訓練所
今回の話から次の話は恐らく戦闘描写が多めになると思います。
今回は血の描写などはありませんでしたが、次の話では血の描写が出てくる予定です。
広い図書室の中、紙をめくる音と時折聞こえ
てくる溜息が響く。
サクヤがお目当ての本をこの広い図書室の中から探し当てその本をツナに渡して、その本を読み始め2時間程の時間が経っていた頃。
先程まで熱心に本を読んでいたツナが本をバンと音を立て閉じて席を立った。
「ど、どうしたんだい?急に」
サクヤが少し驚きながらツナを見上げて聞いた。
するとその問いに対してツナは真剣な声音で答えた。
「サクヤさん。私に魔法を教えて下さいお願いします!」
ツナの唐突な願いに対するサクヤの反応は、少しポカンとした後、直ぐに可笑しそうに笑い出した。
「あははは、ご、ごめんよ。なんか、改まって頼み事をされると可笑しくてさ。それよりもこの国、1番の魔道士の僕が勇者さまに魔法を教えないで一体誰がこの世界の未来を担う勇者さまに魔法を教えるんだい?」
年相応の笑みを浮かべて笑っているサクヤだが、ツナにはその笑みが何処か凄く遠い場所にある様に感じた。
「じゃあ、その本はあらかた読み終えた、と取って良いんだね?じゃあまず魔力を練るところから始めようか」
「はい。お願いします!」
頭を下げて頼むツナをサクヤは見ながら、小さく溜息を吐いて言った。
「あのさ、敬語は辞めてくれないか?」
「あっ、ご、ごめん」
「うん!分かれば良い!さぁ、始めようか」
そう言いながらサクヤは一本のよく燃えそうな麻紐を取り出しツナに渡した。
「じゃあ。まずはこの麻紐を燃やしてみようか」
「えっと、どうやって?」
そうツナが小首を傾げながらサクヤに聞くと、サクヤはニヤニヤと笑いながら言った。
「ようく見ていてくれよ?こうさ!燃えろ」
サクヤが麻紐に向かい『燃えろ』と一言呟くと途端に麻紐が細い煙を出しながら燃え始めた。
ツナがそれに目を丸くしているとサクヤはニヤニヤとほくそ笑見ながら言った。
「目を離さないでくれよ?」
サクヤがそう言った瞬間、机の上で赤い炎を上げ燃えていた麻紐の炎が次第に赤いから青へ青から緑へ炎の色が綺麗な鮮やかな色へと次々とかわっていった。
「…凄い、綺麗」
ツナが目まぐるしく変わる炎に見惚れているのもつかの間、直ぐに麻紐が燃え尽き炎が消えてしまう。
ツナが残念そうに麻紐の燃えかすを見つめているとサクヤが微笑みながら言った。
「そんなに気に入ったのかい?じゃあツナもやってみなよ。きっと出来るよ」
「そう?私にも出来るかな?」
そう言いツナはサクヤの真似をして、麻紐に人差し指で触れながら言った。
「燃えろ」
するとサクヤが燃やしたのとは違ったが麻紐は赤い炎を上げ燃えた。
ツナは麻紐が燃えていくのを、目を点にしながらどんどん燃えていく麻紐が燃えて無くなるまで見ていた。
麻紐が燃え尽き、燃えかすだけになった時にツナはハッとしてサクヤを見た。
サクヤは満足そうに微笑みながら頷いている。
そんなサクヤにツナは少し不安そうに聞いた。
「私にも出来た。私も魔法が使えるの?」
「あぁ、きっと使えるさ。まぁ、今のは魔法が使えるかどうかの試験の様なものだけどね」
「えっと、じゃあ次は何するの?」
次にやる事を聞かれたサクヤは少し考えた後に、悪戯な笑みを浮かべて言った。
「次か……よし。場所を変えて訓練所に行こうか」
訓練所にて、1人大の字でうつ伏せで伸びている少年の姿があった。
召喚された勇者の1人の國井アラタである。
アラタの隣には木で出来た桶に並々と入っている水を持ったルナが立っていた。
『バシャャ』
次の瞬間、ルナは手に持っていた桶をうつ伏せのアラタの頭の上でひっくり返す。
途端に桶の中の並々と入った水がアラタの後頭部に直撃してアラタはその水の冷たさに飛び起きた。
「いつまで寝ている。さっさと起きろ!」
「えっ?」
いつもよりきつい口調のルナにアラタはボーッとしてルナの顔を見つめていると、次第に見つめられているルナが頬を薄く染め今にも消え入りそうな声で呟いた。
「は、初めてだったんだからな」
「えっ?今、なんて言ったんですか?」
聞き取れなかったアラタがルナに聞き返すとルナは、更に顔を紅潮させ怒鳴る様に言った。
「ええい、う、うるさい。さっさと訓練再開するぞ!」
「は、はい!」
それにアラタは言葉少なに返事を返し再び、木剣を構える。
「次はさっきよりはましに動けよ!行くぞ」
ルナの声を聞き、アラタは木剣をしっかりと握り込め構え、ルナに向かっていった。
俺は剣術なんて習っていたわけでもないし、特に喧嘩が強いわけでもない。
だけど、そんな貧弱でもこの世界に呼び出された事には意味がある。
その意味から背を背けたくはない!
アラタは気持ちを入れ替えてしっかりと踏み固められ固くなった地面を踏みしめてい一撃、ルナに打ち込む。
しかし、すんでのところでルナにアラタの放った木剣が弾かれ、視界の端にルナの木剣の切っ先が迫っている。
だが、そこでアラタは密かに2人のやり取りを見ていた兵士達の溜息を裏切る様に軽くしゃがみルナ放った木剣の突きをかわす。
ルナが次の攻撃を繰り出そうと動いている頃にはもう、すんでのところまで迫るアラタの放った右下からの切り上げが眼下に見えていた。
咄嗟に自分の木剣で、アラタの放った木剣一撃を防ぐ。
俺の唯一の取り柄は中学と高校でやってた陸上で培った瞬発力だけだ。
その瞬発力を生かして戦わないと、直ぐにまた地面と抱き合う事になる。
先程までは、はるか遠くに居ると思っていたルナも今じゃ額に汗を滲ませながら、アラタの放つ木剣の一撃一撃を防いでいた。
そして遂に、アラタの横薙ぎによりルナの木剣が弾かれ飛んでいく。
「「「「「おぉぉぉぉ」」」」」
途端に周りから歓声が上がり出した。
アラタが、滲む汗を手の甲で払いながら周りを見渡すと、先程までは訓練していた兵士達の殆どがアラタとルナの試合を見ていた。
アラタが状況を飲み込めずに周りをキョロキョロと見渡して居ると、ルナがわずかに息を乱しながら近づいてくる。
「良い太刀筋だったぞ。何故、最初からあの剣の振り方が出来ない、全く。」
口では、そう言いつつもルナの唇は僅かに緩んでいた。
するともう一方でも、同じ様な歓声が上がり吹き抜けで見えている空に向かって火柱が上がった。
「魔法?一体誰が?……はっ!まさか」
ルナがハッとした様子で火柱が上がった場所に駆けていくのをアラタも、追いかけていく。
「おやおや、ルナじゃないか。どうしたんだい?自分のその使えない剣術を少しでも学ぼうとするその姿勢はいいけれど、何をやっても変わらないと僕は思うな」
ルナが火柱が上がった場所に近づいていくと、何処からともなく現れたサクヤがルナに食ってかかる。
またルナも、負けじと言い返す。
「はっ!笑わせるな。貴様の様に一日中図書室に篭って本を読んで周りの役に立たない寄りは、その使えない剣術とやらで周りの人々を少しでも支えている方が何倍も有意義なものだと私は思うがな」
「「ぐぬぬぬ」」
2人が視線でバチバチと攻防戦を繰り広げていると、人混みの合間を縫って出てきたツナが、2人を制しながら全くついて行けてないアラタにサクヤの紹介等を済ませて、これまでにあったことを話す。
「なるほどな、わかった。ツナは俺と別れた後はそこにいるサクヤさんの所で魔法の練習をしてたんだな。」
「あっ。サクヤで良いよ。それに敬語も禁止だよ?」
「わ、分かったよ、サ、サクヤ」
「それでアラタは何してたの?」
アラタも同様にこれまで行っていた事をツナに話し終えると、何故かサクヤとルナ、2人共が不機嫌そうに眉をハの字にしかめ同時に言った。
「「もう。今日は終わりだ!」」
それだけ言うとサクヤはさっさと去って行ってしまったがルナだけは残り、先程とは違う真剣な声音で話し出した。
「いきなりだが明日はダンジョンと呼ばれる魔物が生息している場所に行って、実戦をしようと思っている。こことは違い、整備されているものの、いつ何が起きるかわからない場所だ。それだけは覚えていてくれ。それじゃあ、ゆっくり休め」
ルナはそう言うと、サクヤが向かったのと同じ方向へ向け歩きだした。
「「実戦か」」
そう呟いた2人の呟きは、再び喧騒を取り戻した訓練所に居る兵士達の掛け声によってかき消された。




