二本角の馬
コカトリスたちに困っていた村だが、村の長の息子が村の長である父親を追い出し、新しい村の長に就任したそうだ。
そして、コカトリスたちを捕獲した五村に対して、かなり好意的な姿勢を見せているので多少の無茶を言っても大丈夫だとヨウコが報告してくれた。
無茶を言う気はないけどな。
コカトリスたちの捕獲には、神社の銀狐族たちが頑張ったそうだ。
「神社でのんびりと暮らすことは悪くないが、たまには戦わんと腕が鈍る。
いい機会であった」
そういうことらしい。
「それと、頼れば簡単に動くと思われても困る。
力を見せておかんと」
暴力とかは駄目だぞ。
「そのような真似はさせん。
安心せい」
それなら、かまわないが……
そういえば、向こうはどうして五村を頼ってきたんだ?
これまで交流はなかったんだろ?
旅人の噂か?
「いや、新しく村の長になった息子が、五村を訪れたことがあったらしい。
そこで警備隊の強さを目の当たりにしたそうだ」
それでか。
「うむ。
ああ、今回は村の用地利用を対価とさせた。
飛行船の発着場も作れるぞ」
対価?
息子が村の長になって、こっち寄りになるって話じゃなかったのか?
「それはそれ、これはこれよ。
金を払えぬのなら、なにかしらは寄越してもらわんとな」
それで飛行船の発着場のための土地か。
まだまだ先の話だと思うが?
「そうだが手は打っておいたほうがよい。
場所が不都合なら、取りやめればいいだけだ」
ふむ。
まあ、その村に関してはヨウコに任せる。
コカトリスのほうはどうだ?
「問題はない。
強いて言うなら、コカトリスたちがいる牧場の近くを通りかかった者から、コカトリスが助けてほしそうに鳴いていると通報が入るぐらいだな」
助けてほしそうなのか。
「相当にあの鶏が怖いらしい。
まあ、気にせずに現状維持だがな」
そ、そうか。
「それと、産卵は確認できたらしい。
あとは孵化までもっていけるかだな。
数を増やせる算段がついてからでないと肉にはできん」
最初のコカトリスたちは、功労者……いや、功労鶏だ。
できるだけ肉にはしない方向で。
「わかっておる。
飼育スタッフには焦らず、気長にやるように言うておいた」
ありがとう。
冬を前に、蜂たちの様子を見にいく。
蜂たちは元気そうだ。
太った女王蜂も健在。
相も変わらず、ごろごろしている。
その太った女王蜂と少し情報交換。
現状、問題らしい問題はないらしい。
それはなにより。
まあ、なにかあったら兵隊蜂が報告に来るか。
遠慮はしなくていいからな。
ああ、蜂蜜は助かっている。
子供たちや妖精女王、あとは村の女性陣が大喜びだ。
そうそう、蜂の一部を四村……空に浮かぶ島にある村なんだが、そう飛んでいるだろ。
あそこに一部の蜂を移住させて欲しいとの要望があってな。
天敵らしい天敵はいないはずだ。
わかっている。
お前に行けと言っているわけじゃない。
誰か適任はいないかなということだ。
急いでいる話じゃない。
春になったらでかまわないから、候補があったら頼む。
ははは、あてにせず待っているよ。
牧場エリアの丘の稜線に、山羊たちが並んでいた。
体の向きはバラバラだが、見ている方向は一緒。
俺だ。
俺が牧場エリアに入ると同時に、山羊たちが並びだした。
そして、ボスであろう山羊が一声鳴くと、俺に向かっての突進。
おお、なかなかの統率力。
すごいぞ。
しかし……
俺の近くに、クロとユキがいることに気づいていないのかな?
あの勢い、気づいていないな。
クロとユキはメレオの透明になる体液を利用した迷彩マントを着用しているからな。
でも、頭は出しているんだぞ。
ちなみに、この状態のクロとユキを初めて見た人たちからは、生首が飛んでいると驚かれて不評だ。
あ、クロとユキ。
山羊たちのあれは悪意ではなく、ただのコミュニケーションだから。
最近、かまわなかったから拗ねているんだろう。
だから、手加減してやってくれ。
そう頼んだのだけど、必要なかった。
山羊たちがクロとユキの存在に気づき、方向転換をして逃げていったから。
結構、近くに来るまで気づかなかったな。
迷彩マントの効果がすごいのか、山羊たちが俺しか見てなかったのか。
クロとユキが追うかどうか確認してきたので、追わないでやってくれと頼んだ。
さて。
俺が牧場エリアに来たのは、山羊たちと戯れるためではない。
目的は馬だ。
うん、少し前に綺麗にしたから見栄えがいい。
が、一頭。
すごく汚れたというか、野性味溢れる二本角の馬がいた。
角があるのに馬でいいのか?
ユニコーンにも角があるからセーフ。
馬だ。
角は山羊っぽいけど、体格は完全に馬だしな。
ただ、ほかの馬たちより一回り大きい。
ソリを曳く、ばんえい馬みたいなものかな。
この二本角の馬が牧場エリアに現れたのでどうしましょうと、馬たちの世話をしている獣人族の女の子たちに相談されたので俺は牧場エリアに来たわけだが……
二本角の馬は、俺を見て。
『あっしのような駄馬のことなど、お気になさらないでくだせぇ』
といった感じで、腰が低い。
見た目とは全然、違うな。
温厚なのはいいことだ。
そう褒めようとしたら、俺の近くにいた馬が教えてくれた。
やってきた当初の二本角の馬は好戦的だったらしい。
『もっとも強いやつ……出てこいっ!
叩きのめしてくれる!』
そう吠えたそうだ。
牧場エリアには妊娠中の馬もいたので、馬たちも無視できずに仕方なく相手をした。
その結果があれと。
『あっしは隅のほう……ええ、隅のほうにいますんで。
なにかあったらお呼びください。
即座に駆けつけます』
二本角の馬は、一回も勝てなかったのか?
力比べも走力も完敗してたと。
なるほど、二本角の馬は温厚なのではなく、自信を失っただけか。
それで、群れの一員としては迎え入れるのか?
そのつもりだけど、最終判断は俺?
お前たちに問題がなければ、迎え入れてかまわないぞ。
暴れないように、お前たちが見張ってくれるんだろ?
よし、頼んだ。
馬の世話をしている獣人族の女の子たちには、俺から伝えておこう。
二本角の馬も洗ってやらないといけないからな。
二本角の馬。
ルーに確認すると、バイコーンという種族の魔獣らしい。
かなり希少らしく、一部の地域では信仰の対象になったり、伝説の存在とまで言われるそうだ。
『よっ、さすがボス!
いい走りっ!』
牧場エリアの馬たちをよいしょしている姿からは、そういった雰囲気を感じることはできないが……
元気でいるなら、かまわない。
よろしくお願いします。