大雪と酒スライムの子
●登場人物紹介
グルーワルド ケンタウロス族の種族代表。三村の村長代行。
キアービット 天使族。マルビット(天使族の長)の娘。
ドノバン エルダードワーフの種族代表。
トウ マーキュリー種。万能船の船長。
ゴウ マーキュリー種。四村の村長代行補佐。
ロク マーキュリー種。五村の青年文官。
ヒー マーキュリー種。五村の武官。
ベル マーキュリー種の種族代表。
ミヨ マーキュリー種。幼女メイド。シャシャートの街勤務。
ヨル マーキュリー種。温泉地の転移門管理者。
フタ マーキュリー種。五村の転移門管理者。キャラ付けに悩んでいる。
ナナ マーキュリー種。五村の密偵。村娘風。
ベルの要望で、大樹の村の俺の屋敷内にベルの部屋が用意された。
と言っても、寝泊りにはまだ使っていない。
本格的に使うのは、四村以外での仕事を請け負ったあとだろう。
まあ、頻繁に来て私物を置いたりはしているけど。
四村ではなかなか自由にできなかったのかな?
ベルの部屋を用意するにあたり、ヨルとミヨの部屋も用意された。
ベルの部屋が用意されると知ったヨルとミヨが、ずるいずるいと大合唱だったから。
まあ、ミヨは頑張ってもらっているので専用の部屋を用意することに抵抗はないが……
ヨルは温泉地に帰ったほうが楽だろ?
転移門があるわけだし。
「雨とか雪で移動できないときもありますので」
まあ、たしかにそうだが……
でも、そういったときは、こちらに来れないのでは?
「細かいことは気にしないでください」
わかったわかった。
でも、クリムのことと転移門の管理の仕事は忘れないように。
「もちろんです」
頼んだぞ。
山エルフのヤーが、屋敷の中庭で腕を組んで仁王立ちしていた。
どうしたのだろうか?
「説明しようのない危機感を覚えています」
そうなのか?
大丈夫か?
「わかりません。
わかりませんが……こういったときは、体を動かすに限ります!」
え?
ヤーは巨大な雪だるまを作り始めた。
ほかの山エルフたちもやってきては、黙々と手伝っている。
手伝っている山エルフたちは、なぜか仕方ないなーという顔だった。
えーっと、冬だから汗をそのままにしちゃ駄目だぞー。
ちゃんと拭き取るか、風呂に入るように。
「わかりましたー!」
完成した巨大な雪だるまは、子供たちに好評だった。
大雪が降った。
屋敷の一階が隠れるぐらいだ。
当然、ヤーたち山エルフが作った巨大な雪だるまも雪に隠れてしまった。
残念だったな。
ヤーたちを慰めると、今度は隠れないぐらいの雪だるまを作ると元気いっぱいに返事された。
子供たちも手伝いたいそうだ。
やる気は認める。
でも、雪だるまが転がったり倒れたりする可能性を考え、安全対策を怠らないように。
事故はよろしくない。
大雪なので、屋敷の外にはあまり出ずに室内で活動。
コタツに入り、父猫のライギエル、母猫のジュエルとともにまったりする。
コタツのテーブルの上では、酒スライムが酒を飲んでいる。
いつも通りだな。
……
いつも通りじゃないことがあった。
酒スライムの横に、酒スライムを小さくしたようなスライムがいた。
まさかと思うが、彼は?
真っ白なホーリースライムとの子か?
いや、スライムは分裂して増えるんだよな?
そう疑問を持つと、酒スライムを小さくしたようなスライムは色を変え、真っ白になった。
うん、酒スライムとホーリースライムの子だな。
理解した。
おめでとう。
その子は……酒を飲んでいるようだけど、大丈夫なのか?
大丈夫なんだろうな。
酒スライムの子なんだから。
なんにせよ、めでたい。
とっておきの酒を出してやろう。
俺は部屋の隠し扉を開き、その奥にある秘密の棚から小さな酒樽を取り出す。
そしてコップに注いだのだが……
あれ?
俺の知っている酒じゃない。
俺が取り出したのは、琥珀色の酒だった。
でも、目の前の酒は金色。
いや、酒じゃないな。
アルコール臭はするが、これは酒樽からだ。
すり替えられた?
俺は酒スライムをみた。
い、いや、酒スライムは盗み飲みはしても、別の酒を入れて盗み飲みをごまかすような真似はしない。
ドワーフたちに通じる潔さがある。
とすると……
酒スライムの子が犯人だった。
違う?
酒を入れたのは酒スライムの子だけど、飲んだのは酒スライムと。
なるほど。
酒スライムには罰として、外に出て凍ったスライムたちの救出を命じておいた。
何度言っても、外に出て凍る個体がいるんだよなぁ。
それで、この金色の液体はなんだ?
酒スライムの子が出した液体?
飲むと回復効果がある?
へー。
じゃあ、回復薬か。
酒じゃないのね。
となると、どうしよう。
別に怪我をしたわけじゃないのに飲むのはもったいない。
だが、コップに注いだものを酒樽に戻すのは抵抗がある。
都合よく回復薬が必要な者などいないだろうから……
コップに入った金色の回復薬は、ルーのところに持っていった。
なにかしら研究に使ってくれるだろう。
酒樽のほうは……棚に戻しておこうか。
今度、新しい隠し場所を作ろう。
俺は改めてコタツに入り、ライギエルとジュエルを撫でた。
翌朝。
屋敷の玄関に大量に積まれた凍ったスライムたちの姿があった。
そして、俺の部屋で平然と酒を飲んでいる酒スライム。
酒スライムの子は……ルーに捕まっていた。
金色の回復薬は、肉体と精神の疲労を回復する効果が強いらしい。
欲しがる人は多そうだ。
「コップ一杯も飲めば、その日は眠らなくて大丈夫よ!」
睡眠時間はしっかり取るように。
あと、成長の阻害に繋がるかもしれないから、子供たちには飲ませちゃ駄目だな。
扱いは酒と一緒……いや、大人が飲む場合でも、お茶などに混ぜて薄めて飲んでもらおう。
とりあえず、ルーにはどれぐらい薄められるかを調べてほしいな。
酒スライムの子も、大量に出せるわけじゃないだろうから。
グルーワルド「最近の出番のなさに、危機感を覚えています」
キアービット「同じく」
ドノバン 「うむ」
トウ 「一気に攻めるかと思ったんだけどなぁ」(あれ? 動きがない)
ゴウ 「思ったよりポンコツですよ、彼女」(今回はクズさんが頑張っただけ)
ロク 「だよね。ここから進むのに何年かかるか」(ヨルのほうが先か?)
ヒー 「下手につくと、こちらに被害がでる。静かに見守ろうではないか」(フタやナナも頑張れ)