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部活動ヒーロー




 桜が咲き誇り、空は晴れ渡り、暖かな風がだだっ広い校庭を吹き抜ける。


 俺がこの高校に入ってから二回目の春を迎え、長ったらしいだけで面白くもない校長の話がやっと終わり、新しく割り振られたクラスの教室で友人達と特に興味の無い話に花を咲かせて時間を潰す。



 やがて部の準備があるからと部活があるものは一人また一人と姿を消し、帰宅部員である俺を含めた数人と担任の石崎が緩いホームルームを行う。


 それも終わりに差し掛かった頃、俺は素早く帰り仕度を済ませると、終了のチャイムと共に石崎が終わりを告げるよりも早く席から立ち上がり俺は教室を飛び出した。


 今日は早めに帰らないといけない理由があった、その理由とは、この高校の名物てもある。新入生を捕まえる為の地獄の部活勧誘、俺は自分で言うのもなんだが運動神経はかなり良い方だと自負している。しかし、去年一年だった俺はこの部活勧誘を舐めてかかったせいで痛い思いをする羽目に成ったのを思い出す。


 「今思い出すだけでも寒気が……」


 俺は体をブルッと震わせる。


 廊下に出ると、俺と同じ考えの帰宅部勢は多いらしく、辺りを我先にとまるでパニックホラー映画で逃げ惑う人々の様に部に所属していない生徒達で廊下は溢れかえっていた。


 本来、その間を縫って逃げたすのは至難の業だが、そんなものこの俺には通用しない。


 何故なら俺は帰宅部のエースなのだから!!


 「ううううおおぉー!!」


 人混みに突っ込み活路を開くために一歩一歩前に出る。


 しかし、人の波は激しく俺は足をとられそうになるなか、ふと一人の女生徒が目についた。


 人混みに揉まれに揉まれてバランスを崩した女生徒、距離にしてホンの一メートルと数十センチ……


 「行ける!!」


 並みいる人の群れが過ぎ去ったあと、シンとした廊下に帰宅部エースの無惨な姿があった。


 理由は簡単、他の帰宅部に踏まれ伸びていたのだ、まあ幸いにも女生徒は自力で体制を建て直し、そのままの流れにのって何とか無事に校舎を脱することができたようだ。


 「っとそんな場合じゃねえ!」


 立ち上がり、遅れを取り戻そうと急いで校舎から出たものの、残念な事に時すでに遅く、校門と言う校門へ続く道は正門も裏門も全て部活勧誘をする部員達で壁が出来ていて通れそうもなく、校外に出るには人の壁が無くなるのを待つ他に無いようだった。


 「しょうがない、この帰宅部のエースの真の力を見せてやろう!!」


 踵を返し正門でも裏門でもない校舎の東側に位置する塀へ向かう、ここなら人通りも少なく雑木林があるため人目にもつきにくい。


 しかしながら、目の前にそびえ立つ塀は高く、普通の生徒は愚か、並の運動部員ですら越えられずにあきらめてしまう程の高さを有した塀だろう、だが俺には違う。何故なら俺は帰宅部(以下略)なのだからぁ!!


 助走をつけた勢いで塀を蹴りあげ、木の枝を利用しながら身軽に塀をよじ登り、あっと言う間に塀の上へと到達する。


 「まっ俺にとっちゃこんなもんさ」


 塀の上で腕組みをしながらがらフッとニヒルな笑みを浮かべ、今度は降りる作業に取り掛かろうとした。


 その時だった。


 異様な光景が目に飛び込む。


 遠目で良くは見えないが小柄な一人の生徒に対して三人の生徒がそれを取り囲んで、なにかを言い争っているようだ。


 「おいおい、新学期早々イジメか?」


 場所が場所なだけに可能性としては十分にあり得るが、わざわざ校内に戻って見ず知らずのやつに「これはイジメですか?」などと確認してやるほど暇でもないし、確認したところで答えるかどうかも怪しいものだ。


 どうしようか悩んでいると囲まれていた生徒が数歩歩みでて囲んでいる生徒の一人に思いっきり顔を近づける。


 「僕は貴様等に興味など無い!ヒーローヲタとヒーローを一緒にするな!」


 凄い剣幕に驚きバランスを崩し塀の上でふんぞり返っていた俺は学校内側に見事戻って来てしまった。


 怪我は無いがさっきの光景が気になり、俺は声の主の顔を拝んでやろうとその場に行くことにした。



 「部員欲しいんだろ入ってやるって言ってるんだよ!」


 「そうだよ、ヒーロー同好会に入部させてくれって言ってるだけじゃないか、部に昇格したいんだろ!」


 木陰に隠れて話を聴くが、なにやら一人の生徒が数人の生徒に囲まれ罵声を浴びせられている。


 新入生イジメかとも思ったがどうやら違うらしい。


 部の勧誘?をしているようだったが状況が呑み込めない俺はもう少し様子を見てみることにした。


 「だから何度も言っているだろう?貴様等はヒーローに相応しくないと……ヲタはとっとと家に帰って、特撮モノのDVDでも再生しながらDX超合金で遊んでろ!!」


 囲まれていた銀髪の生徒が眼鏡の奥にある眼を釣り上げながら声を張り上げる。


 「こっちが丁寧に頼んでりゃいい気になりやがってぇ!!」


 とうとう銀髪の挑発に堪えかねたのか囲んでいた三人の生徒のウチの一人が拳を振り上げ、銀髪に殴りかかった。


 「おいオマエ等!!そこでなにやってんだ!!」


 「ヤベェ誰か来た!?」


 俺の声に驚いて数人がたじろぐ、しかし、殴りかかっている生徒は頭に血が上っているらしく、退いてくれる気配はない。


 しゃあねぇ、間に合うか!?


 地面を全力で蹴り上げ地を駆ける。


 しかし、間に回り込む時間は無さそうだ。


 その時殴られそうに成っている生徒を見て俺は不安を感じた、そしてソレはすぐさま目の前で起こった。


 「バカ野郎、逃げろ!!」


 俺がさけんだときには叫んだときにはもう遅く、殴りかかった生徒の方は宙を舞っていた。


 鈍い音と地響きが、その場全体を沈黙で包みこんだ。


 何だよ今ナニが起きた!?


 解るわけがない一瞬すぎて俺でさえ理解出来なかったのだ。


 「うっうわぁ!?」


 やがて恐怖からか生徒の二人が逃げ出し、その場には俺と殴られそうに成っていた生徒、そして、今は地べたで伸びている殴りかかった生徒の三人だけが残された。


 「フッ、話に成らんな」


 ふぅと殴られそうに成っていた生徒が溜息を吐き伸びている生徒に近付いて行く。


 「おいナニする気だ!!」


 俺の言葉は全く無視、いい加減腹が立ってきた。


 俺は二人の間に割り込み声を上げる。


 「無視してんじゃねえ!!」


 しかし、銀髪の生徒は俺が見えていないかのように真っ直ぐに伸びている生徒に向かって行こうとする。


 俺を無視するなんて良い度胸だ。


 「邪魔だどいてろ!!」


 突如、銀髪が左手を俺の顔目掛けて素早く伸ばしてきた。


 咄嗟に後方へ躱し少し距離をとる。


 するとそれが以外だったのか銀髪が「ほぅ」と小さく洩らし俺に向き直って言った。


 「ほぅお前がな……」


 ソイツは俺を寝踏みするように見るとフッと笑い大声で言った。


 「捜したぞ赤尾賢!!いやブレンレッド!!」


 「なっ!?」


 言うが速いか銀髪がものすごいスピードで俺の懐に潜り込んでくると同時に放たれた腹部への鈍痛で俺の意識は青空の彼方へと飛んでいった。



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