浮浪者 ベッツ 黄昏れの境界線
余計な知恵を授ける阿呆な猫を追い掛け回し、スタミナ切れでコケて大泣きした猫への制裁は公衆の面前でもあったので取り敢えず、肉を思わせるピンク色の枝程の太さに筋肉繊維と柔軟さを備えた触手で捕らえ、左脚を拘束し吊り上げた後、触手から垂れる粘液でドロドロに汚し泣き噦る猫の顔にも塗りたくった後に、ゴミの様にペイッとそこら辺に捨て、『ホーンズ・オルム』の中へと堂々と入る、勿論、私一人で。
カチューシャは聡明な子だから粘液塗れの色っぽい猫を拾ってくれると信じてからこその放置である。
港街と言う割には石煉瓦の建造物に案外塗装をした木材で建てられた建造が綺麗に並び、あっちこっちと雑多に建てた感も無く、馬車二台が通れるくらいの道幅の取られた街設計には感心と参考にさせてもらおうなどと考えるが、屋台が並び喧騒や明るい雰囲気を醸し出す中、路地裏などはやっぱり浮浪者が蔓延ってしまってるのを見ると、矢張りどうにもならないのだろうか? などと夢物語をどうも考えてしまう。
光輝き、笑顔が絶えない街並み確かに不幸や暴力もあろう、だが、それでも幸せな国を作ろうとするのは間違っているのだろうか? 私が夢を見て止まない理想郷は叶わないのだろうか? エルフ、ドワーフ、獣人、龍人、魔人達、そしてほんの僅かな人間達からなる我が平穏の国。
幸せになるって事は難しいのだろうな。
だが、諦めない、まだ始まってすらいないのだから、始まってから解る事もあるだから、ポジティブに行こうではないか。
そう意思を持ち路地裏へ躊躇いも無く進む。
入ったら、警戒、嫉妬など持っている者達への嫉妬の視線に晒されるので、適当に銀貨をばら撒き視線を逸らす。
すると、私を見ていた者達はばら撒かれた銀貨へ視線を釘付けにし我先にと拾っていく。
その間に、奥に進み、木の箱をベッド代わりに使っている男性に話しかける。
「済まないが、少し良いか?」
男性は私の言葉に反応し、煩わしげに私を半目で見る
「んだょ、『騎士様』が何の用だよ、こんな掃き溜めに、縁なんてないだろうよ、 銀貨を大量にばら撒く程カネを持ってるんだ、こんな所に居たら囲まれるぞ、糞共に」
そう吐き捨て、私に背を向け寝返りを打つ。
「良し、貴殿に決めた。 貴殿に聴きたいのだ、 何でも良い、この街の情報を全て教えて欲しい、どうでも良い事から重要な事まで、報酬は払おう 貴殿の『耳』に私は惹かれた!」
ビクッと身体が跳ね、ゆっくりジロッと私を見る男性の瞳には疑惑の色が映っていた。
「幾ら、 幾ら出すんだ? こちとら明日を生きる術なんて掴めなくてね、金が有れば飯に使い今日の飢えを癒す、明日の希望はここに入ってからもう捨てた者達ばっかりだ、そんな者に幾ら出す? 『騎・士・様』!」
暗い瞳で嫌味たらしく言う男性
私は男性にはっきりと言う。
「最低で銀貨15枚、最高で金貨ではすまない、貴殿の今後の人生が、生きる希望が、生まれる、文字通りの生まれ変わるのだよ! 私の言葉を信じてくれるのならば、それは必ず叶う! 近い内に! 貴殿はその才を披露してくれた、 此処よりも少し離れた場所の音も知覚するのだ、それは確実だ! 貴殿の手足が揃えばそれは盤石になる、どうだ? 興味を示してくれるか?」
男性は木箱に座り直し、その瞳に私を捉え眼を剥く
「あんたは何を考えている? 俺に何をさせたい? 自慢じゃあねぇが学がねぇから、読み書きなんてモノは期待すんなよ」
男性の目には疑惑はあるがそれを凌駕する期待の光が宿っていた、頬はやや吊り上がり笑みを見せてくれる。
「何、簡単な事だ。 貴殿が最初にこの街で情報を集めそれを『売れ』ば良いんですよ、相手の表情や身なり欲している情報、要は与え、貰う。 それを理解すれば良いのです。 貴殿はそれで金銭を貰い、相手は欲している情報を貰う、利害関係、お金は数えれば大丈夫です。 どうですか? 貴殿の『耳』と記憶力を利用し、返り咲こうでは無いですか! 『情報屋』の誕生です!」
私の言葉を聞いて笑みを深くし「クックックッくっ!」と腹を抑える男性
「クックックッ、クハッ! ハッハッハッハ! 面白い! 面白いゼ! 旦那、乗ってやるよ じゃあ手始めに何の情報が欲しい、新しい情報か? それとも娼館の蝶についてか? この街の情報は俺が知ってるゼ」
ニッ! と笑う男性に乗せられて私の感情も高揚する。
「情報は鮮度が命と言うが、知らねば何も出来ず、知れば戦争も楽に終わせられると言う、先ずはそうだな、この街の支配者って誰だ?」
先ず聞きたかったのはこれだ、重要人物を知らなくては次来た時に活かせ無いのは損失でもあるからな
「此処のボスはメアリーって名の女海賊だ、金の槍と斧が付いた武器を振り回し、その怪力を持って破壊する此処らでは一番の強者だって話しだ、そして何より好物は酒! 酒なら何でも飲み、酒樽を3から8は飲み干すって言う化け物さ、そして、海賊団が作った自作の酒を好んで飲むとかまぁ、海賊団と仲良くしたければ酒を持っていけば良いんじゃ無いのか? 特徴は青い髪を下げて一本に纏めてるのと、青い髪、紫の瞳に尋常じゃない位の神乳だ! 取り敢えずデカイ! 出て締まってるムッチムチの色気を出す気の強い女って覚えておけば良い、それと、行きつけの店は『黄昏れの境界線』って店だったな、酒、飲みてぇな!」
思い出す様に上を見上げ涎を垂らす男性
思わず飲みたくなってしまった。 まぁ、郷に入っては郷に従えって言葉があるのだ、少し飲んでも怒られまい!
その後も男性から『情報』を貰った後、名前を聞いた。
「貴殿、名を何と言うのだ? 私はセイイチと呼んでくれ」
男性は面食らい、忘れてたとばかりに笑う。
「俺はベッツだ、よろしく、セイイチの旦那!」
「ああ、宜しく頼む! ベッツ殿」
お互いに握手し、報酬である革袋に銀貨30枚ともう一つの革袋には握り拳程の大きさの純金を入れて渡し、ベッツ殿には加護をさらっと授け路地裏を去った後、その足で『黄昏れの境界線』へと入り、カウンター席の端っこに座りオーダーをする。
「済まない、ラム酒一、黄昏れミードを一つ頼む」
そう言うだけで店員のマスターは木のジョッキに樽に入れられたラム酒と黄昏れミードを注ぎ私の前へ置く
「はいよ、お客さん、昼間っからいい御身分だな」
毒を吐いて他の客のオーダーを受けに行った。
私は本体である『核』をヘルムの部分まで浮かし即席で生成したストローで吸う。
黄昏れミードは甘くも、渇き、そしてアルコールを感じさせてくれる。
美味いと言っても良いだろう肉体があればもっと情報を身体に蓄える事が出来るだろうなと思いながらも飲み干す。
そしてラム酒は美味いが黄昏れミードを飲んだ後だと物足りなく感じる美味さと言うべきだろうか、まぁ、人生初の酒はとても良いものだなと思う。
ラム酒も飲み干した後、テーブルに多めに銀貨を置き店を出る、空は茜色に染まり日が落ちそうになってしまっていた。
私は猫の存在感を頼りに探し、合流した後、『ホーンズ・オルム』を去るのだった。
言えることは、酒、今度度が強いの作って飲もうとまた黄昏れミードを飲みたいと思った事だろうか。




