五村の壁新聞
●登場人物紹介
エライザ 文官娘衆の一人。デルゼン製紙、デルゼン印刷の代表代行。
シャルネ 古の悪魔族の女性。別名、繋がりを断ち切る悪魔、文字。
人型の着ぐるみ、黒い服の男の名が決まった。
フウマ=カトウ。
………………
クジだ。
クジで決まったんだ。
俺は黒い服から忍者を想像して、ハットリとかサルトビとかの有名どころをクジとして箱のなかに放り込んだ。
ほかにも、ルーやティア、リアやアン、山エルフのヤーたちにも協力してもらった。
だから、クジの箱のなかには百を超える名前候補があったはず。
そして、クジを引いたのは人型の着ぐるみに乗り込むザブトンの子供の一匹。
俺が混ぜたクジ箱のなかに糸を飛ばし、クジを引いたのだが……
糸の粘着力が強かったのか、クジは二つ出てきた。
それがフウマと、カトウ。
両方、俺が放り込んだクジなのは、何者かの意思だろうか?
そして、二つ出たのはなにかのメッセージかもとルーたちがとらえ、せっかくだからとフウマが名、カトウを家名とすることになった。
乗り込むザブトンの子供たちも、その名がいいと喜んだので決定。
まあ、俺の感覚では少し変な名だが、フウマという名もありえなくはない。
ならばよし。
あと、名なんだから、コタロウとか、ダンゾウとかにすればよかったとちょっと反省。
次から気をつけよう。
五村で新聞が出来た。
新聞と言っても、何ページもあって各家庭に毎日配るようなものではない。
壁に貼り付ける大きな一枚新聞。
つまり、壁新聞だ。
きっかけは、デルゼン製紙の生産した試作紙の消費と、デルゼン印刷の印刷試験、それとデルゼン出版のスタッフの編集力をチェックするためにと企画された。
書かれているのは、五村関連。
まあ、大きくスペースが取られているのは、ヨウコ関連の記事だな。
ヨウコがなにを食べたとか、ヨウコがこういった服を褒めたとか。
あとは五村の店の紹介や、流行、事件、野球などのスポーツの結果と感想など。
おっと、忘れてはいけないのが壁新聞の柱や下部に載せられた広告。
この壁新聞は五村の各地に立てられた掲示版に張り出される。
無料のものだ。
しかし、壁新聞とはいえ、いろいろとお金はかかっている。
そのお金を回収するために、広告だ。
広告費に応じたスペースを用意し、そこに広告を載せる。
最初の新聞では、ゴロウン商会の広告が大きなスペースを取った。
ただ、広告というものに慣れていないので、ゴロウン商会のエンブレムがデカデカと載るだけだった。
こちらとしてはイラストの印刷練習ができてありがたいが、安くない広告費を払ってくれているのだ。
利益を得てほしい。
いや、冷静に考えれば、壁新聞を読む層にゴロウン商会が宣伝する必要はない。
ゴロウン商会は小売りもやっているが、基本は卸業者だ。
だから、俺は広告から撤退するようにアドバイスをした。
しかし、マイケルさんは壁新聞の広告に大きな商機を感じており、なんとか活用すると広告を継続した。
ならばと、個人に売りたい物をアピールするか、ゴロウン商会の知名度を高めるために広告を使うようにアドバイス。
結果。
ゴロウン商会の広告スペースには、商品を持った美女や美男子のイラストが掲載され、人気を博している。
ゴロウン商会としては、五村のマスコットであるファイブくんを使いたかったらしいのだが、それは俺が止めた。
オリジナルでやったほうが便利だし、面倒もない。
こっちの世界には著作権とか、肖像権などの概念はまだないが、そういったのは必ずできるし、できないといけない。
創作活動を活発にするには、そういった部分を健全にして創作者を保護することから始まるのだ。
などと偉そうに言ったが、俺がそういった概念を広める予定はない。
自然発生を期待。
もしくは、デルゼン印刷とかデルゼン出版に頑張ってもらいたい。
デルゼン製紙とデルゼン印刷の代表代行をお願いしているエライザから報告を受けた。
デルゼン出版に、壁新聞を買いたいという者が来たらしい。
壁新聞はデルゼン出版が持っているが、壁新聞の企画はエライザが取りまとめていたのでエライザに回された。
「五村に店を構える者で、店内に掲示したいとのことでした」
なるほど。
しかし、個別販売の価格は決めていなかったよな?
どうしたんだ?
「無料で渡しました」
素晴らしい。
新聞は各事業の練習。
同時に、各事業の広報も担っている。
壁新聞一枚を売るよりも、配ったほうが効果は大きい。
「はい。
ですが、毎回無料というわけにはまいりません」
そうだな。
しかし、下手な値をつけると、掲示板の新聞が盗まれないか?
「あの新聞には、五村のマークがついています。
それを盗む愚か者がいるとは思えませんが……」
ゴロウン商会のイラストが人気だから、ありえないか?
「……ありえますね」
盗むよりも、購入したほうがいいと思う値段にしよう。
ただし、刷り増しはなしだ。
「要望があっても、最初に刷った枚数だけということですね」
そうだ。
壁新聞は不定期発行だが、関係スタッフがやる気になっているので、すでに号は十を数えている。
どこそこの号が欲しいと言われても、対応できない。
個別販売は余剰分だけ。
現状、五村の各所の掲示板に百枚と少し。
あと、広告を入れてくれたところに配っている。
なので、二百枚ぐらいしか刷っていない。
余らせても仕方がないからな。
「承知しました。
個別販売の値と、最初に刷る枚数をスタッフと話し合います」
そうしてくれ。
その後。
新聞の関係スタッフが話し合って壁新聞一枚は、中銅貨一枚で販売すると決まった。
最初に刷る枚数は、五百枚。
ちょっと多いように思えるが、かなりの人から欲しいと言われていたらしい。
壁新聞から、俺の知る新聞に変化するのも近いかもしれない。
「現在は不定期発行ですが、いつかは毎日発行でいきたいと関わっているスタッフから意見が出ています」
エライザからそう報告を受ける。
なるほど。
まあ、いまは人手が足りないけど、そのあたりが解消したらデルゼン新聞として独立させてもいいかもな。
「デルゼン新聞ですか。
できれば、大樹新聞か、五村新聞にしていただけると」
デルゼンの名が大きくなりすぎるか?
「デルゼンの名を売る必要がありませんから」
わかった。
考えておこう。
「よろしくお願いします。
それと、プラーダ美術館から新聞の展示に関する企画が提案されています」
ああ、聞いている。
プラーダ美術館内に壁新聞を展示。
最新号だけでなく、過去の号も展示したいと。
それと同時に、すべての発行物を保管したいという内容だ。
展示は問題ない。
保管に関しても、新聞の内容から歴史資料として有益だと思う。
「では、許可を出されますか?」
同じ案が、五村の図書館からも出ているんだ。
「私のところには来ていませんが?」
図書館から五村議会、ヨウコ、俺への流れだな。
「なるほど」
どうする?
今後、新聞関連はエライザに統一する方向で調整しようか?
「それはありがたいですが……
ヨウコさまからではなく、五村議会からでお願いします」
わかった。
そうしよう。
「それで、許可はどちらに出されますか?
それとも不許可で?」
両方に出すよ。
展示場所が増えて、保管場所が複数あるのはありがたい。
ただ、どちらにも問題はあるんだよなぁ。
「問題ですか?」
うん、図書館は空間が問題だ。
いまは大丈夫だけど、将来は場所が足りなくなるだろう。
出版が活発になったら、さらにだ。
「なるほど」
五村の麓に図書館用の倉庫スペースを確保をしているけどな。
「プラーダ美術館なら、空間の問題はありませんよね」
そうなんだが、こっちの問題はこの企画の責任者がシャルネということ。
シャルネは本とか手紙など、文字のあるものが好きなので壁新聞も好きだ。
なので適任だと思うのだが……
彼女は内容は気にしないのと、保管に関してはちょっと乱暴。
本とか平積みは平気だし、手紙もポケットに入れてクシャッとなっても気にしない。
俺としては、保管するならきちんとしておいてほしい。
「あー……ですが、大丈夫だと思いますよ。
責任者だからと、シャルネさまがすべて対応するわけではないでしょうから」
まあ、そうだな。
しばらくは様子をみよう。
許可は正式な書面を作って、回すよ。
「よろしくお願いします」
壁新聞の登場により、五村の住人の識字率がさらに向上した。
そして、イラストを描く絵描きが人気職業になったが……デルゼン出版が事前に確保に動いていたので、出版に影響はないそうだ。
よかったよかった。
で、いいのかな?




