おめでたい話と試射
登場人物紹介
スアルコウ 双子の天使族。
スアルリウ 双子の天使族。
スアルロウ 天使族。スアル姉妹の母親。
ゴール 獣人族の男の子。現在、魔王国の王都で生活中。
シール 獣人族の男の子。現在、魔王国の王都で生活中。
ブロン 獣人族の男の子。現在、魔王国の王都で生活中。
メットーラ 混代竜族。六竜神国で新婚生活中。
ユーリ 魔王の娘。
クリム 最近生まれた古の悪魔の娘? 多目的人型機動重機を呼べる。
ザブトンたちが冬眠し、大樹の村は冬を迎えた。
まずは、おめでたい話。
ハイエルフ五人、山エルフ四人、獣人族の女の子二人、文官娘衆から三人の妊娠が確認できた。
まあ、その、なんだ、俺の子だ。
めでたい。
そして、天使族のスアルリウ、スアルコウの二人も妊娠。
二人の母であるスアルロウが、孫だと大喜びしていた。
孫、待ってたからなぁ。
ただ、まだ生まれていないのだから、教育方針に関しての相談は早いと思うぞ。
まずは無事の出産を願おう。
あと、別件になるが、未婚の天使族が俺の近くで働くように配置された。
何者かの意思を感じる。
続いて、以前から妊娠を伝えられていたゴールの二人の妻。
こちらは無事に出産している。
男の子と女の子。
実は二人の出産は半年ぐらい前の話になる。
同時にではなく、一か月ぐらい遅れてだけど。
どちらも、無事に生まれたとの報告はもらっていた。
ただ、俺はまだ見る機会がない。
生まれたばかりの子を連れて移動するのは厳しく、さらには二人の妻の実家はプギャル伯爵家とグリッチ伯爵家。
両家から厳選された乳母と執事と侍女が、がっちり子供たちをガード。
王都にある屋敷の敷地内から子供が出られないようになっている。
過保護じゃないかなと俺は思うが、フラウや文官娘衆に言わせると、当然の行動らしい。
弱みを掴まれないためにも、お披露目まではしっかりと隠すのが常だそうだ。
生まれたばかりの子に弱みもなにもないと思うが……
「子供のころはオネショをしておりましたが、なおりましたかな?」
「そういえば、よく癇癪を起こしていましたね。
今回もそれですかな?」
「ははは、乳母の後ろに隠れていたのが懐かしいですな」
教育が終わっていない状態を見られると、そういったことを言われるらしい。
生まれたばかりのこととは言え、嘘を言っているわけではない。
事実は事実。
大人になってもそう言われ続ける危険性を考えれば、親たちは必死に隠すそうだ。
なるほど。
「もちろん、祖父母や親戚などの血縁、派閥の者たちは別です。
正統な子だと知らしめるためにも、お披露目前でも積極的に挨拶させるのですが……
あそこはプギャル伯とグリッチ伯が絡みますから。
下手に村長を呼んで鉢合わせたりすると、ちょっと面倒臭い感じになります」
フラウと文官娘衆たちから、そう説明をしてもらった。
面倒臭い感じというのは、貴族のつき合いのこと。
あれこれ頼まれるかもしれないのだ。
他人なら無理の一言で済むが、親戚となると断りにくくなる。
頼むほうもただ厚かましいということではなく、こちらのお願いを聞いてくれたりするのでお互い、持ちつ持たれつなのだが……
問題となるのは、そういったことに従う部下が絡んだ場合。
「伯爵はあの五村の村長と親戚なのですよね?
実はうちの領地の商会が五村の調味料をほしいと言ってまして……なんとかなりませんか」
と部下に言われたときに「なんともなりません」とは返事できないわけだ。
そんな返事をすると、娘を嫁がせたところと仲が悪いのかなと疑われる。
それだけならいいが、相手に頼む力がないと判断され、見限られたりしたら統率力を失ってしまう。
そうならないように気を使いながら、お願いをしたなら聞いてもらわないといけない。
……面倒くさい。
だが、まだ顔を合わせていない状態なら言い訳ができるとの判断だ。
なにせ会ってもいない相手に頼みごとをするのは、逆に親戚だからできない。
そういったのは正式な挨拶のあとでとなる。
まあ、俺としてはゴールの子を見るために多少のつき合いはするんだけどな。
ただ、魔王国の貴族社会に本格的にお邪魔したいわけじゃない。
それに下手に貴族社会に関わると抜け出せなくなると、フラウや文官娘衆たちから注意されている。
具体的には、社交界への出席。
村で畑仕事をする暇などないぐらいに、さまざまな場所に呼ばれると。
とても面倒。
そういった話を聞いて気になるのは、ゴールの……いや、ゴールだけでなく、シールやブロンの親として俺が貴族社会に出ていないこと。
貴族のつき合いがゴールやシール、ブロンたちに集中し、困っているんじゃないかと思うんだが……
ゴールたちは俺を呼んでほしいと催促されたら、代理で魔王を呼んでいたそうだ。
……
いや、俺を呼んでくれてもかまわないんだけどな。
あと、代理で行ってくれている魔王、ありがとう。
迷惑をかける。
話を戻して。
ゴールからは、俺やラムリアスに子供を見てもらいたいと聞いている。
同時に、俺やラムリアスを貴族の面倒に巻き込みたくないので、当面は無理かもとも聞いている。
ままならないものだ。
まあ、お祝いは迷惑にならない範囲で贈っているし、返礼の品ももらっている。
無事に育っていると信じよう。
ちなみにだが、ラムリアスはこっそりと行って見ている。
もう一件。
六竜神国のメットーラ。
懐妊したそうだ。
おめでたい。
そして、メットーラの懐妊に負けるものかと六竜神国に関わる混代竜族が頑張っているらしい。
競うものではないと思うのだがな。
子を同じ世代にして、育てたいのだろう。
そう思うと頑張れと思うが、やつれた混代竜族の男性陣を見ると……その、なんだ、えっと、精のつく食材を差し入れた。
ニンニクとか山芋とか。
でも、夫婦円満でいいことだ。
うん。
冬になったのでヨルが試射をしようと言ってきた。
まあ、約束だったしな。
クリムの面倒もちゃんと見ているので、オークションで入手した太陽城の武装の試射を行なう。
手筈は……ヨルが整えていた。
手際がいい。
当初は四村から発射予定だったが、浮遊庭園を四村の周囲に浮かべてしまったので射線の確保が難しく、地上で発射することになった。
雪が深く積もる前でよかった。
試射のメインは、前に見せてもらった全天候型拠点防衛砲ダイダロス。
それに新しく稼働に成功した……なんだろう?
砲身が短い、ちょっとぶさいく、いやコミカルな大砲?
あとは多目的人型機動重機の二号機、ベンゼ。
ゴリラみたいと評価したやつだ。
そのベンゼに担がせた大型の箱型の発射装置……ミサイルポッドみたいなものかな。
派手になりそうだが、操縦は誰がするんだ?
ユーリね。
ん?
クリムもジークフリートで発射する?
かまわないが、事故に注意するんだぞ。
試射の場所は温泉地の北側。
そこから北の山に向かって撃つ予定だ。
もちろん、山を崩すのが目的ではないので山の手前に的が設置されている。
見物人が集合した。
大樹の村、一村、二村、三村の住人、ほぼ全員。
冬だからと仕事がないわけではないが、お祭り騒ぎは逃さないようだ。
ただ、移動がちょっと大変だった。
そのあたりの混雑を見て、四村の住人は太陽城の機能を使って上空から見ることになった。
すまない。
食事や酒などは事前に運んであるから。
ん?
万能船か飛行船で四村の住人を運べばよいのではと?
万能船は北のダンジョンの巨人族を、飛行船は南のダンジョンのラミア族を運んでいたんだ。
何往復もしてもらった。
帰りのこともあるからな。
あと、見物人としてやってきたのは魔王。
ユーリが参加するから見逃せないそうだ。
魔王を運んできたビーゼルも見物するが、魔王のそばでなくフラウのところに行っている。
試射が始まった。
なかなかの大迫力。
的が綺麗にふっとんでいく。
そして大歓声。
一部の的が自分から当たりに動いたようにも見えるけど、そこは気にしちゃいけないのかな。
ヨルが言及しないから、気にしないでおこう。
一通りの試射が終わり、感想としては……
かなりの飽和攻撃だったが、前にドラゴンたちがエルフ帝国の島を攻撃したのを見ていると……ちょっと威力不足かな。
あと、試射に対抗したルーとかティアが、どーんと大魔法を見せたのも駄目だったと思う。
四村の武装が完全に霞んだ。
でも、ヨルは幸せそうだったのでよし。
クリムも頑張ったな。
ユーリは操ったベンゼの放ったミサイルの命中率が悪く、少し不満気だ。
「二号機ではなく、五号機なら、もう少し当たったのに……」
そんなユーリを、魔王とフラウはめちゃくちゃ慰めていた。
五号機は残念ながら分解整備中だった。
ウルザのところに送る前に調べないとということで。
試射が終わったので、宴会。
場所が大樹の村じゃないので、夜通しは厳しい。
日が暮れる前に解散となる。
俺は、死霊騎士たちやライオン一家、アシュラと交流する。
最近は温泉地で長時間いることが少ないからな。
こういった機会に。
●フラウの魔王国の貴族講座
赤ちゃんのころは誰でも失敗します。失敗しない子などいません。ですが、その失敗を大人になっても言われ続けるのは困ります。
なので、お披露目(社交界デビュー)までは基本、隠されます。
実際は、お披露目前のできごとは見なかったことにするというのが暗黙のルールなのですが、弱みは弱みなので。
あと、暗い話になりますが、毒殺対策でもあります。
子供はなんでも口にしますからね。
直接毒を盛らなくても、近くに置いておけば……
ということで、外部の者も招きませんし、外出もままなりません。
ただ、隠していると問題もあり、両親がなんらかの事情で不在となると本当に当主の子かと疑われてしまいます。
その対策として、親類縁者や信用できる部下にはお披露目前から顔合わせをして、存在を周知させる必要があります。
その人選がまたむずかしいのですが……(上位の貴族に見せておくのも手ですが、見せることでその上位の貴族に自家の継承で口出される可能性も。「身元保証してやるかわりに~」みたいな感じです)
まあ、最終的には人柄。
あとは力。
強ければたいていの問題は解決します。
それが魔王国の貴族社会。




