冬の五村を訪問
五村。
俺はヨウコ屋敷から五村の冒険者ギルドの建物まで、馬車で移動していた。
同行者はガルフ、ダガ、レギンレイヴ。
あとは案内役としてヨウコの秘書が一人、たしか名はメッサーだったはず。
今回、俺が冒険者ギルドに行くのは、冒険者ギルドで問題が起きたからではない。
ただの定期交流。
それもなにか議題があるわけではなく、五村は冒険者ギルドを気にかけていますよというアピールが主目的。
こういったアピールは大事だそうで、ヨウコから頼まれた。
まあ、俺が冒険者ギルドに行って、冒険者ギルドの偉い人と少しだけ歓談して終わる話だから断ったりはしない。
いまは冬で比較的、時間があるしな。
俺が冒険者ギルドを訪れることは事前に連絡しているので、万全の体制で出迎えてもらった。
ただ、冒険者たちには連絡されていないので少し騒ぎになった。
「武神ガルフだ!
すげぇ!
初めてみた!」
「リザードマンのダガさんもいるじゃないか!
ガルフさんより強いらしいぞ!」
「天使族の姉御!
姉御じゃないっすか!」
うーん、俺が隠れてしまうほどすごいガルフ、ダガ、レギンレイヴの人気。
「村長だ!
村長がいるぞ!
ヨウコさまより偉い村長だ!」
……メッサーくん。
ありがとう。
気を使わなくていいから。
さっさと冒険者ギルドの奥に行こう。
そう思ったところで、一人の冒険者が俺を見て呟いた。
「ま、幻のラーメン屋台の店長……」
呟き声は小さかったが、ほかの者にもしっかり聞こえたようで俺を見る目が増えた。
「ほ、本当だ!
あのラーメン屋台の店長だ!」
「店長!
ラーメン、美味かったぞ!」
「モチ煮込みラーメン、またやってくれ!」
「野菜ラーメンもよかったぞ!」
「なんか、白かったやつ!
白かったやつがよかった!」
白湯ラーメンかな。
なんにせよ、店長コールがガルフ、ダガ、レギンレイヴへのコールに対抗した。
うーん、予想以上に屋台が人気だなぁ。
冒険者ギルドでの歓談も、ほぼ屋台のラーメンの話に終始したし。
屋台を出す回数、もうちょっと増やそうと思う。
冒険者ギルドで目的を果たすと、あとは自由。
ガルフたちは俺の護衛を継続するけど、メッサーは村議会場に帰る。
え?
帰らないの?
最後まで同行?
かまわないけど、俺はこれから白鳥のレース場に行って、そのあと神社。
時間があれば美術館のほうにも行くつもりだけど、大丈夫?
大丈夫っぽい。
馬車もそのまま使っていいみたいなので、馬車でレース場に。
白鳥のレース場に来たのは賭けごとがしたいわけではなく、レース場にいる白鳥のオデットや黒鳥のオディールに差し入れを渡すのと、五村グッズの販売店であるクグイの様子を見るのが目的だ。
オデットとオディールは……
それなりに真面目に働いているようだ。
意外だ。
もう少し、さぼったり問題を起こしたりすると思っていた。
いい意味での裏切りだ。
まあ、真面目に働いているとの話を聞いたので差し入れなんだが。
差し入れは、鬼人族メイドたちが作ったケーキ。
生クリームを使ったものと、シュトーレンのような日持ちするもの。
クッキーなどもある。
俺たちとは別ルートで運ばれているだろ?
レース場で働く職員たちの分も含めてだから、ちゃんと分けてやってくれ。
大丈夫だ。
白鳥や鴨、アヒルたち、あと池の水質を管理してくれているポンドタートルには水草や小魚を運んでもらっている。
忘れてないよ。
しかし……
少し見ないうちに、白鳥や鴨、アヒルの数が増えたなぁ。
新しい池がほしいとの意見は聞いている。
春ぐらいにはもう少し北に池を作ろう。
いまは調査中。
どこに作るか調べているの。
変な場所には作れないだろ。
あと、魔獣や魔物も追い払わないといけないし、ポンドタートルたちにも都合を聞かないといけない。
こっちのポンドタートルたちは起きてても、大樹の村のポンドタートルたちは冬眠中なの。
俺だけでなく、ヨウコもちゃんと動いているから、急かさないように。
ほら、ヨウコの秘書のメッサーも任せてくださいと胸を張っている。
五村グッズの販売店であるクグイは、安定して売れているらしい。
最近の売れ筋は木刀。
……
間違いない。
木刀が一番の売れ筋。
い、一応、ただの木刀じゃない。
ちゃんと柄のところに、五村来訪記念とか必勝祈願とか白鳥礼賛とか彫られている。
さらには堅い木材をちゃんと使っているので実用にも耐える。
護身武器として帯刀していても、叱られにくい。
……
駄目だ。
木刀が男心をくすぐるのはわかるが、一番なのはわからない。
白鳥のヌイグルミとかのほうが売れそうだけどなぁ。
すでに一家に三つぐらいは売れたから?
な、なるほど。
なんにせよ、木刀以外の商品を考えないといけないな。
レース場の次は神社。
こっちはお参りのつもりなので、そう時間はかからないだろう。
ニーズの友人であるエキドの様子を見たい気持ちもあるが……
まあ、会えたらでと考えている。
神社に到着すると、銀狐族のコンたちが勢ぞろいで出迎えてくれた。
事前に連絡はしていないのだが……
メッサーが伝えてくれたのね。
ありがとう。
コンたちも、ありがとう。
いやいや、嬉しいよ。
エキドもいるな。
困ったことはないか?
コンがサポートしているから、大丈夫と。
そういえばエキドはコンと顔見知りだとヨウコが言ってたな。
あー……仕事で敵対したり、一緒だったりね。
ここで揉めなければいいよ。
なにかあったら俺かヨウコに。
あと、そこでアピールしているメッサーでもかまわないから。
よろしく。
……
え?
宴会の用意をしている?
ぜひとも参加してほしい?
あー、それじゃあ、少しお邪魔しようかな。
美術館に行くのは後日になりそうだ。
宴会は無難に進んだのだけど、ときどき強烈な光があって眩しかった。
途中でニーズや白鳥、黒鳥、ヨウコもやってきた。
宴会に参加するのかと思ったら、神を祀っている場所に行って、なにやらバタバタしている。
大変そうだ。
座ってないで、各神の間にお供えをするようにヨウコに言われてしまった。
なぜか俺じゃないと駄目らしい。
はいはい、手伝いますよ。
コンたちが用意した料理とお酒を受け取り、所定の場所に置いて、手を合わせるだけだけどな。
そういえば鯨の白骨は……
落ち着いている様子。
よかった。
ああ、鯨の白骨にもお供えを。
向こうでドラゴンの像が早くしろと怒っている雰囲気を出しているけど、順番にだ。
ちゃんと供えるから、待ってるように。
以前、大きな山を越えたので、あとは小さな山の連続と書いたけど……
小さくても山は山なんだなぁ。




