王国戦士と四村での雑談
●登場人物紹介
ベル マーキュリー種の代表。巫女風。
ゴウ マーキュリー種。四村(太陽城)の運行担当。中年執事風。
クズデン 悪魔族。四村の村長代行。
俺は四村に移動した。
そして見た。
巨大な滑車を。
ハムスターなどが入って回す滑車の人間サイズ版のやつだ。
そして、巨大な滑車に入って走る王国戦士の姿。
……
えーっと、動けるようになったのか?
俺は四村に到着してから同行してくれているベルに聞いた。
「水晶柱から意識の移行はまだ行なっていません。
どうも緊急避難的な休眠状態だったようで、治療中です」
じゃあ、いま動いているのは?
「ゴウの遠隔操作です。
体のほうはある程度の修理ができたので、動作確認をしているところです」
へー。
とすると、王国戦士はハムスターの真似をしているわけではなく、ルームランナーか。
「はい。
足回りの確認をやっているところです」
なるほど。
ん?
よくよく見てみると王国戦士の腕は二本だった。
四本じゃなかったっけ?
「四本腕は機構的に複雑なうえにメリットが少ないので、二本腕に変更しました」
そんなことをして大丈夫なのか?
「追加ならともかく、減らすぶんには問題ありません」
そんなものか。
「そんなものです。
あと、王国戦士の性別は女性でしたので、体も女性型に調整していきます」
みたいだな。
言及しなかったが、王国戦士の体には大きい胸が目立っていた。
……
戦士として戦うには、邪魔じゃないか?
「本人の希望です」
会話はできるのか?
「日に数回程度、簡単な会話だけですが」
そうか。
なんとかなりそうで、よかった。
あと、希望で胸を大きくしたということは、あの体は水晶柱に入っていた王国戦士のものじゃなかったのか。
「いえ、本人の体です」
え?
でも、胸のサイズを……
「状況を認識しての第一声が、修理するなら胸を大きくしてほしいでした」
あー、ま、まあ、女性には重要なことか。
「上級指揮官タイプなら顔やスタイルも重視されるのですが、汎用の小隊長タイプでは逆に目立たないようにされますので。
村長が駄目と言うなら、現状ぐらいで止めますが」
まだなにか希望しているのか?
「その、スタイルに関して細かく」
日に数回程度、簡単な会話しかできないんじゃないのか?
「その貴重な会話機会を、スタイルの要望を伝えることに使われています」
困ったものだな。
「ええ。
ですが、その欲望が彼女の回復を助けている面もありますので、無下にもできず……」
そうだな。
希望は大事だ。
ベルたちにできる範囲で要望を聞いてやってくれ。
ただし、聞いた要望に応じて、しっかりと働いてもらうぞ。
「わかりました。
要望とその成果を記録しておきます」
よろしく。
ああ、無理な要望を無理に聞く必要はないからな。
新入りの王国戦士より、頑張っているベルやゴウのほうが大事だ。
「承知しました。
ありがとうございます」
四村に来たついでになるが、四村の村長代行である悪魔族のクズデンと話をする。
浮遊庭園で土地面積が増えたので、四村住人の生活空間にかなり余裕ができたようだ。
「狭い部屋のほうが落ち着くという者もいますが……
子供が増えそうなので、いずれ狭くなると思います」
それほど子供が増えているのか?
「ええ。
以前は食料だなんだと制限がありましたが、そのあたりの心配がなくなりましたので。
聞いている限りでは、悪魔族が八人、夢魔族が十二人、妊娠中です」
な、なるほど。
全員、無事に生まれたら二十人か。
めでたいな。
妊娠や出産に関しての知識は大丈夫か?
「もちろんです。
出産に関してのベテランもいますし、古の悪魔族の助産師さまも定期検診に来ていただいていますので」
そうか。
必要なことがあったら、遠慮なく言ってくれ。
「ありがとうございます」
それ以外に大樹の村や俺に要望はあるか?
「あー、そうですね。
村の生活に問題はありません。
食料は十分。
調理のやり方を学んだ者も増えました。
それに、麻雀やリバーシ、ボウリングなどの娯楽も増えています」
生活空間だけでなく、生活にも余裕ができた感じだな。
じゃあ、要望はないか。
「村のことでは」
その言い方だと、村のこと以外で要望があるのか?
「ベルさまのことです」
ベルになにか?
さっきも案内してくれたが、とくに変わったところはなかったぞ。
「その、四村が安定するにつれ、ベルさまの仕事が少なくなっていまして」
四村の代表はクズデンだが、基本的な運営に関してはゴウが担っている。
ベルはその両者のサポート役。
四村が安定することで、サポートする仕事が減ったと。
「こまごまとした仕事はありますが、ベルさまはすぐに終わらせてしまうので」
なるほど。
「以前、ヨルさまと一緒に飛行船で出かけたことがありましたよね?
あのときは文句を言いつつも、楽しそうにしていました」
ふむ。
「なので、なにかしら外でのお役目をベルさまにお与えいただければと」
……わかった。
考えておこう。
あ、いや、その前にベルと相談だな。
本人の希望が大事だ。
「よろしくお願いします」
いやいや、ベルにはなんだかんだと世話になっている。
それにフォーグマ一家をまとめてもらっているしな。
なんとかしよう。
「仕事よりも前に、大樹の村に私の部屋なり家なりをいただけると助かります」
ベルに聞いたら、こう返ってきた。
なるほど。
では、フォーグマ一家で使える家を大樹の村に用意しよう。
そう返事している途中で潰された。
「言い間違えました。
村長の屋敷に、私の部屋がほしいです」
…………
ま、まあ、部屋は余っている。
使ってもらっても大丈夫だ。
「ありがとうございます」
実際、ベルが村に来たときは、そういった部屋に泊まっている。
専用の部屋じゃないと、私物とかを置けないからな。
大樹の村に戻ったら、アンに言って用意してもらおう。
おっと、大樹の村に戻る前に、ゴウとも話をしておこう。
王国戦士の動作確認をしていたが、そろそろ終わっているだろう。
……
王国戦士の入った水晶柱の近くに、ゴウがいた。
水晶柱と話をしているようだ。
「だから、胸が大きすぎます。
全体のバランスを考えてください。
実際、あの体で戦闘はきついですから」
……
「胸のサイズが理由で振られたとか言われても……
そんなことを言うのはくだらない男です。
忘れてしまいなさい」
……
「ええ、胸の大きさなど些細なことです」
……
「わかってもらえてなによ……太ももは作り込まないと駄目でしょう」
……
「大事なのは太ももの厚み!
次いで尻から脹脛までの脚線美!
ええい、それが理解できないと言うのですか!」
……………………
お邪魔してはなんなので、立ち去ることにした。
ゴウと話をする機会はいくらでもあるからな。
うん。
ベル 「クズデンさん」
クズデン「は、はいっ! なんでしょう!」
ベル 「よくやりました」
クズデン「え? あ、はい、喜んでいただけてなによりです!」
ゴウ 「聞かれてた? え? あ、あれは売り言葉に買い言葉で。ほ、本心ではありませんよ」