秋の収穫と書類仕事
秋の収穫が始まった。
黙々と収穫するが、目立つのは多目的人型機動重機。
まずは小さい多目的人型機動重機に乗り込み、収穫をするクリム。
人の手よりも速く広範囲を掘り起こせるので、収穫の助けになっている。
さすが重機ということか。
収穫物を傷つけないようにしているのもいい。
そして、山エルフたちが乗った通常サイズの四機の多目的人型機動重機は、畑の周囲で大量の収穫物を一気に運んでいる。
まあ、収穫の速度に限界があるので四機がフル稼働ではなく、二機ずつ交代で働いているけど。
なんにせよ、収穫の大きな戦力になっている。
ありがたい。
そして、よかった。
多目的人型機動重機の活用の場があって。
一部からは、俺や山エルフの玩具扱いだからなぁ。
秋なので、ほかの村々も収穫中。
外部に売る作物が、続々と大樹の村にやってくる。
ここで大活躍しているのが、氷の魔物。
大きな小屋の中に氷柱をいくつも生み出し、冷蔵庫にしている。
すごいぞ!
さらに、氷の魔物が篭ることで、冷凍庫にもなる。
素晴らしい!
でも、退屈してないか?
大丈夫?
数字のパズルを考えている?
あー、氷に彫りながら考えているのね。
記録できる紙とか板とかを差し入れておくよ。
あと、外に出たいときは遠慮なく言ってくれ。
閉じ込める気はないからな。
それに、ここは作物の一時預かり場所だから。
長くても二週間ぐらいだ。
ユーリが収穫を手伝いに来てくれた。
ユーリは山エルフの一人と交代して多目的人型機動重機に乗ったのだけど、やはり操縦が上手い。
動きでユーリが乗っている重機がわかる。
操縦の上手さではクリムに匹敵するだろう。
そのクリムの活躍で、ほかの子供たちが負けるものかと頑張ってくれた。
前々から、収穫時期は勉強よりも、収穫の手伝いをしてもらっている。
このあたりは、勉強だけでなく親の仕事の手伝いをさせるべきだという親たちの意見を採用したからだ。
まあ、校外学習……ではないが、収穫の手伝いも一つの経験だろう。
していないよりは、しているほうがいい。
楽しく収穫しているみたいだしな。
収穫が終了。
あとは文官娘衆に任せ、俺は俺で冬の作物を少しだけ作る。
クリムが小さい多目的人型機動重機で畑仕事をしたいと希望したので、一部の土地を任せた。
もちろん、【万能農具】で耕してからだ。
そうじゃないと、このあたりではまともに作物が育たないからな。
クリムに負けないように、俺も頑張るとしよう。
……
クリムの畑で育てる苗なり、種なりがいるな。
用意しておこう。
収穫が終われば、次は武闘会。
その準備に村が動く。
俺も……と言いたかったが、俺は大樹の村で五村関連の仕事。
まあ、大半が承認と確認だけど。
「お手数をおかけしてすみません」
いやいや。
俺が五村に行けば済むのだけど、今回は大樹の村にナナが来てくれた。
とても助かる。
「あはは。
この時期に村長が五村に顔を出すと、いろいろと収拾がつかなくなるので」
……そうなのか?
「五村も収穫時期なうえ、大樹の村から運び込まれた収穫物が山積みですので」
そうだな。
「つまり、大量の商材を抱えている状態です。
ゴロウン商会やダルフォン商会は直通ルートがあるので弁えていますが、それ以外の商会からめちゃくちゃ面会予約が入っていますよ」
あー。
少し前に、もう少し顔を出すべきかと言ったら、ヨウコから現状でかまわないと返されたのは、それがあるからか。
「現状、村長不在で押し通していますので、顔を出されると……」
わかったわかった。
混乱を起こす気はない。
それに、行って面会をしたとしても「ヨウコに任せた」「ヨウコと話し合ってくれ」ぐらいしか言えないだろうしな。
「すみません。
あと、警護の兼ね合いもあります」
護衛?
ガルフやダガ、レギンレイヴでは駄目か?
「ガルフさんたちに任せて、五村がなにもしないのも問題なので」
なるほど。
収穫時期で忙しいときに俺が顔を出すと、護衛に人手が取られると。
「そうなります。
なので、こちらでお願いします」
わかった。
ナナを早く五村に帰すためにも、急いで終わらせよう。
俺は報告の書かれた板を手にした。
いくつかの報告を読んだあと、気になることをナナに確認する。
ゴズラン王国の第三王女の同行者。
ゴズラン王国で内政をやっていたとあるが、なぜ文官に採用しないんだ?
他国の人間と警戒しているとしても、機密の少ない場所を任せたらいいと思うんだが?
「それですが、本人たちから能力不足だと断られまして」
そうなのか?
「ええ。
ゴズラン王国は周辺国からは内政に優れた国と評判でした。
ですが、それは周辺国と比べた場合で……」
それでも、未経験者よりはマシだと思うが?
「未経験者よりはマシという感じでは、忙しい時期に採用するのは互いにリスクがありまして」
な、なるほど。
「余裕のある時期に、希望者に現場で研修をしてもらおうとヨウコさまは考えています」
わかった。
それじゃあ次は……
一人乗り飛行船に関してなんだが、一人乗り飛行船は飛行船の建造のサンプルじゃなかったのか?
なんで増産計画が出てくる?
「とても評判がよかったからです」
そうなの?
「はい。
飛べない者からすれば、未知の体験ですから」
あー。
「村議会議員が列をなして、空を楽しみました。
私も乗りました。
あれはいいものです」
そ、そうか。
ただ、護衛が同行できない点が問題とされているが……
「そうですね。
安全な航路の構築が急務でしょう」
急務か。
「はい。
航路に関しての提案書もいくつか出てます」
ナナがまだ見ていない板を指さす。
あ、これか。
五村上空に限定した軽輸送航路と、五村とシャシャートの街を繋ぐ観光航路ね。
「軽輸送航路は、村長が提案していた手紙の配達事業の試験運用です。
とりあえずは五村内での手紙の運搬で様子をみようという感じですね」
ふむ。
「観光航路は、娯楽重視です。
単機では危ないので、複数機で移動する感じになります」
なるほど。
しかし、それなら大型の飛行船のほうが楽そうだが……
「一人で自由に操縦できるのがいいのです」
まあ、気持ちがわからなくもない。
ただ、増産となると駐機場を広くする必要があるな。
「それらの提案も……」
こっちね。
五村での飛行船運用に関しての土地確保事業の改定案と。
以前のものより、土地を広く確保することになっている。
「万が一の事故対策もあります。
離着陸時がもっとも危ないと山エルフのみなさまから意見を頂いていますので」
そうだな。
ああ、それなら手のあいたときでかまわないから、キッシンリー夫妻から飛行船の運用に関してアドバイスをもらってもらえるか。
「キッシンリー夫妻ですか……」
あ、すまない。
フォーグマはキッシンリーに思うところがあったな。
配慮が足りなかった。
「いえ。
いまは同じ村長のために働く者です。
正直、わだかまりが完全に消えたとは言えませんが、村長がお気になさる必要はありません」
無理するな。
俺からミヨに聞いておく。
重要な話が聞けるとは限らないしな。
「すみません」
気にするな。
でー……特設会場での多目的人型機動重機同士の決闘か。
ユーリの根回しで進んだのだろう。
だが、こっちはしばらくは無理だ。
「無理ですか」
修理部品がな。
代替できないものもあって、それが壊れると動かない。
クリムの魂と接触する前の一号機、ジークフリートがそうだった。
多目的人型機動重機同士の決闘は、どれだけ安全に注意したとしても十メートル前後の巨体同士のぶつかりあいだ。
なにかしら不具合がでるだろう。
もう少し部品なり、動く多目的人型機動重機が集まれば考えるが……
現状は厳しい。
あと、まともに動かせる者が少ない。
クリムが小さい多目的人型機動重機以外を動かせるかは不明だから、パイロットとして数えられるのはユーリぐらいだろう。
山エルフたちの操縦は、動きがたどたどしいからな。
多目的人型機動重機のパイロットの育成、パイロットスーツの生産……
多目的人型機動重機の数と運用が限られる現状では、どちらも無駄になりそうなので厳しいと言わざるをえない。
戦わせるのではなく、パレードなどのイベントでは使えると思うけどな。
「わかりました。
残念です」
なんだ、戦いを見たかったのか?
「それはもう。
あの大きさの重機がぶつかるわけですから。
大迫力、間違いなしでしょう」
そうだな。
俺も見られるなら見たいが……
せっかく動く四機の多目的人型機動重機を、動かなくなる危険にはさらせない。
多目的人型機動重機の専門家とかがいたらなぁ。
だが、古さを考えると……
始祖さんかヴェルサの知り合いにいないかな?
今度、聞いてみよう。
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