ゴズラン王国の第三王女
よろしく。
三重に封のされたティゼルの手紙には、それだけしか書かれていなかった。
あぶり出しではなかった。
水につけても文字は浮かび上がらなかった。
封のほうになにか仕掛けがあるのかもしれないと疑ったが、なにもなかった。
あと、考えられるのは魔法による反応……
いや、暗号の可能性も。
そうか、圧縮言語!
この四文字に複雑な意味が込められているに違いない!
つまり、よろしくの“よ”は……“よろしく”ということ。
よろしくの“ろ”は……
「村長。
諦めよ。
それしか書かれておらぬ」
いや、しかし。
それでは、あんまりだ。
この手紙を運んできた姫たちに申し訳ない。
「い、いやいや、よいほうに考えよ。
姫たちを五村に逃がすための方便として急いで用意した手紙ゆえ、短くなってしまったのではないか」
な、なるほど。
「ありえるだろう」
そうだな。
それで、悪いほうに考えれば?
「文字を書く余裕がない状況だったとか?」
三重の封をしてあるのに?
封をした手紙を別の手紙に包んで封をして、もう一回同じことをする余裕があるのに?
「……よ、余計なことを書いて叱られないように、短く書いている……とか?」
どの可能性が高いと思う?
「……そ、村長の考えと一緒だ」
そうか。
父親としては最初の急いで用意したから短くなってしまったを選びたい。
とりあえず、俺はヨウコと軽い食事をし、別の仕事を少ししたところで姫に会談を申し込んだ。
姫たちの今後を相談するためだ。
姫たちは食事が終わってまったりしているとの報告を受けてからの申し込みだが、すぐには無理だろう。
ヨウコとしては意趣返しを込めて数日、待たされることも覚悟していた。
だが、姫たちからはいますぐにでもと言われて会談がセッティングされた。
場所は空いていた小さめの会議室。
出席者はこちらからは俺とヨウコ。
向こうは謁見に出た三人。
そうそう、あの謁見の間。
この姫たちとの謁見のために、急いで会議室を改造して用意した部屋だったらしい。
どうりで俺が知らないはずだ。
「お話できる場を作っていただき、ありがとうございます」
姫がやってきて、着席するや礼を言った。
謁見のときも思ったが、まだ小さいのにしっかりしている。
だが、やはり小さい子だ。
無理はさせてはいけない。
余計なことはせず、本題に入ろう。
ヨウコが俺の意図を汲んで、話を進めてくれる。
「貴国……ゴズラン王国のことは聞き及んでいる。
お主らがジドエン王国に追われる身であることも」
ゴズラン王国を滅ぼしたのはジドエン王国らしい。
「お主らはこれからどうするつもりだ?
ティゼルの手紙を運んでもらった礼というわけではないが、わざわざ来てくれたのだ。
できるだけの手伝いをしようと考えている」
姫は変わらないが、同席している二人が喜んだ雰囲気を出した。
俺に察せられるとは、甘いと言わざるをえない。
が、いまは助かる。
手伝うのが余計なお世話とかじゃないようだ。
よかった。
「安住の地を探したいというなら、探す手伝いを。
国に戻りたいというなら、戻る手伝いを。
五村に留まりたいというなら、留まる手伝いをしよう」
うん、全力で手伝う。
「ただ、お主らのこれからをいますぐ決めて答えよと言ってもむずかしかろう。
この地まで供をした者たちと語らってからでよいので……」
「五村で生活するので、よろしくお願いします!」
……
姫が食い気味に答えた。
同席の二人は……強く頷いている。
「よ、よいのか?
その、五村で暮らすなら、五村に馴染む努力をしてもらわねばならぬが」
これは当然の要求。
「もちろんです!
ただ、私たちには頼る者がおらず、当面の生活費も苦しく……」
強く訴える姫を、同席の二人が止める。
「姫、涙を!
涙を流すのです!」
「ここが勝負所です!」
あ、違う。
止めてなかった。
「わ、わかった。
落ち着け。
あー、どういった手伝いが必要だ」
ヨウコがまっすぐに聞いた。
「当面の生活費!
住居、あと職探し!」
姫がまっすぐに答えた。
遠慮がないな。
だが、五十人の生活を背負っていると考えると当然か。
遠慮なんかしていたら、困窮するだけだ。
「よかろう。
ただ、住居に関しては……五十人を全て同じ建物にというのは難しい」
「近所ならかまいません!」
「う、うむ。
では、そのように手配しよう。
少し時間はかかるであろうが、それまではこちらの用意した宿で過ごしていただきたい」
「ありがとうございます!」
「当面の生活費は村長のほうから」
銀貨百枚ぐらいでいいか?
「ありがとうございます!!」
あ、忠誠のポーズとかはやめて。
困るから。
「職に関しては……個々にやれることを聞いてからだな」
「ケーキを売る仕事を希望します」
姫はそう言っているけど、小さい子を働かせるのはどうかと思う。
同席した二人は……白鳥レースの調教師とラーメン店の店員を希望している。
まあ、希望したからと絶対に叶えられるわけではない。
相応の努力はしてもらわないといけない。
その覚悟があるかどうかだな。
「職探しの専門家を派遣する。
希望はその者と相談してもらえるか」
「わかりました。
本当にありがとうございます」
「うむ。
あー、ジドエン王国や、ゴズラン王国のほかの王族の情報が必要か?
手に入れば伝えるぞ」
「不要です!」
全力で断ったな。
いいのか?
故郷や家族のことだろ?
「承知した。
五村にようこそ」
ヨウコはそう言って、姫との会談が終わった。
俺とヨウコはヨウコの執務室に戻る。
「最後のは、五村を拠点にゴズラン王国の再興を考えているかどうかの問いよ」
ああ、そういう意図か。
それを全力で断ったということは。
「五村で世話になっているあいだは、考えないということであろう」
なるほど。
小さい子に、変な覚悟をさせてしまったか?
「いやいや。
再興の考えはないから、できるだけ助けてほしいと言っておるのよ。
ふふふ。
なかなか頭がまわる。
将来は五村の文官になってもらいたいものだな」
そうだな。
文官は常に人手不足。
才能ある者は歓迎したい。
もう少し大きくなったら、どこかの学園を推薦するか?
「本人が望むのであればな。
その際は、五村の学園に通ってもらいたいものだ」
そうだな。
ほかの場所だと、戻って来ない可能性があるか。
「うむ。
わざわざよそに優れた芽を見せる必要はない」
まあ、それも本人の意向次第だな。
無理強いは駄目だぞ。
「わかっておる、わかっておる。
強引な真似はせん。
安心せい」
ははは、信用しているよ。
村長 「これは……圧縮言語!」
ヨウコ 「村長! これは、あいうえお作文のお題ではない! 残念ながらティゼルからの手紙だ」
ティア 「頑張ったと思います」
ルィンシァ 「同じ手紙をもらった覚えがある……(泣)」
姫の同行者A「経済の大きさが違いすぎる」
姫の同行者B「ここで内政を手伝えと言われても……」
姫の同行者C「勉強、勉強するしかない! 頑張ろう!」
村長 「学園に行かせるか」
ヨウコ 「学園に行かせるなら五村の学園に」
村長 「囲い込みは駄目だぞ」
ヨウコ 「最初に目をつけたのは、我なのに」