら終わりだぞ?」
「はい。だから、ある程度の軍事力はどうしても必要になってきます。魔族領は地形も複雑なので、ある程度はカバー出来ると思います。」
「ふむ。やはり問題は軍隊と。私はあまり詳しくはないのだが、スキルというのは普通の攻撃とはまるで違うぞ?それを我々で防げると?」
流石にこれには言葉が詰まる。俺は軍隊の専門家ではないし、スキルの事も、いまいちよく分かっていない。
「そうじゃ。たしか近くの村に人間がいなかったかの?たしか、第一文明圏から来たとか言っておったはずじゃ。あやつに聞いてみれば、なにかしらあるはずじゃ。第一文明圏の技術力は高いと聞くしな。」
俺が悩んでいると、フェーリアが助け舟を出してくれた。
「それに、スキルと言っても、本当に危ないのは一部の人間だけじゃ。それにさえ気をつけていればよい。」
「そうですか。フェーリア様がそこまで言うのなら、私も信用します。国を作るのなら、城を建てる場所も必要でしょうね。」
村長が納得してくれた。フェーリアってそんなに凄いのか……。とにかく、話をまとめられて良かった。
「城か。私の村でも良いのじゃが……。オウカ、良い場所はあるかの?」
「そうですね……。出来れば、四方を山に囲まれた場所が良いですね。それで、出来るだけ人間が入り辛い所が良いと思います。」
「なら、トランクト盆地が良いと思いますよ。あそこは山に囲まれた平地ですし、その外側には我々が使う街道もあります。中にある聖域さえ守ってくれれば、我々としても安心できます。」
「なるほどな、では、そこにしようではないか。村長、感謝するぞ。オウカ、行くぞ。」
フェーリアが話を締め、俺達は村を出る。
そして、5日後、俺達はトランクト盆地に到着したのだった。