なんでもない話
●登場人物紹介
フタ 五村の転移門の門番。魔法使いっぽい占い師。三十代女性。
ヒー 五村で働く武官。中年のベテラン戦士。
ロク 五村で働く文官。文官青年。
ナナ 五村で働く密偵。村娘。
ミヨ シャシャートの街で働く幼女メイド。
俺は五村に来ている。
ゴズラン王国の第三王女の件の反省からだ。
第三王女がティゼルからの手紙を俺に直接渡したいからと面会を希望したのに、かなり待たせてしまった。
向こうが王族を名乗らなかったことや、ティゼルの名を出さなかったとの理由はあるが、俺が五村になかなか行かないのも理由の一つだ。
ヨウコは気にしなくていいと言っていたが、もう少し短いサイクルで顔を出そうと思った。
しかし、俺への面会は……いまのところ、ない。
俺に近づき、なにかしらの利益を得たい者からの面会希望はあるが、そういった者は事前にヨウコの秘書たちが弾く。
実務の話や、顔を売るにしても、なかなか姿を見せない俺より、バリバリと五村で働いているヨウコに集中する。
当然だな。
ヨウコ目当てで村議会場に来たとしても、俺がいるなら挨拶をと考える者もいるにはいるのだろうが……
俺と会って、挨拶だけということはない。
なにかしら話はするだろう。
しかし、実務の話はヨウコとしている。
下手に俺に実務の話をして、ヨウコとまとめた案件、もしくはヨウコの許可を得て進めている案件を、俺がひっくり返す可能性を考える。
なんだかんだ言っても、俺はヨウコの上司。
五村の代表者。
ヨウコの決定よりも、俺の決定が優先される。
つまり、俺が下手なことを言ったら、もしくは下手なことを言わせたら各方面にいろいろと迷惑がかかる。
危険で面倒。
それなら、ヨウコなり、ヨウコの秘書なりに「村長によろしくお伝えください」と言って去るのが正解となる。
このあたりがわかっていたから、ヨウコは気にするなと言っていたんだろうな。
まあ、いい。
五村で頑張っているリリウスたちの様子を見れたし、仕事で五村に来るゴールやシール、ブロンとも話をする機会が増えた。
ただ、俺が五村に移動すると護衛のガルフとダガ、レギンレイヴ、それと俺の侍女としてハイエルフ、天使族、獣人族、文官娘衆から一人ずつぐらいが同行する。
なのにブラブラしていたり、部屋でぼーっとするのは心苦しい。
近いうちに、もとに戻ると思う。
そうそう、俺が五村に行くことで、あまり接点のないマーキュリー種のフタやヒー、ロク、ナナと会話することが増えた。
昼食とか、一緒にとってくれるんだ。
そのとき、フタとロクは五村の事務関連の、ヒーは五村の防衛関連、ナナは五村の情報関連の話をしてくれる。
ヨウコからそれなりに報告を受けているので確認みたいな形になるけど、とても役にたつ。
もちろん、それだけではない。
雑談もする。
「フタの私室、知ってますか?
いろいろと迷走して、すごいことになっているんですよ」
ナナが教えてくれたが、フタは個性がないのをなんとかしようと頑張っているようだ。
個性がないことはないだろ?
魔法使いっぽい占い師というキャラがあるじゃないか。
「占い……必要とされたことがないので……」
あ、あー、そうだったかな。
「あと、ルーさまやティアさまがいるのに、魔法使いだと胸を張るのはちょっと……
ほかにも、死霊魔導師さんとかいますし」
あー。
それで迷走か。
「実は、口調で特徴を出そうと考えた時期もありまして……」
そうなんだ。
えーっと、例えば?
「のんびりした口調で、余裕のあるお姉さんを演出したり……語尾を気怠そうにして、妖艶さを醸し出そうとしたり」
一時期、語尾が「にゃはぁ」だったり「ですぅ」だったそうだ。
それで、なにかいいのは見つかったか?
「どれも評判が悪かったです」
そ、そうなんだ。
「ザブトンさんたちに相談して、衣装で特徴を出そうともしたのですが……」
フタがそう言うと、ヒーとロクが苦笑した。
「個性のために、羞恥を捨てるのはどうかと思う」
「あれを着ている人が、同族だと思われるのはちょっと……」
評判はさんざんだったようで、身内に見せるだけになったようだ。
ここで俺が興味があると言ったら見せてもらえるかもしれないが、変なことになっても困るので俺は黙っておいた。
ちなみに、食事をしている場所はヨウコ屋敷。
最初は村議会場の食堂で食べていたんだけど、周囲に迷惑をかけるというか……周囲の者が食堂を使いにくくなるのでそうなった。
まあ、ヨウコも村議会場の食堂ではなく、私室か執務室で食べているしな。
そういえばナナ。
ゴズラン王国の第三王女は、どうしている?
問題なく過ごせているか?
「大丈夫です。
五村を楽しんでいるようです」
不満は?
「働きたがっているぐらいですかね。
まだ、小さいのでお手伝い程度しかできないので」
なるほど。
同行者たちからは?
王女のそばにいたんだ。
王城での贅沢な暮らしに慣れていて、五村での暮らしに満足しないかもしれない。
「その心配はないかと。
ゴズラン王国の王城での暮らしより、五村の暮らしのほうが上だと公言していますので」
そうなのか?
「何人かに接触し、聞きましたが……似たようなことを言っていました」
そうか。
考えれば、ゴズラン王国は戦争が身近だったな。
軍備などで財政が圧迫されていたのかもしれない。
まあ、ここでの生活に満足してもらっているなら問題はない。
「あー、一点」
なにかあるのか?
ナナはロクに視線を送り、ロクが答えた。
「第三王女の同行者たちの大半が、ゴズラン王国で文官仕事をしていたようです」
おおっ、それは朗報じゃないか。
ヨウコやミヨが喜ぶ。
「いえ、そうもいかないようで」
?
「ゴズラン王国と五村では経済規模が違い過ぎて、手が出せないと。
戦力となる文官にするには数年は現場で下働きをしてもらい、鍛えないといけません」
それでも、数年後を考えれば雇うのも手では?
まったくの素人よりはいいだろ。
「下働きだと、稼ぎが悪く……」
あ、あー……そうか。
なるほど。
戦力にならない者に、一人前の給金は出せないか。
出してしまうと、ちゃんと働いている者のやる気が下がる。
「はい。
そのように文官になりたいと思っても、給金の問題で生活ができずに断念する者を救うべく、文官候補者に支援金を出す案が出ています。
もちろん、支援金を受け取った者は決まった年数、五村で働くという条件がつきますが」
いいんじゃないか。
ヨウコなら許可するだろう。
それで第三王女の同行者を文官として雇えるなら、いいことだ。
俺がそう言うと、ヒーが手を挙げて発言した。
「武官候補者にも支援金がほしいです。
同じようにやる気はあっても、給金の面で諦めている者がそれなりにいます。
あと、武官の育成機関も作るべきです」
武官の育成機関か。
警備隊では駄目なのか?
あそこ、かなり体系だって鍛えているだろ?
「警備隊では指揮や武術は培われますが、書類仕事に関しては下級の役人以下でして」
あー、そ、そうなるかー。
「できる者はできるんですけどね。
その者にばかり負担がいきます」
よろしくないな。
「はい。
ですので、育成機関で書類仕事を教えられたらと」
わかった。
ヨウコと相談しておくよ。
「よろしくお願いします」
食事は終わり、食後のお茶がテーブルに並べられる。
「あと、身内の話ですが……」
ナナが小さく発言する。
「シャシャートの街のミヨにも、こういった会話をする機会を」
ミヨが大樹の村に来たときは、できるだけ話をするようにはしているが……わかった。
ミヨとも話をする機会をつくろう。
「よろしくお願いします」
ああ、キッシンリー夫妻のこととか、気になることもあるしな。
そうそう、四村に運び込んだ王国戦士はどうなったのだろうか。
せっかくオークションで入手したんだ。
無事に動くようになってくれたらいいが……
食堂スタッフ「ヨウコさまが食堂で食べると、ヨウコさまと同じ注文ばかりが入って困る……」
職員A 「フタさん、今日は自分のことを“わっち”とか言ってたぞ」
職員B 「昨日は“朕”だったのに?」
職員C 「明日はどうなるかな。楽しみだ」
ナナ 「変なファンができてる……」
奇抜な服のフタ「どうでしょう?」
ヨル 「駄目でしょ。羞恥心をどこに捨てたのですか!」
ベル 「……悪くないかも」
ヨル 「ベル? え?」