支援要請
そろそろ冬が近い。
かなり近い。
コタツに入ってまったりできるぐらいだ。
ただ、まだ冬ではない。
冬に備えるため、いろいろと頑張ろうと思う。
人間の国の料理人、リビック。
俺の注意を聞いたからか、彼は広場や大通りで踊るのを止めた。
代わりに、ちゃんとした舞台で踊るようになった。
人気らしい。
ダンス教室を始めるぐらい。
それはいいとして、料理を提供する店じゃなくていいのだろうか?
あと、安定した収入を得るのはかまわないが、人間の国に戻らないのか?
始祖さんが、そろそろ帰ろうと何度か提案しているけど断っているらしいし。
でも、元気にやっているようなので余計なことは言わない。
最近は、シャシャートの街や五村だけでなく、海岸のダンジョンの入口付近にある海の種族に任せた海の家にも姿を見せているらしい。
あそこで出している料理は、カレーやオデンなどの定番に、お好み焼き、焼きそば、タコ焼き、イカの姿焼き。
それと提供場所が外になるけど、カニ、エビ、イカ、タコ、ホタテ、サザエなどを焼いて食べることができる。
昔、カニやタコを食べて悪食と言われていたなぁ。
懐かしい。
最近はちゃんと調理して出す店が増えたからか、そういった食材は冒険者を中心にかなり受け入れられている。
食べられる物は多いほうがいいからな。
リビックは内陸国の出身らしく、海の食べ物は見知らぬ物ばかり。
なので味や食感、香りなど全てが未知のはずだが、彼は果敢に挑戦しているそうだ。
その姿勢には感心するが、受け入れられないものを無理に食べる必要はないぞ。
食べられそうなものから、少しずつ慣らしていくように。
大樹の村に手紙が届いた。
ウルザからだ。
支援がほしいらしい。
戦力が足りないのかと村の住人の一部が立ち上がったが、手紙を詳しく読むと足りないのは文官。
街を運営できる人がほしいそうだ。
……
立ち上がった住人は座ったが、代わりに立つ者はいなかった。
しかたがない。
ここは俺が……
立ち上がろうとしたが、肩を掴まれたので立てなかった。
俺の肩を掴んだのはルーだ。
にっこり微笑んでいる。
俺が行くのは駄目なようだ。
となると……
「天使族から何人か出しましょう」
ティアがそう言った。
いいのか?
「ええ。
長も認めています」
ティアの視線の先にいるマルビットが強く頷いていた。
なんでも、サボる天使族の働き場を用意したいそうだ。
……
前にも、ヨウコを休ませるための要員としてサボり気味な天使族を紹介してくれなかったか?
天使族はサボる者が多いのか?
そうではない?
マルビットが慌てて反論した。
「環境が悪いと、それを良くしようと天使族は頑張って働きます」
大樹の村は環境がいいから、ほどよく働くことで満足してしまうと。
な、なるほど……なのかな?
「ただ、劣悪すぎる環境だと働きもせずに逃げるので……」
無人島に放り込んでも、そこを頑張って発展させたりはしないわけか。
「そうですね。
なにかしらの拠点に放り込むのが最適です。
環境を改善しようと自主的に動きます」
なるほど。
そういえば、ティアが村というか村になる前のここに来たとき、いろいろと動いてくれたのはそういったことだったのかな。
「今回のウルザさんの要請は、ちょうどよいと判断します」
そうか。
ならば天使族に任せよう。
「ありがとうございます。
それで、その……お願いが一つあるのですが」
なんだ?
「飛行船を貸していただけませんか」
なにか運ぶのか?
「いえ。
ウルザさんのところに派遣する天使族の生活拠点として活用できればと」
あー、なるほど。
ウルザが現在、どういった生活をしているかわからないからな。
飛行船の宿泊施設を使いたいわけか。
「あと、派遣する天使族の説得にも使えますので」
ある程度の生活は保障してやらないと、行ってくれないのね。
「最終的には行きますが、激しい抵抗が予想されますので」
わかった。
ただ、村の飛行船は使う予定がある。
多目的人型機動重機のパイロットスーツの回収とかな。
五村で建造している飛行船でかまわないか。
一人乗りの飛行船だけでなく、ちゃんと大型の飛行船を建造している。
「生活スペースがある程度、揃っているのでしたら」
そのあたりは大丈夫だろう。
五村の飛行船は、荷物だけでなく旅客も運ぶ予定だ。
ただ、その飛行船の運行もまだ時間がかかりそうだし、予備を含めての建造計画だから、一隻を天使族に貸し出しても大丈夫だろう。
あとは飛行船の運行スタッフだな。
五村の飛行船の運行スタッフを、天使族と一緒にウルザのところに常駐させるわけにはいかない。
現地でスタッフを育成してもらうべきだな。
その方針でいくとして、とりあえず行きの移動は五村の運行スタッフにやってもらって……どうやって戻ってきてもらおう?
転移魔法が使える始祖さんやビーゼルに頼むのは手だが、そういった雑事に使うのは悪い。
予算を組んで、ビー婆に頼むか。
仕事で忙しくなければ引き受けてくれるだろう。
「あの、村長。
五村では飛行船が複数隻、完成していると聞いています。
二隻で移動すればよいのでは?」
マルビットの意見に、なるほどと感心する。
行きは二隻で、帰りは一隻に運行スタッフを集めて戻ると。
そうしよう。
飛行船の手配をヨウコに頼むと、一言あった。
「街の運営ができる者、おったのか」
……
五村では、天使族が前に出ての活動はなかなか厳しいから。
だから、家庭教師とかして天使族に慣れてもらっているわけだし。
「わかっておる。
言っただけだ」
な、ならいいが。
「うむ。
それにウルザの言っている街は、五村に関係がないわけではないからな」
そうなのか?
「ウルザがまとめている集団の活動資金は、五村が出しておる」
……
「旅に出る前に、ちゃんと交渉に来たぞ」
し、知らなかった。
「ちゃんと報告書は出しておる。
まだ読んでおらんようだが」
それは申し訳な……重要じゃない報告書に入れたな?
「相手がウルザなだけで、内容は五村の議会で処理する案件であったからな」
むう。
「まあ、村長に知られると過剰に支援するだろうから、それを防ごうと考えた側面もある」
娘を助けるのは普通だろ?
「もっともだ。
それゆえ、報告書は出した。
ちゃんと確認しておれば、支援もできたのではないかと愚考するが?」
ぬぬぬ……
「次からは、重要ではない報告書にも目を通してもらいたいな」
前向きに善処しよう。
「ほどほどにな。
それと、ウルザから追加の資金援助の申し出がきておる。
額が額なので、村長の承認がほしい」
ヨウコが出した資料の最後に書かれた金額は、銀貨五万枚。
たしかに大金だ。
使用用途は……友だちの生活費と。
「ウルザが率いているのは万に近い兵とその家族で、数万人の規模になっている。
自給自足させるにしても、最初の食料は買わねばならんからな」
なるほど。
街ってのは、その兵と家族を定住させるためか。
やれそうなのか?
「なにもない場所に街を作るのは厳しいであろうが、そうではないからな」
?
「廃墟になっていた街を占領したそうだ。
そこを復興させるらしい」
それは……大丈夫なのか?
魔王国との利害関係は?
「反乱を繰り返して放棄された街だから、問題はないそうだ。
ランダンに確認はしておる」
ランダン。
魔王国四天王の筆頭で、内政担当だ。
彼が問題ないと言うなら、問題はないのだろう。
「資金援助はするが、物資の購入は五村かシャシャートの街でやってもらう。
その物資の輸送に飛行船を使う予定だ。
ゆえに、向こうに一隻ぐらい常駐させるのは問題なかろう」
それで、飛行船を天使族のために使うことを、あっさり認めてくれたのか。
「飛行船がウルザの近くにあれば、村長の心配も減るであろう」
……そうだな。
いざとなれば、飛行船を使って戻ってくることができる。
となると……
あとは銀貨五万枚を回収できるかどうか。
娘だからと、無条件で出せる額ではない。
「アサとアースが事業計画書を出している。
それによると回収には五十年はかかるな」
五十年か。
早いのか遅いのか。
「まあ、儲けよりも五村に友好的な街ができるほうが重要だ。
場所が少し遠いのが残念だが……飛行船の運行を考えれば、悪い場所ではない。
ランダンに周辺貴族との折衝を頼んでおる。
プギャル伯爵とやらが、かなり頑張ってくれているそうだ」
へー。
プギャル伯爵とはなかなかタイミングは合わず、会えていない。
どこかでタイミングを見計らって、お礼を言いに行こう。
「では、出す方向で進めるぞ」
わかった。
頼む。
「なに。
金を出したぶん、口も出せる。
周辺の資源は押さえておきたい」
あまりウルザをいじめるなよ。
「手心はちゃんと加える」
頼むからな。
ウルザも大人数を抱えての街の復興で、大変なんだろうから。
ああ、そうだ。
ウルザのところに多目的人型機動重機を何機か送り込むか?
あれらは土木作業に使うのが目的だからな。
街を復興するのに、使えるかもしれない。
パイロットも現地で育てれば……問題はパイロットスーツぐらいか。
あ、いや、ヨルという問題があった。
いまは冬の試射に向けて弾を作ることに夢中になっているが、多目的人型機動重機のことを忘れたわけじゃない。
送り込んだら、絶対に文句を言ってくるだろう。
操縦は自分がしたいと。
…………
パイロットスーツの問題、早めになんとかしよう。
よろしくお願いします。




