冬の村を見回る
冬。
夜に雪が降った。
かなり多く。
なので、それなりに積もった。
えーっと、膝上ぐらい。
でも、これまでの経験から、まだまだ序の口。
気が重くなるが……
昼の天気は晴れ。
とりあえず、この程度の積雪なら俺は村を見回る。
足を滑らせないようにな。
そう思ったとたん、俺の後ろで警護していたクロの子供の一頭が足を滑らせてコケた。
……
すごく恥ずかしがっているので、笑ったりからかったりはしない。
見なかったことに?
仕方がないなぁ。
見なかったことにしよう。
ほかの者もだぞ。
では、気を取り直して村を見回ろうか。
牧場エリア。
保温石を配置した場所に、牛たちが集まっている。
牛は寒さに強いはずなんだけどな。
まあ、だからと言って寒いところにいたいわけではないか。
馬たちは……雪を掻き分けて走り回っている。
一部は保温石を配置した場所から動かないけど。
積雪が酷くなると走り回るのも無理になるから、いまのうちに動いておくほうがいいと思うぞ。
山羊たちは、俺を見つけたからか走ってやってくる。
うーん。
それだけなら、かわいいんだけどな。
そのまま俺にタックルするよな。
しかも集団で。
だから、俺の護衛をしているクロの子供たちが守ってくれるんだけど……
クロの子供たちは、山羊たちがかなり接近するまで隠れていたりする。
いたずら好きが多い。
あ、山羊たちが隠れているクロの子供に気づいた。
慌てて引き返そうとして、何頭かの山羊がコケた。
滑りやすいんだから注意しないと。
怪我してないな?
よしよし。
果樹エリアにある蜂の巣の小屋は……補強してあるので雪に負けたりはしない。
問題なし。
太っている女王蜂も……あいかわらずだ。
一部の蜂に、四村に引っ越しをしてもらったが……四村でも元気にやっているだろうか。
今度、様子を見にいこう。
森のなか。
隠して作っているイチゴなどの畑。
……
柵が作られ、保護されている。
俺が作った柵じゃないなぁ。
ハイエルフかな。
去年とは違う場所に作ったのだが……バレていたか。
いや、俺の護衛として隠れてついてきていることもあるらしいから、バレて当然か。
まあ、独り占めしようとしていたわけじゃないし、問題なし。
収穫はもう少し先だな。
覚えておこう。
大樹の村のダンジョン。
各地への転移門が設置されている場所。
アラクネのアラコを中心に、けっこうな数が生活している。
ラミア族や巨人族の姿も多い。
ここでは、メインの通りから離れた場所で年中、もやしとかホワイトアスパラガスの栽培をやっている。
毎年のように栽培場所を増やしているので、かなりの収穫量になるはずだが……
まあ、これらの大半は世話をしてくれているアラクネたちのおやつになっている。
アラクネたちはザブトンの子供の進化なので、当然ながらイモ類も好物。
いろいろな種類のイモの栽培もやっている。
わかっていると思うが、洞窟のなかだから火を使うときは注意だぞ。
必要なら焼いたり茹でたりしてやるからな。
俺に言いにくかったら、ここを通る……と言った俺の後ろを、牛が通った。
温泉地に行くのだろう。
えーっと、牛に言っても駄目だぞ。
ヨウコやロロネも忙しいからな。
温泉地と大樹の村を移動するクリムか死霊魔導士に伝言してくれ。
村の酒造場の近くで、ドワーフたちが雪見酒をしていた。
雪を見ながら酒を飲む。
酒しか見ていない気もするが、気にしてはいけない。
酒だけじゃない?
酒のアテも見ていると。
まあ、飲み過ぎないように。
あと、外で寝るのは駄目だぞ。
その程度で死なないとかじゃなくて、子供が真似したら困るから。
屋敷の前では、ザブトンの子供であるレッドアーマーとホワイトアーマーが出迎えてくれる。
おっと、どうした?
今日はレッドアーマーの背中に、スナイプスパイダーを乗せている。
スナイプスパイダーはザブトンの子供たちの進化系で、その大半は洋菓子店フェアリーフェアリの護衛、一部が飛行船の警備をしているのだが、当然ながら大樹の村にもいる。
屋敷の門番の手伝いか。
頼もしいな。
頼んだぞ。
ウルザの部下である氷の魔物が、雪を移動させてくれていた。
ありがたい。
お陰で、行きは積もっていたのに、各家の前や道には雪がなかった。
移動させられた雪は、屋敷の庭や広場などに集められ、子供たちによって活用されている。
スキーやソリをするほどは雪が集まっていないので、雪ダルマや雪ウサギ、雪像、そしてカマクラなどの雪遊びがメインだ。
……
雪像は氷の魔物が作ったのだろうけど、カマクラは誰が手伝ったんだ?
けっこう大きいカマクラになっているぞ。
ドースとギラル?
朝早くから頑張ってた?
そうか。
それで、そのドースやギラルは?
少し前にコタツを取りに行ったけど、戻ってこない?
そうかー。
たぶん、持ち出そうとしたところをライメイレンやグーロンデに見つかって抵抗されているのだろう。
見かけたら、助けてやろう。
そう思いながら見たカマクラのなかには、酒スライムがいた。
ドワーフのところにいないと思ったら、ここにいたか。
ここにいるのは氷の魔物がいるからだろう。
最近の酒スライムは、氷の魔物とよく一緒にいる。
丸く削った氷、アイスボールを入れた酒が気に入ったからだ。
いまもチビチビと飲みながら、グラスを回している。
あれって、酒と氷から融け出した水のブレンドを楽しむものらしいけど、酒スライムは味を……わかってるよなぁ。
さすがだ。
ところで、酒に関しては諦めているが、そのグラスはどこから持ってきたのだろう。
まさかと思うが……
「二十二、二十三、二十四……二十四……二十四……一つ足りない」
屋敷の食堂で、グラスを磨いていた鬼人族メイドが怖い顔をしていた。
磨いているグラスは……見覚えがあるグラス。
俺は酒スライムが犯人だと密告しておいた。
感想、いいね、ありがとうございます。
誤字脱字指摘、助かっています。
これからも、よろしくお願いします。