トラインたちの様子
五村で壁新聞が注目されているが、ほかの街や村への広がりは限定的。
まあ、あの新聞に書かれているのは五村のことばかりだしな。
地方新聞みたいなもので、現地外の者の興味を引くわけがない。
文字が読める人の数も影響している。
現状のままだと、ほかの場所で新聞が作られることは当面はないだろう。
「そうね。
紙と印刷のことを考えれば、百年は独占じゃないかな?」
ルーはそう言ってくれるが、現状のままだとだ。
ああいったのは、ちょっとしたきっかけで急速に広がるぞ。
「きっかけ?
たとえば?」
あー、ほら、ヴェルサたちが計画している本の販売会があるだろ。
「あっち系の趣味の本ばかりの販売会ね」
それが、普通の本も取り扱うらしい。
「そうなの?」
ヴェルサたちは本の販売会はやりたいけど、目立ちたくないらしい。
「つまり、普通の本はカモフラージュね」
そうだ。
だが、普通の本の愛好家は集まるだろう。
「本の販売会なんて、聞いたことがないからね。
……それがきっかけ?」
ああ。
いろいろな本が売られる。
それを読む人が増える。
金になる。
金になるなら、本の販売会を通じてデルゼン製紙とデルゼン印刷の仕事を模倣する者がでてくる。
模倣は改良になり、試行錯誤が繰り返されたら……
「広がると」
可能性だけどな。
ラーメンを売る店、すぐに似たような店が流行っただろ。
あれと一緒だと思う。
「……独占できないわね。
本の販売会を中止させる?」
そんなかわいそうなことはできない。
それに、俺は広まるほうがいいと思っているぞ。
「無欲ねー」
いやいや、俺はルーが思うよりも強欲だ。
「そうかしら?」
そうだよ。
ほら、いまの五村ではいろいろなラーメンの味を楽しめるだろ?
その状況はよくないか?
「……悪くはないわね」
人型の着ぐるみであるフウマが、食事をしていた。
スプーンやフォークで料理を頭巾の裏の口に運ぶが、実際は口で食べていない。
手や頭部にいるザブトンの子が、細かく裁断して内部に取り込んでいる。
口で食べているように見えるだけだ。
当初は口に入れ、口内で裁断して取り込む予定だったが、口に発声器を仕込んだのでできなくなってしまった。
「うーん、お肉やサラダは大丈夫ですが、スープなどの液体が厳しいですね」
フウマの食事姿を観察していた山エルフのヤーが、どうしたものかと頭を傾ける。
「あまり綺麗なやり方ではありませんが、液体は胸元に零してもらってそこから吸収する……とか?」
胸元ならなんとかなるのか?
「液体を取り込む入口は用意できるかと」
うーん。
それなら、液体の取り込み口を外付けして、ホースで背中に回すのはどうだ?
黒い服や頭巾があるから、そういったのは見えないだろ?
「そうですが……」
賛同をもらえない。
パーツの外付けは美しさの面で、嫌なのだろう。
「あ、ストローを口から出すのはどうですか?
それで吸えば問題なしです」
そのストローを誰が吸うんだ?
ザブトンの子供たちに、吸引力があると思うか?
「くっ!
なんて人体は優れた構造なんだ!」
まあまあ、最初から完璧は無理だろう。
液体は、なんとかごまかす方向でやるしかない。
「しかし、向こうでお酒を勧められたりしたときを考えると」
酒は宗教上の理由で飲めないと言って断るしかないだろう。
実際は機能上の問題で飲めないのだけど。
「対策を考えます」
無理しないように。
あと、ザブトンの子供たちにも無理させないように。
「頑張ります!」
後日、口で食事をしつつも、額から声を出すフウマがいた。
……
もとに戻しなさい。
魔王国の王都にあるガルガルド貴族学園にいる、アンの息子であるトラインから手紙が届いた。
転移門を使えばすぐに戻れるはずなのだが、手紙だ。
ちょっと寂しい。
でも、一生懸命に書いたのだろうから、しっかり読ませてもらう。
手紙の内容は、トラインの近況報告。
もともとトラインは、アルフレートたちの世話をするために学園に行ったのだが、アルフレートたちは旅に出てしまった。
学園に残されたトラインは、アルフレートたちの派閥を管理しながら、執事になる勉強をしている。
えーっと……
最近はプギャル伯爵の屋敷に招かれ、勉強している?
え?
ああ、ゴール、シール、ブロンのところに勉強の相談に行ったら、プギャル伯爵と会って勉強の機会をもらったと。
へー。
俺はまだプギャル伯爵と会えていないんだけどなぁ。
よくしてもらっているなら、お礼をしないと。
んん?
お礼は不要?
娘が世話になっているのだから、これぐらいは当然と言ってた?
あー、まー、そうなのかな?
それでもなにかしらお礼を渡したいなら、ビーゼルに預けるようにしてほしいと?
それでいいなら……まあ、そうするか。
トラインと一緒に学園に行った山エルフのマアのことも書いてあった。
なんでも、内燃機関で動く、二輪の乗り物を作ったらしい。
おおっ、バイクか。
多目的人型機動重機を調べて得た知識を使っていると。
王都にいても、この村と情報交換はできているようでなにより。
まあ、転移門を使えばこの屋敷から学園まで一時間もかからないしな。
えっと。
二輪のタイヤを太くすると走りは安定するけど速度は出ず、曲がりにくくなる。
タイヤを細くすると速度は出て曲がりやすいけど、止まったときに倒れる?
操縦も慣れがいると。
あー、そうなるな。
それで、マアは最適なタイヤの太さを選ぶのに苦戦していると。
試行錯誤はいいことだが、安全対策は忘れないようにと返事に書いておこう。
転倒の危険があるのだから、ヘルメットを装着するようにと。
多目的人型機動重機に使われていた安全対策も、活用してもらいたい。
あとは、これまたトラインと一緒に学園に行ったキアービットのこと。
最近は、いなくなったティゼルの代わりに王城で働いている?
キアービットは有名人だから駄目とか言ってなかったか?
そうも言ってられないほど、切羽詰まっている?
エリックとベルバーク老も王城?
エリックは、たしか学園でティゼルの補佐をしていた者だな。
学園で顔を合わせた覚えがある。
ベルバーク老も同じだ。
学園で会った。
たしか魔王の奥さんである学園長の曾祖父? 曾曾祖父だったか?
本人が曖昧な紹介をしていたから、俺も曖昧だ。
まあ、長生きしている魔族の長老で、人脈がすごいらしい人だ。
その人まで王都で仕事をしていると。
…………
魔王やビーゼル、よく村で見るけど?
魔王、五村で野球の試合とかしてなかったか?
魔王国は大丈夫か?
あと、キアービットを国政にたずさわらせると、乗っ取られるぞ。
んー。
まさかと思うが、国政の手がまわらなくなって、密かに天使族に乗っ取られるように魔王が動いているとか?
ははは。
トラインに返事を書いたら、魔王に確認しておこう。
「目が血走った文官たちから、不在でも問題ないと言われたからここに来ている。
いると邪魔になってしまうようでな」
きりっとした顔で、膝の上の猫たちを撫でる魔王だった。
文官たち 「日を指定しますので、その日は絶対に登城してください」
魔王 「了解!」
ビーゼル 「き、君たち、もう少し魔王さまを立てる方向で……」
文官たち 「我々に、そういった余裕があるとお思いで?」
ビーゼル 「し、失礼した」
プギャル 「(黙って差し入れを置いて去る)」
文官たち 「(いつも、ありがとうございます!)」
キアービット「トラインが困らないように頑張らないと」
ベルバーク 「逃げ遅れた!」
エリック 「巻き込まれた!」
文官たち 「超戦力! 助かる! 魔王国の未来は明るい!」
マア 「ブンブンブブブンッ!」
トライン 「楽しそうだなー」




